2014年シーズン、日本社会人Xリーグを中心におよそ60試合撮影したアメリカンフットボールの中で、最も面白かった試合はと問われれば、11月30日の社会人準決勝、富士通フロンティア-ズ対オービック・シーガルズ戦、と即答する。
 その同じ対戦が、今週の土曜日、10月17日に富士通スタジアム川崎である。同スタジアムが作った事前のポスターには「決戦ではない、決闘だ」というコピーが踊っている。個人的には、まさにその通りだと思う。


 昨年まで5年連続で秋シーズンに対戦してきた宿敵同士の戦績はオービックの4勝1敗だ。今年は立場が入れ替わった。昨シーズン、悲願のライスボウル制覇を果たし、今季も4戦全勝の王者・富士通に対し、ノジマ相模原ライズに敗れて3勝1敗のオービックは、挑戦者となった。


 ここで、両チームが所属する東地区についておさらいしたい。富士通対オービック戦の前に行われるノジマ相模原対明治安田ペンタオーシャン戦(アミノバイタルフィールド)で、ノジマ相模原が勝った場合。
①富士通が勝利すると、1位富士通(5勝)、2位ノジマ相模原(4勝1敗)、3位オービック(3勝2敗)
②オービックが12点差以内で勝つと、1位富士通、2位オービック、3位ノジマ相模原
③オービックが12点差以上で勝つと、1位オービック、2位富士通、3位ノジマ相模原
となる。
②と③は、3チームが4勝1敗で並ぶが、リーグ規定の「当該チーム間の直接対決得失点差(1試合上限20点)」によって順位が決定する。注目すべきは、順位より勝敗数だ。ファーストステージで2敗したチームは、セカンドステージ以降の勝ち上がりがきわめて困難になる。少なくとも自力ではたどり着けない。オービックはもう負けられない「崖っぷち」だ。


 オービックのジャレッド・ウッドルフ・コーディネーターが今季導入したオフェンスは、スプレッド隊形からノーハドル、ハリーアップで展開する。同種の戦術は、現在はNFLイーグルスのチップ・ケリー・ヘッドコーチ(HC)が、オレゴン大学時代に全米に旋風を巻き起こした。
 ボールデッドから次のスナップまでの時間を巧みにコントロールして相手ディフェンスを混乱させる。今夏の世界選手権でも、練習期間が短かったはずの米国代表が駆使するなど、米では主流の戦術だ。


 このオフェンスはQBにクイックリリースや走力などさまざまな能力を求める。オービックがノジマ相模原に敗れた後、第3節の明治安田戦、第4節のオール三菱戦の先発QBに、実戦経験が豊富な菅原俊ではなく、関学大時代からボールを動かす能力に長けた畑卓志郎を起用してきた理由もここにある。


 オフェンスの課題は精度とテンポだ。オール三菱戦、畑は同じノーハドルの中で次のスナップまでの時間が短いプレーでは、ランでもパスでも良い結果につながっていた。
 畑は「オフェンスがハリーセットして、テンポ良く進めていければ、相手ディフェンスは疲れる。ミスリードやミスカバーも生じやすくなる」と話し、前のプレーが終了後12、13秒で次のプレーを始められるように意識して練習をしているという。


 大橋誠HCは、富士通戦の先発QBを、畑にするか菅原にするかは「(10月第2週の)3連休での練習で最終的に決める」という。
 畑には関学大出身のQBに共通する、練習量とプレーの遂行力が正比例する特徴があるようだ。クラブチームのオービックは、原則として土曜日を含む休日にしか練習ができない。ミス連発のらしからぬ攻撃で自滅した9月13日のノジマ相模原戦以降に、5連休と3連休があり、まとまった練習ができたのは好材料だ。
 「パスのコントロールミス、レシーバーの落球。富士通相手には許されない。練習でつぶしていく」と語る畑。富士通の藤田智HCが「まったく別のチームになっているはず」と警戒する理由の一つだろう。


 もう一つの鍵は、やはりWR木下典明だ。木下の存在は過去の対戦では富士通にとって悪夢だった。2011年のジャパンXボウルでは、パスレシーブ2、キックオフリターン(KOR)1と合計3タッチダウン(TD)を決めた。2013年の同大会では、マンツーマンカバーの富士通DBアルリワン・アディヤミを振り切ってエンドゾーン奥で先制TDパスをキャッチした。
 昨年の対戦ではパスレシーブは1回9ヤードながら1TD、第4クオーターには98ヤードのKORTDを決めた。第4節のオール三菱戦で負傷欠場した木下の回復具合が、勝敗を左右するのは間違いない。


 オービックはオフェンスに比べ、ディフェンスは好調だ。IBMのケビン・クラフトら、米国人QBとの対戦経験も豊富だ。しかし、QBコービー・キャメロン率いる富士通オフェンスは、高得点能力を持ちながら、ターンオーバーなど大きなミスが少ない。
 今季は開幕から3戦は負傷明けのキャメロンの調子を上げること主眼を置き、パス攻撃で圧倒。ノジマ相模原戦では、エースWR中村輝晃クラークを序盤で負傷で欠きながら、控え選手が活躍し完勝した。自在の勝ち方ができる強みに加え、中村クラークもオービック戦には復活するだろう。ロースコアに持ち込むのは難しいのではないか。


 昨年まで、小欄ではオービックをテーマにすることが多かった。ライスボウル4連覇の王者だから必然だった。しかし、今季は取り上げる機会が明らかに減った。オービックが弱くなったのかと聞かれれば、違うと答える。
 しかし、他チームの劇的変貌に比べ変化の度合いが足りないように感じるのは事実だ。あるいは、オービックが突出していたレベルに他のチームが追いついてきたと言った方がいい。


 WR木下、DLケビン・ジャクソン、LB古庄直樹、RB古谷拓也ら、各ポジションで日本のアメフットをリードしてきたベテランが、故障やチーム事情などで、ビッグプレーを見せる機会が少しづつ減ってきた。 
 代わりに、RB望月麻樹、DB砂川敬三郎、LB澤田遥らに代表される世代が台頭してきた。それでも大橋HCには物足りないのではないか。


 1敗もできない状況だが、大橋HCは「試合の序盤で様子見をしないことが大事」という。富士通の強さは認識しているが「意識しすぎることがいいのかというジレンマがある。自分たちがやれるプレーではなく、富士通の出方に合わせたプレーになってしまう」。
 本来オービックは、そういう戦い方は得意ではないチームだ。「オフェンスはやることをやれば出る、ディフェンスもやることをやれば止められる。それくらいの開き直りが必要」と話した。


 10月12日、米NFLのマンデーナイトフットボール、スティーラーズ対チャージャーズで、3点差で負けていたスティーラーズが試合最後のプレーで究極の選択をした。第4クオーター残り5秒でゴールまで1ヤード、フィールドゴール(FG)ならほぼ間違いなく決まる距離で、同点オーバータイムとなる。
 しかしスティーラーズはランプレーをコール。RBレビオン・ベルが劇的なTDを決めて逆転勝ちした。状況は違うが、昨年11月の富士通―オービックの決断を改めて思い出した。第4クオーター終盤で、富士通はFGを蹴らずにギャンブル、キャメロンがTDを奪って試合を決めた場面だ。


 戦力、実力が近くても、結果的に大差の試合となることもある。宿敵同士の戦いなら、互いに力を尽くした攻防の果てに、最少点差で終盤を迎え、コーチが決断し、選手がやり切ったチームが最後のプレーで勝つ。そういう試合が見たい。今回の対決はどうなるのだろうか。

【写真】2013年、富士通DBアディヤミを振り切ってTDパスをキャッチしたオービックWR木下=撮影:Yosei Kozano