昨シーズン、Xリーグの最激戦区は富士通フロンティアーズ、ノジマ相模原ライズ、IBMビッグブルーが集った東地区だった。今季の最激戦区も東だろう。
 オービック・シーガルズがIBMの代わりに加わって、競り合いの激しさがいっそう増した。地区が同じでなければ、この3チームがそろってファイナルステージ(ベスト4)に進出してもおかしくない。9月13日、ホームの相模原ギオンスタジアムに、ノジマがオービックをむかえる一戦は、第2節注目のカードだ。


 現時点で学生まで含めた日本のアメリカンフットボールチームのランキングを作るとしたら、上位2チームが富士通、オービックになると思う。どちらが1位に来るかは意見が分かれるだろうが、大半のファンや関係者も同じ評価ではないか。
 戦力面で一歩遅れをとっていたノジマ相模原は米国人選手3人を補強、2強に割って入ろうとしている。先月小欄でQBベンジャミン・アンダーソンについて書いた。しかし、個人的には、アンダーソン以上の選手がLBのアート・ロウレル(ハワイ大)ではないかと思う。


 183センチ、111キロと決して大きくはない。基本はミドルLBだが、アウトサイドLBとしても、DEとしてもプレーできる。
 さまざまなポジションにセットすることで、オフェンスを幻惑する。プレーヤーとしては、一歩目が正確で速い。運動量が豊富で、ランでもパスでも、ボールのあるところに出現しては、相手を確実に追い詰めてタックルする。
 ハワイ大時代は2年生のシーズンに9QBサック61タックルを記録するなど、3シーズン通算で16サック、189タックル、3インターセプト。オールマイティーな、ディフェンスのジョーカーになり得る選手だ。


 DBマヌ・ナティカウラも面白い。ヘルメットからはみ出た長髪は、昨シーズンで引退したNFLのスーパースターDBトロイ・ポラマルにそっくりだ。似ているのは外見だけではない。40ヤード4秒4を切るというスピードでボールめがけて飛び込む。パスカバーは決してうまくはないが、オフェンスにとっては異次元の動きをする選手だ。


 新たな米国人選手の個々の能力もさることながら、ノジマ相模原の今回の補強で注目されるのは、ケミストリーだ。補強というと弱いポジションを重点的に強化することを考えがちだが、私は違う考えを持っている。
 良い選手がいるポジションやその周辺ポジションに、さらに良い選手を加えると、1+1が2ではなく、3にも4にもなる場合がある。QBアンダーソンにはRB宮幸崇と東松瑛介。ロウレルには、LB田中喜貴というように、良いコンビネーションを形成できる日本人選手がいる。新たなアメリカンパワーが日本人の能力をいっそう引き出す可能性がある。


 しかし、6日に富士通スタジアム川崎で行われたノジマ相模原の今季初戦、オール三菱ライオンズとのゲームは、私の期待を裏切る出来だった。先発したQBアンダーソンは、ランを封印し、レシーバーを探してボールを持ち過ぎのように見えた。
 前半は得点できずに荒木裕一朗と交代。後半に再登場後は、積極的にランに出てオール三菱ディフェンスを攻略する端緒となった。とはいえパスではTDゼロで2インターセプトと精彩を欠いた。


 LBロウレルは左サイドのDEとして起用された。警戒したオール三菱のオフェンスが、ロウレルのサイドを避けたプレーが多かったため見せ場は少なかった。
 ロウレルの運動量の多さを生かしきっていないように思えた。DBマヌはもう少しでインターセプトというプレーもあったが、オール三菱に唯一決められたTDは、マヌがマンツーマンでカバーしていたTE祖父江俊介に高さのミスマッチで通されたパスだった。3人ともに本来の能力を十分に出せたとは言いがたいし、ケミカルも生じていなかった。


 ノジマ相模原の須永恭通ヘッドコーチ(HC)は「楽な試合になるとは思っていなかったが、予想していた嫌な方の展開になってしまった」と話した。


 アンダーソンは、8月にチームに合流して練習を重ねていたが、直前の練習ができずに調整不足だったそうだ。須永HCは「タイミングなど、いったん良い感じに仕上がったものが、崩れてしまった。彼がインターセプトされるのは、練習でも見たことがない」という。「アンダーソンのランは武器ではあるけれど、そこに頼るとオフェンスの広がりがなくなる」と話す。
 ロウレルについては「能力が高いので、いろいろとやってもらう」とだけ語った。オービック戦では起用法がかなり変わる可能性はある。


 オール三菱は過去2シーズン続けて、セカンドステージの下位リーグ「バトル9」で1位となった。今季は上位チームを倒して3位以内に入ることを目標としている。苦戦はやむをえなかった部分もある。


 私がむしろ気になったのは、彼らのプレーではなくサイドラインでの姿だ。アンダーソン、ロウレル、マヌが、周囲とあまりコミュニケートできていないように感じた。
 3人とも夏からの合流なので比較するのが酷かもしれないが、日本人も米国人もなく密接な一体感があるオービックは言わずもがな、IBMや富士通と比べてもチームに米国人選手が溶け込んでいないように感じた。米国人選手としては先輩のOLデレク・ファービーもどちらかと言えば寡黙なタイプだけに、日本人の選手がもっと積極的に彼らに声をかけていく必要がある。


 一方のオービック。5日の今季初戦では、警視庁イーグルスを59-3で一蹴した。警視庁はフィジカルに優れコンディションの良い選手が多い。オフェンスには課題は残るものの、ディフェンスは春季交流戦2試合で3失点とX1中堅クラスのチームに匹敵する力を持つ。その警視庁ディフェンスをオービックは苦もなく攻略した。


 パス、ランともに好調でトータル480ヤード。一度もパントを蹴ることなく、全ドライブで得点した。オフェンスの反則はわずか1回5ヤード。全体として目に見えるミスがほとんどなかったと言っていい。
 エースQB菅原俊はパス13/13で成功率100%、1TD、畑卓志郎が7/8で2TD。新任のジャレッド・ウッドルフ攻撃コーディネーターは、RB原卓門と古谷拓也をWRとしてもセットさせる新戦術を打ち出し、原が7レシーブ118ヤード3TD、古谷が5レシーブ54ヤードと機能した。木下典明、萩山竜馬ら優れたレシーバー陣らがそろった中で、まさに「鬼に金棒」だろう。


 印象に残ったのは、第4クオーターに4番目のQBとして登場した龍村学のプレーだ。いきなりRB原に、目の覚めるようなリードボールのポストパターンパスを通して58ヤードをゲイン、次のプレーはノーハドルから13ヤードのパスをエンドゾーンの原にヒットした。
 わずか2プレーで71ヤードのTDドライブ。49点の大量リード、残り試合時間2分という状況でも、緩んだ部分を見せずにビシッと決めた。ユニットの緊張感が伝わってきた。


 オービックの大橋誠HCによると、オフェンスは春にやっていたプレーと実はほとんど変わっていないという。「違って見えるとすれば、精度が上がったり、整理されてきているから」と語る。
 そして「日本人のQBでは起こり得ないことが起こることは分かっている。そのために昨年からディフェンスの考え方を変えている」という。チームの仕上がり具合はノジマ相模原への警戒感の裏返しだ。


 初戦を見る限り、オービック優位は動かない。須永HCは「練習ではできていることを試合でコンスタントにできない。メンタルの切り替えが必要だ」と語る。ノジマ相模原が地元のファンにビッグプレゼントを贈れるか。

【写真】TDを挙げたノジマ相模原のオフェンス選手を迎える須永HC=撮影:Yosei Kozano