日本社会人アメリカンフットボールXリーグは、5月16、17の両日に富士通スタジアム川崎でX1の東日本交流戦の4試合などを行い、1カ月の春シーズンを終えた。7月の世界選手権を見据え、いつもより短い春に見えたものを記したい。


 ▽「パンプ イット」ぶちかましたオービック
 今春竣工した川崎は、スコアボードに向かって右側の旧一塁側がホームで、三塁側がアウェーとなる。
 16日にIBMビッグブルーと対戦したオービック・シーガルズの昨シーズンは社会人準決勝で敗退。昨年社会人準優勝のIBMがホーム側のサイドラインに陣取り、オービックはアウェー側となった。些細なことだが、一昨年までの絶対王者が、今季は挑戦者からスタートすることの表れだ。


 そのオービック。米国人のジャレッド・ウッドルフ氏をオフェンスコーディネーターに、LB古庄直樹が選手兼任でディフェンスコーディネーターに就任するなどチーム体制を一新した。
 主将はDB砂川敬三郎、副将はRB望月麻樹と、24歳の2人が引っ張る。新しいチームスローガン「PUMP IT(パンプ イット)」はぶちかますという意味だという。その言葉通り、オービックがIBMを攻守のライン戦で圧倒した。


 守備ではケビン・ジャクソン、バイロン・ビーティー・ジュニアの二枚看板が入らないユニットでも、 DL冨田祥太、清家拓也、三井勇洋が強烈なプレッシャーでIBMのQBケビン・クラフトを追い込んだ。
 攻撃でも、OLケアラカイ・マイアバ、山本祐介、フランク・フェルナンデスの強力メンバーは健在。昨年まで右のタックルだったチーム最巨漢の2年目坂口裕がガードにコンバートされ、タックルに同じ2年目のスピード派王野志宏が入った布陣で完全にスクリメージを支配した。


 第3クオーターには、RB原卓門と望月が交互に力強い突進を見せ、QB菅原が一度もパスを投げることなく80ヤードをドライブしてタッチダウン(TD)を決めた。IBMが最終盤にランで1TDを返したものの、オービックの力強さばかりが目立った。


 大橋誠ヘッドコーチ(HC)は「今年は本当に一から土台を作っている」という。「ここ数年『勝負強い、試合巧者だ』といわれ、勝負所でうっちゃって勝つのが得意と見られている。そこに甘んじていてはいけない」と、選手が1対1の勝負で勝てるフィジカルやファンダメンタルを強化することに主眼を置いている。秋にはさらにパワフルなプレーが期待できそうだ。


 一方のIBM。大黒柱のQBクラフトが先発したものの、カナディアンフットボール(CFL)に挑戦中のRB末吉智一、WR栗原崇ら攻撃の軸を欠き、守備でもDLジェームス・ブルックスが出場しなかった。
 元々昨年のメンバーからDL紀平充則、トゥイカ・トゥファーガ、WR小川道洋が抜けておりいる。勝敗とは別のテーマを持った春だったはずだ。
 昨年はジャパンXボウルまで進出したとはいえ、「2強」オービック、富士通フロンティアーズに比べ戦力面で厚さに欠けるのは否めない。山田晋三HCの胸中にある、秋に向けた秘策が気になる。


 ▽復活かけたシルバースターの「ケミストリー」
 ノジマ相模原の荒木裕一朗、シルバースターのメーソン・ミルズという日米24歳QBの対決となった17日のアサヒビール・シルバースター対ノジマ相模原ライズ戦は、ミルズに軍配が上がった。
 荒木がWR出澤信にTDパスを決めて先制したが、ミルズの良さは強肩と積極性だ。30ヤードを超すパスを立て続けに決めて敵陣に侵入するとRB柳沢拓弥へのTDパスで逆転。第3クオーターにはエースWRの林雄太、ベテラン戸倉和哉に立て続けにTDパスをヒットした。


 ミルズは、2週間前のIBM戦で投げた4本のTDパスはすべてWRローマン・ウィルソンだったが、この日のTDはすべて日本選手に決めた。好機を逃さず得点するオフェンスにディフェンスもこたえる。
 新戦力のDL小林貴、松尾佳郎がQB荒木に強いプレッシャーをかけ、ランストッパーの定方雄太、LB八木康太も好タックルを決めた。第4クオーターには、DB清水巧次郎、LB毛利匡宏が荒木から計3インターセプト。毛利はそのままリターンしTDを決めた。


 印象的だったのがベテランの生き生きとしたプレーだ。八木は12年前の立命大時代にポール・ラッシュ杯を獲得、戸倉は07年の日本代表とともに一時代を築いたプレーヤーだ。
 近年チームの低迷とともに埋もれていた感がある彼らが、再び輝き始めたようだ。キック、パント時でも、シルバースターのカバーチームがボールキャリアーに迫るスピードはここ数年なかったようにさえ感じた。


 シルバースターの岡潔HCは「(ファーストステージで)3位のチームというレベルを変えたい」と、春とはいえ、この2試合を「何が何でも勝つ」と結果にこだわって戦った。手ごたえは、との質問には「まだまだ課題が多い。上のチームに挑むためには、50パーセント程度です」と気を引き締めた。


 オフェンスとディフェンスだけでなく、世代間の歯車も噛み合い始めたシルバースターには、確実に「ケミストリー」が生じているようだ。それが本物かどうか、試練の秋が待っている。


 ▽東京ガス「ノーネーム」QBの躍動
 16日のオール三菱ライオンズ―東京ガスクリエイターズ。オール三菱のQB陣には、昨季まで関学大のエースだった斎藤圭が加わった。
 エース谷口翔真(立命大)と斎藤が甲子園ボウル優勝、田中蔵馬も高校(日大三)時代に日本一を経験という豪華な顔ぶれだ。そんな「サラブレッド」の前で、ノーネームの東京ガス若手QBが躍動した。今季2年目の中本裕樹だ。


 エース格の徳島秀一、ベテラン室田怜央の下で3番手を争う位置の中本だが、徳島が欠場したこの試合の先発を任された。
 中本は、オール三菱に常にリードされて追いかける展開で、冷静かつ思い切り良くパスとランを決め続けた。見せ場は、第4クオーター残り1分46秒からのドライブだ。
 8点差で敗色濃厚に見えたが、要所で室田の助けを受けつつオール三菱ゴール前に迫ると、残り試合時間1秒でWR大下卓哉にTDパスをヒットした。2点コンバージョンは室田がエンドゾーン右隅に走り込んで、土壇場で同点。試合はドローとなったが東京ガスサイドラインは湧いた。


 パス145ヤード2TD、ラン39ヤードで、オール三菱のQB谷口と互角以上に渡り合った中本は神奈川大の出身だ。
 大学4年時はTDパスよりインターセプトの方が多く、成功率も5割に届かないなど、優秀なQBだったとは言えない。社会人になって先発は2度目だが、前回は1シリーズだけで退き、「これだけ試合を任されたのは社会人になって初めて」。


 昨秋は起用された試合で迷ってプレーを崩してしまったことが多く、思い切りの良さを意識してこの試合に臨んだ。最後のドライブはカート・ローズHCから「時間もあるし、タイムアウトもあるから落ち着いてやれ」と言われたという。
 相手は甲子園ボウル勝利QBだったが、と質問すると「すごい選手と試合ができるのは刺激になりますが、臆することはなかった」と笑顔を見せた。


 神奈川大出身のQBといえば、オービックの龍村学だ。龍村はちょうど10年前、練習生からエースQBとなり、チームを日本一に導いた。思い切りの良いプレーの中本は、タイプは違うがどこか龍村に通じるところがある。秋本番の活躍を期待したい。

【写真】試合後、笑顔でQBミルズをたたえるシルバースターの阿部監督。右はWRウィルソン=撮影:Yosei Kozano