日本社会人アメリカンフットボールのXリーグは8月29日、開幕する。各チームの陣容が明らかになってきたが、今季も米カレッジフットボール出身の有力選手の補強が焦点だ。
 そんな中、トップを切って7月22日に秋シーズンのロースターを発表したノジマ相模原ライズの新外国人QBベンジャミン・アンダーソンに注目したい。


 米国人QBケビン・クラフトを軸にしたオフェンスで、IBMビッグブルーがXリーグに新たなトレンドを持ち込んだのが2012年。4季目の今年、春の段階で、富士通フロンティアーズのコービー・キャメロン、アサヒビール・シルバースターのメイソン・ミルズも加えて、関東では3チームに米国人QBがいた。
 しかし、ノジマ相模原は米国人のQB補強をしないと言われてきた。QBとして、日大では篠竹幹夫監督の薫陶を受け、社会人時代にはNFLヨーロッパに参戦、日本代表のエースも務めた須永恭通ヘッドコーチ(HC)の方針とも言われていた。昨シーズン加入した大型パサー荒木裕一朗の能力を開花させれば米国人のQBは不要だという考えからだった。


 今回、ノジマ相模原に加入したアンダーソンは、基本的にポケットパサーのクラフトら3人とは違う。身長190センチと大型で、優れた運動能力を持った走るQBなのだ。


 アフリカ系米国人のアンダーソンは、1992年6月生まれで23歳になったばかりだ。FCS(フットボール・チャンピオンシップ・サブディビジョン、旧Div.1AA)のアーカンソー大パイン・ブラフ校に昨年まで所属。4年間で45試合出場と実戦経験は豊富だ。
 パスは通算で、9488ヤード 68TD 42INT。パス成功率は4シーズンで1度も60%を超えたことがなく、通算56.0%。パスについては、クラフトやキャメロン、ミルズよりも劣るかもしれない。


 しかしそれを補って余りあるのがランだ。4シーズン通算で、583キャリー2004ヤード、23TD。2013年は824ヤード、14年は633ヤードを走ったというバリバリの走力を持つ。40ヤードダッシュは4秒6台という情報を載せた米サイトもある。


 ノジマ相模原は、前身のオンワードスカイラークス時代、2007年1月のライスボウルを制した。この試合でポール・ラッシュ杯(MVP)に輝いたのは、強肩ながらラン能力も高かったQB小島崇嘉さんだ。
 冨澤優一さんという、日本を代表するパスの名手を差し置いての受賞だった。小島さんが引退前の2011、12年でも、ショットガン隊形からのリードオプション攻撃が効果的に決まる場面があった。


 このプレーはアンダーソンも得意中の得意だ。QBが走るオプションとショットガンによるパスオフェンスを組み合わせたスプレッドオプションは、米カレッジフットボールではこの10年ほど主流の戦術だからだ。
 アンダーソンのプレーをダイジェスト動画で見たが、RBにボールをライドしながら巧みに相手守備ラインの動きを読み、どちらがボールを持つか決める。自らボールを持ってスピードに乗ったら、なかなか止められない。動きとしては、最盛期の波木健太郎さん(元アサヒビールQB)か、あるいはそれ以上かもしれない。


 さらにアンダーソンは、フックや、アウトパターンなど短いパスの細かなコントロールはうまくはないが、強肩で、ロングパスでは綺麗なスパイラルがかかったリードボールをしっかり投げ込むことができる。


 スプレッドオプションは、米のカレッジフットボールのシステムが生み出した戦術とも言える。全米の高校に、野球でいうところの「エースで4番打者タイプ」のQBが数えきれないほどいる。精緻なパス能力には欠けるが、身体能力は優れているQBが大多数なのだ。
 パス能力は、練習や試合数に比例して上達する。一方、シーズンスポーツ制で、学業面での規制もあるため、練習時間や回数を制限されるNCAAフットボールの中で熟練したポケットパサーを育成するのは難しい。


 しかし、このオフェンスなら、QBが自らのランを効果的に使うことで、ディフェンスのプレッシャーを分散し、比較的短時間で、パス成績や得点能力が飛躍的に向上する。それは過去数年のハイズマン賞に輝いたQBが証明している。
 フロリダ大2年時に獲得したティム・ティーボウ(現NFLイーグルス)、オーバーン大に転校後1年目に獲得したキャム・ニュートン(現パンサーズ)、史上初めて1年生で受賞したテキサス農工大のジョニー・マンゼル(現ブラウンズ)。昨年のマーカス・マリオタ(現タイタンズ)も、受賞こそ4年生の昨シーズンだったが、オレゴン大1年の最初の試合から先発QBとして活躍していた。


 少ない練習時間で、選手の運動能力を生かして、高い結果を出す。今のXリーグにも合った戦術だ。そして現在のノジマ相模原は、大きく強く鍛えられたオフェンスラインと宮幸崇、東松瑛介の両エースRBによるランオフェンスが主武器のチームだ。アンダーソンの補強は、二重三重にチーム事情にマッチしているように思える。


 荒木とアンダーソンの併用は、日本一に輝いた冨沢、小島のダブルエースQBを想起させるが、潜在的な能力やスケールの大きさでは、2人をはるかに上回るのではないか。
 QB出身ながら、指導者としてはQBで苦労し続けた須永HCが理想のオフェンスが可能となるのかもしれない。


 気になることはまだある。日本ではこれまで、本格的モバイルタイプの米国人QBがプレーしていない。しいて言えば、エレコム神戸ファイニーズのイノケ・フナキがそうだが、フナキはハワイ大時代シーズンでラン215ヤードが最高と、それほどの実績はない。


 それが理由なのかわからないが、日本のディフェンスは走力のある外国人QBに弱いように感じる。昨年8月にオービック・シーガルズが米アラバマ州に遠征、セミプロ選抜チームに敗れたが、QBキキ・レイの動きに手を焼いた。
 レイは機動力とスピードが持ち味の典型的なモバイルQBで、オービックDEケビン・ジャクソンらのラッシュを巧みにかわして、守備陣を翻弄。ランやパスで次々にファーストダウンを奪った。


 今夏の世界選手権でも、日本代表のディフェンスは、時折繰り出される米国代表QBのランで度々ロングゲインを奪われた。
 昨年11月の社会人準決勝、富士通対オービックでも、試合を決めたのは富士通RBジーノ・ゴードンに持たせると見せて、ボールを抜いて自らエンドゾーンへ駆け込んだQBキャメロンのプレーだった。


 アンダーソンのランは、3年前のクラフトのように、Xリーグに新たなインパクトをもたらすのかもしれない。

【写真】オンワードスカイラークス時代、ランでロングゲインするQB小島選手=撮影:Yosei Kozano