今年は4年に1度のアメリカンフットボール世界選手権の年だ。社会人アメフットXリーグは、春の東日本選手権「パールボウル」トーナメントを開催せず、各チーム2戦ずつの交流戦(富士通スタジアム川崎)を戦う。
 今回は、5月2日に昨季ジャパンXボウル進出のIBMビッグブルーに挑戦したアサヒビール・シルバースターを取り上げる。


 ライスボウル3回優勝の名門シルバースターが、IBMに「挑戦」と書いたが、現在の力量から言えば妥当な表現だ。ジャパンエックスボウルに最後に出場したのが11年前。過去5シーズンはファーストステージ3勝2敗で地区3位が指定席。昨年はセカンドステージで、富士通フロンティアーズに0―65、パナソニックインパルスに3―65と屈辱の連敗を喫した。
 富士通、オービック・シーガルズなどのトップチームとは大きく差が開き、東京ガス・クリエイターズやオール三菱ライオンズといった中堅チームに「勝てる相手」と目標にされているのが現状だ。


 今季、シルバースターが攻撃の新司令塔として復活を託したのが、米国から来たQBメイソン・ミルズだ。ミルズは、NCAAでは2部にあたるFCS(フットボール・チャンピオンシップ・サブディビジョン)のパイオニアフットボールリーグに所属するサンディエゴ大のQBだった。
 1年から先発となり、4年間で44試合に出場、通算でパス1万1099ヤード、95タッチダウン(TD)を記録、2013年の4年時にはパス3463ヤード35TD(5インターセプト)という実績を持つ。


 さらにシルバースターは、ミルズのターゲットも獲得した。米アイビーリーグのプリンストン大で活躍したWRローマン・ウィルソンだ。
 2013年の4年時に10試合で86キャッチ919ヤード、11TDという成績を残し、オールアイビーにも選ばれたウィルソンは、昨シーズン来日し、関西のX2サイドワインダーズで活動していたが、新天地を求めシルバースターに移籍してきたのだ。


 シルバースターはミルズとウィルソンがともに先発。攻撃のファーストプレーでミルズは、早いタイミングのパスをウィルソンに投げ込んだが、弾いてしまう。浮き球をIBMのルーキーDB斎藤貴一が奪いエンドゾーンに駆け込んだ。
 いきなりのインターセプトリターンTDで波乱のスタートとなったシルバースターオフェンスだが、見せ場はこの後にあった。


 序盤、日本人エースWRの林雄太にパスを集中して投げ続けたミルズだったが、第2クオーター、ゴール前13ヤードからウィルソンにTDパスをヒット。ここからホットラインが機能し始める。
 第2クオーター残り12秒でゴール前2ヤードからミルズがエンドゾーン奥に走り込んだウィルソンにTDパスを決めて13―9と逆転する。


 第3クオーター最初の攻撃では、IBMのパスラッシュでミルズがサック寸前まで追い込まれたが、ディープに走り込んだウィルソンが大きく戻ってパスをキャッチする場面もあった。
 結局このドライブはウィルソンだけにパスを投げる展開で、66ヤードを進んでTD。9分にもミルズからウィルソンに28ヤードのTDパスが決まりIBMを突き放した。


 IBMはオフェンスがTDを奪えず、第4クオーターにもRB高松俊幸のTDで加点したシルバースターが34―9で快勝した。


 IBMはエースQBケビン・クラフトが出場せず、メンバーも途中から若手中心の起用となった。秋のリーグ戦では同じ地区になる以上、ここでの勝敗にこだわる意味はない。
 とはいえ、この数年上位チームに勝てなかったシルバースターが、強敵を倒した喜びは大きかった。試合後のハドルで、阿部敏彰監督が声をかけて全員で記念撮影。ミルズも指名されて「スモールステップ、バット、グッドステップ」とスピーチし、ハドルを盛り上げた。


 ミルズは「グレートウィン、チームの勝利だ。選手もコーチも皆献身的で、勉強に勉強を重ねた。OLが頑張ってくれて、ノーサックだった」と自身の4TDパスには触れず、勝利を喜んだ。
 試合は2013年のサンディエゴ大最終戦以来で、1年半ぶりだった。冒頭のインターセプトも「我々にはベストのレシーバーがいる。速くプレーできるように練習を重ねてきた。だから良いプレーができるとわかっていた。心配はしていなかった」という。


 ミルズはサンディエゴ大で富士通DBのアルリワン・アディヤミとチームメートだったため、日本でプレーする他の米国人選手とも連絡を取り合うようになり、日本のアメフットに強い関心を持った。
 祖母が広島出身の日本人というクオーターで、日本に親近感を持っていたミルズは、大学卒業後カナディアンフットボール(CFL)のウィニペグ・ブルーボマーズの練習生になったが、CFLではプレーすることなく日本でのプレーを決めた。「日本のプレーヤーはレベルが高い。Xリーグは、アメリカとカナダを除けば世界でベストのリーグだろう」という。


 WRのウィルソンとは同学年だが日本で初めて会ったという。日本での目標は「ライスボウルでプレーして勝利すること。今日はそのための第一歩だ」と力強く語ってくれた。


 シルバースターの有馬隼人オフェンスコーディネーター(OC)は、ミルズは最初のゲームだったので「試合でレシーバーとの動きを合わせるために、意識して林に投げていた。試合で投げないと経験にならないので」という。
 チームに合流したのは3月下旬からで、まだ1カ月足らずだ。ウィルソンへの4TDは「ローマンだからというよりは、試合を通じて(IBMディフェンスの)彼へのカバーが薄かったから」狙ったという。


 有馬OCは、ミルズの良さについて「まずフットボールの知識が豊富。(IBMの)クラフトも(富士通の)キャメロンも同じだと思いますが、米国のQBはしっかり鍛えられているなと感じます」と語る。
 加えて、スローイングがいいという。183センチと、米国人QBとしては小柄だが、投げるフォームがしっかりしていて、強くていいパスを遠くまで投げることができる。今までデザインできなかったプレーも可能になると期待する。


 シルバースターは、1年目2年目の日本人若手選手にも逸材がそろってきている。TDを挙げた高松以外にも、新加入組では拓殖大学時代にQBとしてシーズン1000ヤードを走った柳沢拓弥、日本体育大学で主将だった山田裕一郎がこの試合ではRBとして活躍。ディフェンスでも日本大学から松尾佳郎、法政大学の小林貴という学生屈指の大型DLが加入した。


 チームの若返りが進む中で、同年代の24歳のミルズ、23歳のウィルソンが加わったのは大きい。日米の若手がケミストリーを引き起こせば、復活の道筋が見えるのかもしれない。
 とはいえ、まだたったの1試合だ。「日本のフットボール界の輝ける星」が、再び強い光を放つために、今は勝ち続けることが重要だろう。次のノジマ相模原ライズ戦(5月17日)も見逃せないゲームとなりそうだ。

【写真】2本目のTDTDパスを決めるQBミルズ=撮影:Yosei Kozano、2日、富士通スタジアム川崎