7月に米オハイオ州カントンで開催されるアメリカンフットボール世界選手権(国際アメリカンフットボール連盟=IFAF主催)まで、6月25日でちょうど2週間。5月23日から始まった日本代表の強化練習は毎週土日に行われ、私は時間の許す限り足を運んでいる。


 強化練習の第5週9日目となる6月21日の日曜日。富士通スタジアム川崎のサイドラインに、見慣れた顔が立っていた。オービック・シーガルズのディフェンスコーディネーター兼アシスタントヘッドコーチでLBの古庄直樹だ。


 古庄は2005年7月のジャパンUSAボウル(ハワイ州選抜チームと対戦)で初めて日本代表に選出され、以降、世界選手権川崎大会(当時はワールドカップ)、2009年7月のノートルダムジャパンボウル、2010年4月のドイツ遠征(ジャーマン・ジャパンボウル)、そして2011年7月の第4回世界選手権オーストリア大会で日本代表として戦ってきた。
 オーストリア大会では主将も務めた。今大会、DLの脇坂康生(パナソニック)と並んでもう一人、代表に選出されるかどうかが気になっていた選手だった。


 しかし、昨年の負傷に加え、今季からアシスタントヘッドコーチとディフェンスコーディネーターも兼任する多忙な中で、5月23日に「強化練習が始まる日までに、それにふさわしい準備をしきれなかった」と、代表候補を辞退していた。
 この日は、LB担当の有澤玄コーチが所要で練習にどうしても出られないため、大橋誠ディフェンスコーディネーターの要請で臨時にコーチングの手伝いに来たという。


 サイドラインの古庄に、オービックの選手だけでなく、QBの高田鉄男(パナソニック)、DLの平井基之(富士通)らの立命大OB、さらには若手のディフェンス選手も次々に声をかけてくる。同ポジションの竹内修平(富士通)は、真剣な表情で何かを質問し、古庄も熱心に答えている。


 12日の初戦は米国戦と覚悟を決めているはずの日本代表だが、練習や強化試合を見続けてきた私自身、現在の状態で米国に挑戦することには、不安というか物足りなさがあった。
 それは、日本のアメフットファンも程度の差はあれ持っている感覚ではないか。ディフェンスに限らず、このチームに足りないものがあるとしたら何か。今回の代表を外部から冷静に眺める目と、日本代表への熱い思いとを合わせ持つ古庄なら、私の疑問に答えてくれると思った。


 「やはり、目立つべき選手が目立っている。オフェンスで言えば鉄男(高田)やノリ(木下典明、オービック)、栗原(崇、IBM)。一緒に代表をやっていた平井も、前回とは違った存在感でディフェンスの中心でやっているなと感じた」
 一方で、「どの選手が出てきても、同じ存在感を出せているかと言えばそうは見えなかった」という。古庄は言葉を選びながら、そう表現した。「フィールド上でまだまだ自分を出せていないメンバーが多い」と感じたというのだ。


 「今回は、初戦がアメリカ戦と見て間違いない。求められるものが前回大会よりも高くなっている」。45名の最終メンバーが決まった後も、練習量が落ちていないことからもわかるという。そんな中で「国内の試合で、自分たちのチームではもっと良いプレーをして、もっと思い切り動いている選手なのに、まだまだ代表チームに合わせてプレーをしているように感じた」という。


 前回大会の初戦(オーストリア戦)で、高田が木下に投げたパスが、何度もオーバースローとなっていたが、木下が高田にそのことを尋ねると「カナダ戦、アメリカ戦ではあそこに投げな決まらん」という答えが返ってきたそうだ。
 古庄はそのエピソードを例に出して、もっともっと貪欲に攻めてほしいという。「アメリカとの対戦で、『やられないように』プレーをしても結果は出ないのは明らか。どこまで攻めることができるのか、自分のギリギリのプレーはどこなのか」。45人のメンバー全員が、そういう意識を持つようには、まだなっていないというのだ。


 ただ、「日本代表は最後の2週間とか、現地へ行ってからで、劇的にそういう部分が変わる」とも言う。古庄が今後期待しているのは、この変化だ。「今の代表にはワクワクする位にその部分の伸びしろがある」と感じている。


 「ここからの3週間、すべてが米国代表に勝つためにという選択になる」。練習中、トレーニング中はもちろん、食事でも「勝つためにこれを食う」、寝るときも「勝つために、今日はこの時間に寝る」。
 「仕事中も含めて、すべてをアメリカに勝つという目標につなげていかないといけない」と古庄は言う。今までの大会のように、試合を重ねていい状態になっていくというやり方では遅いからだ。


 LBでは竹内、天谷謙介(LIXIL)に注目している。「天谷は、体重が92キロあると聞きました。前回代表候補になったときに『あの体重では勝負できない』と増やしてきたそうです」。
 竹内にも貪欲さを感じている。「今日も、僕の姿を見るなり、パスカバーについて質問してきました」。「本当に日本代表を目指して、4年間準備してきた選手が、しっかり代表に選ばれて、このフィールドの中で機能している」。そういう成長は感じている。「23歳の澤田(遥、オービック)も含めて、彼らがこれからの日本代表を背負っていくのでしょう」


 以前の古庄の言葉で記憶に残っているものがある。ノートルダムジャパンボウルで、日本代表がノートルダム大OBチーム「レジェンズ」に敗れた後、173センチ、84キロの古庄は「俺の体格でLBをやっていては駄目だ。竹内のようなサイズのLBがもっと出てこなければいけない」と語ったのだ。
 今回のメンバーはどうだろうか。古庄は「竹内(183センチ93キロ)、澤田(182センチ、104キロ)、鈴木將一郎(180センチ、90キロ)の3人に、ウェートアップした天谷、そして塚田昌克(175センチ、88キロ)なら、決して戦えないとは思わない」と見る。「5人は役割は違うが、代表チームとしてLBへの意識は変わってきている」という。


 ディフェンスを離れて、古庄の印象に強く残った選手がいる。20歳のRB李卓(慶応大)だ。「唯一人の学生でありながら、誰にも遠慮なく、最後のランメニューまで自分の最高のパフォーマンスを出し続けていた」と見る。


 古庄は言う。「たとえばアメリカ、メキシコ、アメリカというような3連戦、今までで最もハードな日程、試合となるかもしれない。それは、ある意味で、歴代日本代表の中で一番幸せなチームということです。そのためにはここからの3週間、すべての時間をアメリカに勝つという目的のために使って、それをぶつけてきてほしい。それができる、選ばれた45名でしょう。選ばれなかった選手はやりたくてもできないのですから」


 翌日、古庄からメッセージが届いた。そこにはこう書かれていた。「昨日、いろいろと好き勝手に話をさせていただきましたが、日本フットボール界から選ばれた45名へのエールとしていただければ幸いです」

【写真】2007年の川崎大会。決勝で米国に敗れ悔しさを噛みしめる古庄(2)=撮影:Yosei Kozano