7月に開催されるアメリカンフットボールの第5回世界選手権(国際フットボール連盟=IFAF主催)で、日本代表の最初の実戦となる7月12日(現地時間)まで3週間あまりとなった。
 対戦相手は、同9日の米国―メキシコの勝者となるが、負けた方が中5日間隔があくその後の日程を考えても、メキシコは無理に勝負を挑まないだろう。相手は米国と言い切っていい。


 初戦で参加7か国中最強の相手とそのホームで戦う。これは過去4大会と最も異なる点だ。これまで日本の初戦の相手はフランスが2回、スウェーデン、オーストリアが1回ずつと、いずれも欧州勢だ。
 体の大きさ以外では劣るところがなく、油断さえしなければ勝利は計算できた。様子見をしながら戦える相手だった。


 小欄で、3回にわたって米国代表の分析をしてきた。総括すれば、ダン・ホーキンス・ヘッドコーチ(HC)はオフェンスマインドが強い。そして選手層では、OLとRBに最もタレントが集まっている。


 OLは8人中6人が米NCAAフットボールの最上位ディビジョンFBS(フットボール・ボウル・サブディビジョン)の出身で、残り2名もFCS(フットボール・チャンピオンシップ・サブディビジョン)の出身だ。
 平均身長は192センチ、平均体重は139キロ。NFLでの選手生活(2シーズン)を送った経験を持つザック・ウィリアムズを筆頭に、カレッジでの実戦経験が豊富で体が大きく、パワフルな選手がそろっている。


 RBも全員強くて大きい。チャド・ヤング、ラリー・ディクソン、ニック・グリフィンは、日本代表のDL脇坂康生、飾磨宗和(ともにパナソニック)とサイズ的に変わらない。しかも実績も十分にある。
 さらにWR登録ながら、ランニングQBとして高い能力を持ったトレント・スティールマンもいる。


 6月14日の日本代表壮行試合(富士通スタジアム川崎)では、対戦したオールXリーグとオール慶応大学ユニコーンズの混成チーム「HOPE」のQBイノケ・フナキ(エレコム神戸)がRBとして起用された。 FBSのハワイ大で、もともとはRBだったフナキがもっと走れば、仮想米国としていくばくかのトレーニングにもなったろうが、QBにはノータッチという特別ルールを考えれば、あれ以上は難しかったろう。


 リターナーとしての能力も高い183センチ106キロのLBデービッド・モトゥー(パナソニック)のRB起用や、明治大で屈指のパワーバックだった赤津裕之(明治安田)をもっと走らせる手はあったかもしれない。あるいは、今回は参加しなかった大型RB岩田駿一(パナソニック)がいれば、とも思った。


 日本代表の守備は5インターセプト、そのうち2本がリターンタッチダウン(TD)となった。森清之HCは、「チャンスがあったときにボールを奪う、奪ったボールをTDにまで持っていく。そういう部分は、さすがにこのメンバーはレベルが高いと思う」と評価した。
 だが、フナキのランにしてもモトゥーのリターンにしても「ボールを持つ回数が数えるほどだった」とランディフェンスのシミュレーションには程遠かったことを認める。


 「今までの(米国勢との)戦いでは、前半の間は何とか食い下がって止めていても、第4クオーターになるとランを止められなくなるということが多い。問題は、100キロ以上のRBがボールを持ったときに、最初から最後まで試合を通じてタックルできるか」と、森HCは言う。


 WR木下典明が、先週の練習後に「我々オフェンスは当たりに行く場合もあるが、基本はディフェンスをかわすのが仕事。しかし、ディフェンスはヒットしないことには止められない。ディフェンスが当たっても止められないと思ってしまった段階で、チームの負けが決まる」と話したことも、森HCの考えと同じだ。


 米国戦の鍵を握るディフェンスについて、大橋誠ディフェンスコーディネーターは「基本はやはりタックリング」という。「1対1になった時にしっかりタックルできること。そして2人、3人で1人の選手をタックルした時に的確なポジショニングを取れるということ」と強調する。
 1対1で止めるのが理想だが、現実にはフィジカルに差があるボールキャリアーを倒すために複数の選手でタックルするしかない。
 そういうプレーでは「お見合い」をしてランナーを逃してしまうというのは、ありがちだ。その部分は、14日の壮行試合ではしっかり対応できていたように感じる。


 さらに、身体能力は必要なレベルに達している前提の上で「プレーの中で、最適な位置取り、最適なリアクションということへのアジャスト能力が高いことが求められる」という。
 練習時間は限られ、自分のチームでは普段やらないようなディフェンスをしている中で、米国がどういうオフェンスをしてくるか、スカウティングし切れない部分が出てくる。


 おそらくフィールドで初めて遭遇するプレーもあるだろう。「今、自分はこの役割をしなければならない」とか「このオフェンス隊形で一番警戒しなければならないのはこのプレーだ」と瞬時にフィールド上で判断をして、かつその意図をチームメートにコミュニケーションできる力が大事だということだ。


 データ的に言えば、今回の日本代表はDLの人数は8人で前回と同じだが、重量級がそろった。前回の8人の平均は106キロだが、今回は113キロ。140キロの清家拓也、123キロの冨田祥太(ともにオービック)、125キロの紀平充則(無所属)らに、ランストッパーのDTとして期待がかかる。


 しかし、本当の課題は身体能力でもパワーでもない。闘争心だ。大橋コーディネーターは、昨シーズン、日本代表アシスタントヘッドコーチとしてU19世界選手権(クウェート)や、オービック・シーガルズのアラバマ遠征で米国のチームと対峙した。
 「我々のチーム(オービック)は、日本では、向こう気の強い、弾けたメンバーが多いと思われていた。でもアメリカ人と向かい合ったときには、なんとなく萎縮してしまうようなところがあった」。今から、この日本代表でも、意識してそういう状態にならない気持ちを作り上げていくことが大事だという。


 大橋コーディネーターは、今回の日本代表コーチ陣の中では、米国出身選手とともにチームを作り上げた経験が格段に多い。
 ケビン・ジャクソン、カール・ノア、フランク・フェルナンデス、そして今回米国代表となったバイロン・ビーティー・ジュニアらアメリカ人の選手とやってきた中で感じるのは「バトルフィールドに入ったときのメンタルの切り替え方が、すごくナチュラルでうまい」ことだという。
 試合前まではロッカールームで仲間同士リラックスしているように見えても、フィールドに入った瞬間に「戦闘モード」になるという。


 その感覚を日本のチームが受身で感じてしまうと、力を出せずのまれることになる。しかも、今回、米国代表にとっては大会史上初めてのホームゲームだ。より一層の高揚があるのは間違いない。


 大橋コーディネーターは「普通に練習中のこの瞬間でも、『今やれ』『今戦え』といわれたらできるようにならなければいけない」という。そういう「スイッチ」を、日本代表の個々の選手が持てるのかが鍵になる。

【写真】2007年の川崎大会では、地上戦で米国に敗れた日本=撮影:Yosei Kozano