8月下旬になって、猛暑も一息ついた感がある。日本社会人Xリーグは今週末に秋のシーズンの開幕を迎える。
 ファーストステージ第1節で最も注目される対決は中地区のLIXILディアーズ対アサヒビール・シルバースター(30日・富士通スタジアム川崎)の一戦だ。


 日本一3度の名門アサヒビールも、近年は低迷が続いた。ファーストステージは5年連続で3勝2敗の3位が「指定席」。セカンドステージではトップチームにはまったく歯が立たない。昨シーズンは富士通に0-65、パナソニックに3-65で連敗する屈辱も味わった。
 しかし、今春加入した米カレッジフットボール出身のQBメイソン・ミルズとWRローマン・ウィルソンがチームを変えようとしている。春の交流戦では、IBMに34―9、ノジマ相模原には31―6と、ともにパス攻撃で上回って大勝した。


 攻守のラインでも新戦力の台頭が目覚ましい。DLでは関東学生屈指のパスラッシャーだった小林貴(法大)と松尾佳郎(日大)ら5人が新加入。OLにも、林田孝平(関大)、田渕裕也(関学大)というサイズのあるルーキーが加わった。
 田渕はライスボウルでオービックと戦い、ケビン・ジャクソン(オービック)と渡り合った経験も持つ。24歳の副将の松元裕樹、鈴木悠平らと「U25」カルテットを形成する。


 RBでは拓大時代にQBながらシーズン1000ヤードを走ったルーキー柳沢拓弥の評価が高い。180センチ、92キロで、爆発的な走りを見せる。
 背番号10は、大学の先輩で、1990年代にポール・ラッシュ杯(ライスボウルMVP)を2年連続受賞した名RB野村貴さんのように、というチームの期待を表している。
 新たな歴史を作るべく臨む大事なシーズン初戦。岡潔ヘッドコーチ(HC)は「古豪と言われ続けてきたが、今の我々はチャレンジャー。(ファーストステージで)3位のチームというレベルを変えたい」と意気込む。


 LIXILは、トップ9チームの中で米国人選手なしの戦いを継続する唯一のチームとなった。さらに、鹿島時代を支えた選手が次々に引退し、過渡期にある状態は昨年と変わらない。違うのは、そんなチーム状態でも、日本代表の枢要なポジションに7人の選手を送り出したことだ。


 世界選手権では日本代表のエースとして、強力な米国ディフェンス相手にクイックリリースで対抗したQB加藤翔平は一皮むけた。数字上では米国代表の2人のQBに後れを取ったが、彼我のオフェンスラインの差を考えると、世界選手権で最も優れたパサーだったと私には思えた。後から見た中継映像でも、現地解説者が絶賛していた。


 前田直輝、宮本康弘、永川勝也のWRトリオはそれぞれに磨きがかかった。前田は、木下典明(オービック)、栗原崇(IBM)とともに、日本のエースレシーバーとして活躍。永川は、3人目のQBとしてもプレー、幅を広げた。宮本は脳しんとうで大半を欠場した悔しさをぶつけるだろう。


 不動のセンターとしてプレーし続けたOL荒井航平、米国やメキシコの巨漢OLにスピードで勝負したDL平澤徹、RBの切れとスピードにタックルで挑んだLB天谷謙介。いずれもプレーヤーとして階段を一つ上がったと言える。


 本来なら新任で、新システムのインストールに時間がかかるはずの富永一オフェンスコーディネーターだが、日本代表でも同職だった。代表の戦術とはコンセプト的に似た部分も多く、加藤と3人のレシーバー陣は十分に仕上がっているはずだ。


 外国人加入がないとはいえ、即戦力の補強も進んだ。手薄だったTEには、パナソニックでオールXリーグにも輝いた吉田武蔵が加わった。前述の平澤もアサヒ飲料からの移籍だ。課題だったパスラッシュ力をもたらせるか。
 LIXILの課題は選手層だ。鹿島時代は、社会人屈指の陣容を誇ったOL、RB、DBは世代交代期だ。ルーキーのOL山形明弘(立教大)、RB岡部朋也(京大)に即戦力の期待がかかるが、全体として層の薄さは否めない。


 DLは重近弘幸、小宮啓太が本来の力を発揮できるか。潜在能力的には日本代表にも選ばれてもおかしくない。地区内に今度対戦するミルズやIBMのクラフトら、パスの名手がそろう状況だけに二人の復活が欠かせない。このアサヒビール戦が試金石だ。


 森清之HCは日本代表HCだったため、春からほとんど自分のチームの練習をまともに見る時間がなかった。世界選手権終了後、息を抜く暇もなく7月下旬に合流し、秋の準備に取り掛かった。
 「コーチも主力選手もいなかったので、例年よりもチーム作りは遅れている」。栄貴浩ディフェンスコーディネーターも、専任コーチとしては初のシーズンだ。森HCは「こんなに大変だった夏の1カ月はない」という。


 過去両チームは直近の6シーズン(秋季)で5回対戦。鹿島が41―16で勝利した2012年のファーストステージを除けば、ハイスコアの試合はない。
 元々はディフェンス&ボールコントロールのクラシックな戦術が主体のチーム同士だったため、大量点の入る試合は少なかった。
 今回は、両チームともに研ぎ澄まされたパスオフェンスが主武器だ。昨年11月、社会人準決勝のIBM対LIXIL、あるいは2013年9月のファーストステージ、オービック対IBM戦のような、日米パサーによるシュートアウト(高得点の撃ち合い)となる可能性が高い。


 24日に行われた富士通スタジアム川崎で行われた、ファン公開のヘッドコーチトークで森HCは「IBMもシルバースターもさらなる補強をして、チームをがらっと変えるような外国人の選手がいる。だが、やってみないとわからないのがこのスポーツの面白いところ。どんな形でもいいから1位になりたい」と言った。
 岡HCは「本当に大変な初戦だとは思う。我々の現況は、ここにいるチームの中では一番下。分析してもらって構わないので、手の内を隠すことなく、頑張りたい」と語った。


 大型補強をして、同地区内では戦力的に優位に立つと見られているIBMの山田晋三HCは笑顔で「どちらが勝つかまったくわからない。(コーチという立場を離れて)単純に楽しみです。本当に面白い試合になると思う」と語ったが、目は笑っていなかった。


 今季で、Xリーグのセカンドステージ制が終わる。ファイナルステージ(社会人準決勝)進出条件が複雑なためファンの間では悪評も多かったこのシステムだが、はっきりしていることがある。
 ファーストステージで2敗した場合、決勝のジャパンXボウルはおろか、準決勝まで進出したチームもいないということだ。さらに、過去6シーズン、9月に敗戦したチームはジャパンXボウルに進出できないというデータもある。


 IBMというトップコンテンダーとの対戦を残す両チームにとって、開幕戦ながら負けると黄信号が点滅することになる。初戦からサバイバル戦となった。
 今季のリーグ戦の起承転結、その「起」となる試合。見逃すことはできない。

【写真】LIXILのOLを牽引する荒井=撮影:Yosei Kozano