日本社会人アメリカンフットボールXリーグの開幕週の注目ゲーム、アサヒビール・シルバースター対LIXILディアーズ(8月30日、富士通スタジアム川崎)の一戦は、アサヒビールがLIXILを31―24で破った。


 24―24の同点で迎えた第4クオーター、アサヒビールのオフェンスはゴール前8ヤードでフォースダウンギャンブルを選択した。アサヒビールのプレーはラン。RB中島昴にLIXILディフェンス陣が群がって止めた。
 チェーンクルーが呼ばれ、計測の結果は数センチでギャンブル失敗。LIXILボールになった。残り時間は5分24秒。オフェンスの開始位置は深かったが、時間をしっかり使いながら得点をするの十分な状況だ。


 しかし、約3分後、LIXIL側スタンドの応援は悲鳴に変わった。残り2分30秒、自陣41ヤード付近からファーストダウンを狙ったQB加藤翔平のパスをアサヒビールDB大森優斗がインターセプトしたのだ。
 大森は、まっすぐサイドライン際を駆け上がったが、途中で方向を変え、右方向へフィールドを横切った。そこには誰もいなかった。インターセプトリターンタッチダウン(TD)。試合を決めた一撃となった。


 加藤のパスはサイドライン際のフェードパターンだった。大森は時間帯的に2ミニッツオフェンスになってきて、サイドライン際を狙うパスが多くなると冷静に読んでいた。「ナンバーワンターゲットが縦に真っ直ぐ上がって、ナンバーツーがコーナーに来た時に、カバー2ディフェンスだったので、ちょうどレシーバーに対して(前に出て)かぶることができた。少しコントロールミスもあった」という。


 ボールを奪った後、サイドライン際を真っ直ぐ走ろうとしたが(選手が集まってきて)前が空いていなかったため、切り替えて逆サイドを見たところ大きなゾーンが広がっていたという。「最後まで走り切って、絶対TDを取ったると考えていました」と、振り返った。
 大森は第3クオーターにも、味方のファンブルでボールを失った直後の加藤のロングパスに対して、今夏の日本代表WR永川勝也をマンツーマンでカバー、体を入れ替えて見事なインターセプトを決めていた。


 関学大出身の大森が1年生の時に、4年生のエースQBが加藤だった。会話する機会は少なかったが、練習で対戦し、パスのイメージは持ち続けていたという。「加藤さんは日本人では一番のQBだと尊敬している。だけど我々にもメイソン(ミルズ)がいる。メイソンと一緒に練習することでうまくなれている」と話した。


 この試合、アサヒビールのQBミルズはパスを決め続けた。インターセプトの前まで約60のオフェンスプレー中、48回がミルズのパス。41回を成功させ391ヤードを奪った。
 しかし、アサヒビールオフェンスが決して順調だったとはいえない。第3クオーターには、新加入の日本代表DE平澤徹に、ブラインドサイドから強烈なヒットを浴び、ファンブルした。このボールはアサヒビールが押さえたが、ミルズは直後のプレーでLB大舘賢二郎にインターセプトされ、同点に追いつかれるきっかけを作った。


 ミルズのパフォーマンスで特徴的だったのは、プレッシャーを受けてプレーが崩れたように見えてからのしぶとさだ。米国人QBとしては小柄なミルズだが、人には強い。時としてヒットを浴び、サックすれすれに追い込まれながら、左右にロールしてレシーバーを捜し、パスを決めた。


 ミルズは、平澤に浴びたサックについて「アメリカでも滅多に受けたことがないほど強烈な一撃だった」と認めながらも、「52番(平澤)が入ってくるのをチェックしなかった自分のミステーク。OLはいつもグレートジョブをしてくれている」と、若返りの進むOL陣をかばった 。
 そして「俺は、(ディフェンスの)ブリッツが大好きだ。それに対応したプレーをすればいい」と負けん気の強さを見せた。


 「この勝利は大きい。これからもチームワーク、ゲームプランニング、トゥゲザー、アンドハードワーキング」と語るミルズ。彼の魅力は、パス能力以上に、24歳ながら、全身から発散するリーダーシップだと感じた。


 一方、敗れたLIXIL。ディフェンスは多彩なアラインメントでミルズにプレッシャーをかけ続け、短いパスに対しては早いタックルでランアフターキャッチを断った。「曲がっても折れないディフェンス」はある程度奏功し、何度もゴールラインを背負いながら、決定的な失点を防いだ。


 ミルズと、ローマン・ウィルソン、林雄太ら優れたレシーバー陣のパスユニットに対して、ディフェンスが許したのは3TD。要所を守って終盤に追いついた。
 今のLIXILがXトップ級の強豪と対戦した場合の勝ちパターンが視野に入ったところだったが、最後にオフェンスでミスが出た。前半にも、捕球していればTDのパスをフリーになったレシーバーが落球するなど、らしくないミスが続いた。


 NFLを見ていると、一時代を築いた強豪チームが、主力選手の放出や引退などで戦力の端境期となったときに、経験の差を生かして「それでも勝負所を守り切って勝つ」といったゲームを重ねる時期がある。しかしそれも、ある程度の段階で通用しなくなる。今のLIXILも同様の状況に陥っているように見える。


 試合後、観戦したオーナーの荻田伍・アサヒグループホールディングス相談役が祝福。その後のハドルで、選手たちはまるで優勝したかのように雄叫びを上げて抱き合った。リーグ戦は始まったばかり。若干の違和感を覚えた。


 伝統の強豪アサヒビールは「大人のチーム」。フットボールをよく知っている選手がそろっていて、常に泰然自若、感情をストレートに表すことはあまりないイメージがあった。一方でそれは、あきらめが早く、勝負に恬淡としているようにさえ見えた近年の姿と表裏だったのかもしれない。
 歓喜を露わにするミルズ、ウィルソン、殊勲の大森、OL、DL・・・。いつの間にかシルバースターは若帰りが進んでいる。そう感じた。


 アサヒビールの岡潔ヘッドコーチ(HC)に、追い上げられて、終盤に同点に追いつかれて、嫌な雰囲気ならなかったかと質問した。「今年のチームは、そういう殻を破るために厳しい練習に取り組んできた。得点力も上がっている。この2年間で本当に選手が入れ替わった。若くアグレッシブな考えの選手が多いので、そういうことはなかった」という。


 大森も「LIXIL側に(ゲームの)流れが少し行ってるかなと思った。しかしディフェンスにできることを焦らずにやろうと切り替えた」という。
 栄光の歴史は知らない。しかし、強豪相手に負け続けた近年の屈辱もあまり味わっていない。それは決して悪いことではない。


 4年前にIBMビッグブルーに、QBケビン・クラフトが加入してから、Xリーグは大きく変わった。その中で、勝つチームであり続けるためには、チームカラーや伝統も、時代にアジャストしていかなければならない。
 強豪として再び復活するためには、より大きな変革も受け入れなければならない。それを一番理解しているのは、ゲームが終わった時、岡HCとともに自らフィールドに入ってミルズを抱きかかえて祝福した阿部敏彰監督なのかもしれない。

【写真】第2クオーター、LIXILのDL重近のタックルをかわすQBミルズ=撮影:Yosei Kozano