アメリカンフットボールに医師として関わり続ける清泉クリニック整形外科(東京都杉並区)の院長・加藤敦夫さん。今回は、一問一答形式で、アメフットのドクターの実際の仕事を聞いた。


 問:ゲームドクターとチームドクターがいるのですか。違いは。

 答:例えば社会人のX1、あるいは関東学生TOP8はチームにドクターがいます。原則としてそれぞれのチームが必ずドクターを用意して試合に臨みます。それが高校になると医師を用意できない学校の方が多い。そういう場合、試合会場に来てもらう形をとる。その日、その会場で2試合なら4チームを見ることになります。そういうゲームドクター制度が関東の高校の試合では根付いています。


 問:加藤先生は足立学園のチームドクターとして来ていても、ゲームドクターとして他校の選手も診るということですか。


 答:私が足立学園の試合に帯同できると決まっている日は、対戦相手のチームや前後に設定されている試合も私がゲームドクターとして診ることになります。ただ、スケジュール的に私が行けるかどうかわからないということもあります。そういう場合は、他にゲームドクターの先生をお願いすることになります。そういう状況で、急きょ私も行けることになると、医師が2人いるという状況になることもあります。それももったいないので、なるべくチームに帯同するようにしているのですが、そうなるとチームドクターなのにチームにずっと付くことができなくなるということも出てきます。


 問:アメフットのドクターをしていて大変な部分は。


 答:整形外科の分野だけではない事態が起きることがあります。それが大変です。例えば脳震盪とか。私が診たケースでは、背中側からタックルを受けて吐血した選手がいました。ヒットされて衝撃で肺が傷ついたのですね。後輩のドクターが対処したケースでは、ヒットを受けた選手が肝臓が損傷したということもあったようです。いずれも、アメフットの負傷としては極めてまれなケースですが、そういう自分の専門外の症例が起こり得る。でも「知りません」では済まされない。それが大変と言えば大変です。


 現場には医師は私しかいないわけです。だから「おかしいな」と思えば、「大丈夫」では済まさない。「病院へ行きなさい」といって適切な科に送り届けます。その判断も含めて「専門外だからわかりません」では済まない。その辺が緊張感のある部分ですね。ある程度の知識は持つように努力しています。


 毎年、アメリカンフットボールの医科学研究会というのがあって、そこに参加します。さまざまな症例についての勉強会で。専門の先生から最新の情報をお話をしていただける。脳外科の先生からは「脳震盪は大変だ」という認識を、アメフットのドクターは共通して持っているということをよく言われます。


 問:熱中症については。


 答:それも危ないのです。やはり部活なので、特に高校生の場合は「だるい、しんどい」では休みにくい。上級生になってくれば後輩の手前倒れるわけにはいかない。申告してこないままおかしくなる子がいる。そういう大変さがあります。
 ただ、高校のフットボールでは、試合中でも各クオーターの真ん中で給水タイムアウトが入りますし、高校の先生方も勉強されていて理解もあるので、そういう部分ではやりやすくなっています。社会人のチームの場合は、チームにトレーナーさんが常駐していて、啓蒙も含めてしっかりケアしているのでそれほど我々がなにかを言わずに済んでいますね。


 問:トレーナーとドクターの役割分担は。


 答:普段の練習で、「ちょっと腰が張っている」とか「肉離れしていないけれどちょっと足が」という状況では、トレーナーさんがアイシングをしたりストレッチをしたりというケアをしてくれて、それでも駄目なものは病院へ、というのがXリーグのチームでは一般的です。トレーナーさんは柔道整復師、ATC(米国の公認アスレティックトレーナー。米国医学会によって認定された、準医療従事者)などの免許を持った方々が多い。ドクターの出番は後になります。
 余談ですが、以前に鹿島ディアーズのドクターをやっていた時は私が柴崎グラウンド(調布市)に近いこともあり、個人的に練習を見に行きたくてグラウンドに顔を出していたのですが「変わったドクターだな」と思われていたみたいです。


 問:アメフットのドクターは自身も選手経験を持つ方が多いのですか。大学フットボールには医科歯科系のリーグも別途ありますよね。


 答:アメフットドクターの集まりに行くと、ご自身も選手をやっていた先生が思いのほか多数いるという印象です。数えたり統計を取ったりしているわけではないのですが、選手をやっていたドクターと、競技経験のないドクターでは半々ではないでしょうか。


 問:競技として特殊な部分があるので、選手経験がないとわかりにくい部分もあるのでしょうか。


 答:それは影響はないと思います。私も選手未経験ですしね。整形外科の疾患で起こりそうなものは、柔道でもラグビーでも、格闘技的な人と人が接触するスポーツでは同じようなことが起こります。やはり現場が教えてくれます。
 あと私は、選手の症状と、その選手の所属する試合のスケジュールを頭の中で重ねることができるのが「得意技」です。普通の病院へ行ったら医師は「○週間休みなさい」としか言わない。私の場合は、「今、休んだ方が良い。あそこで大事な大会が来るから」といったアドバイスができます。アメフットのそういうスケジュールが異常に頭の中にインプットされていますから。他の競技の子がここ(清泉クリニック)に診察に来ると、まずは「大事な試合はいつだ」と聞きます。そこから逆算して治療やリハビリのプログラムを作ります。


 問:聞きにくい質問ですが、ゲームドクターやチームドクターの報酬はどうなっているのでしょうか。


 答:ピンキリです。ボランティアでやってらっしゃる先生もいます。


 4月19日、春季関東高校アメリカンフットボール東京都大会の3回戦で、加藤ドクターの足立学園は駒場学園と対戦。22―22で延長タイブレークにもつれ込んだ熱戦で惜敗した。その翌週4月26日、準々決勝の会場に、ゲームドクターとしての加藤さんの姿があった。負傷者が出た場面では、担架係の当番校の高校生よりも素早く、選手のもとに駆け寄った。選手が心置きなくプレーできる陰には、信頼できる人々の支えがあるとあらためて思った。

【写真】負傷した選手に駆け寄る加藤ドクター=撮影:Yosei Kozano