根っからのアメリカンフットボール好きとして、試合がない3月のこの時期でも、自宅で暇があると米NFLドラフト候補のカレッジフットボール有力選手の情報を調べる。
 以前と違うのは、youtubeなど動画投稿サイトの発達だ。有力選手の1試合分のプレーだけを抽出したダイジェスト映像が簡単に見られるようになった。


 上位指名候補ともなるとそういった動画が多数あり、夜更けまで見入ってしまう。NFL選手と変わらない鍛えられた肉体の持ち主たちが、走り、跳び、捕球し、タックルする。圧倒的な迫力に、彼らがほとんど、まだ20~22歳の大学生だという事実を忘れがちだ。


 実際、彼らの年齢は、甲子園ボウルや関西学生リーグ、関東学生トップ8やビッグ8で戦っている日本の学生選手とほぼ一緒なのだ。もちろん、本場のプロを狙うNCAAトップ級選手と、日本の学生とでは体格も技量も違いすぎるから、彼我の差を感じるのは当たり前かもしれない。
 しかし、うまく言えないが、もっと違うなにかに差があるように思える。しいて言えば、自分が特別な競技をやっている選ばれた者だという強い自意識というか自覚の有無ではないか。


 3月21日の土曜日に大阪のキンチョウスタジアム(長居球技場)で開催された、関西学院大学ファイターズが米アイビーリーグのプリンストン大学を招いて行われた試合「レガシーボウル」は、仕事との折り合いがつかず見に行くことができなかった。
 結果は7―36で関学の完敗となった。畏友・生沢浩さんが、週刊TURNOVERにアップしてくれた試合のレポートでは、相当に力の差があったという。試合の詳細はそちらをご覧いただきたい。


 生沢さんの「関学大がプリンストン大を破り、アイビーリーグのフットボールのレベルを日本が越えるというシナリオ」は、決して高望みではなかったし、私も勝敗はともかく、内容的に僅差の戦いになると予想していた。


 アイビーリーグは米NCAAでは2部にあたるFCS(フットボール・チャンピオンシップ・サブディビジョン)に所属する。昨シーズンのプリンストン大は5勝5敗(リーグ内は4勝3敗)。アイビー王者はハーバード大で10戦全勝(リーグ内7勝)、ハーバード大のFCS全体でのランキングはコーチ投票で17位、ネットワーク投票で13位。そのハーバード大にプリンストン大は7―49で完敗していた。
 NCAAでは、FCSの上位にはFBS(フットボール・ボウル・サブディビジョン)がある。FBS所属は125校。すべての学校がFCS所属校より強いわけではないが、ハーバード大の全米ランクは100位より上ということはないだろう。


 そうなると、プリンストン大の実力は全米200位前後と推測して差し支えないだろう。そのプリンストンに、国内学生では無敵の関学大がひねられてしまう。NFL志望のエリート選手と比較せずとも、日米の差はこれだけある。
 その差を埋めることが目標と言いつつも、運んだ土を投げ込んでも投げ込んでもこの大海は埋められないのではないか。


 翌22日、日本アメリカンフットボール協会(JAFA)が主催するシニアフットボールアカデミーキャンプに足を運んだ。東日本と西日本に分けて、隔週で行われるこのキャンプは東日本が4日目の最終日だった。


 キャンプ自体は、活気にあふれていた。2週間前は雨が降る冬の天気だったが、この日のIBM八千代グラウンドは春の陽光に満ちていた。参加人数が増えただけでなく、東日本大震災の被災地での活動のため前回参加できなかったオービック勢が、フィールドに戻ってきたのは大きい。


 日本代表の大橋誠・ディフェンスコーディネーターもLBを中心に精力的にディフェンスの指導に取り組んでいた。森清之ヘッドコーチ(HC)によると、参加選手は前回のほぼ1・5倍だったという。
 残念だったのは、参加選手のほとんどがXリーグからで、学生選手がまばらだったことだ。全体の1割もいなかったようだ。


 前々回のこの欄で書いたように、今年は日本代表選手のセレクション的意味合いが強いとはいえ、キャンプの本来の目的は、育成プログラムに基づいて20歳以上の選手を対象に、トップレベルへ強化することが狙いだ。


 対象には当然学生も含まれている。森、大橋、富永一(LIXILディアーズ)、有馬隼人(アサヒビール・シルバースター)といったトップクラスのコーチから教えを受けられるだけではない。日本のトッププレーヤーと一緒に練習し、技術などを学ぶ機会でもある。所属チームの練習日程などがあるのは分かるが、せっかくのチャンスを逃してはいまいか。


 数少ない学生からの参加選手の中では、日大期待のパワー派RB高口和起やLB趙翔来、慶大の逸材RB李卓らが、社会人選手に負けない鋭い動きを見せていた。彼らは素材的には代表候補と比べてもそん色ない。


 他方、早大QBの政本悠紀や、東京学芸大RBの山中大輔らは、率直に言って代表候補からは遠いが、練習には物おじせずに参加していた。森HCは、政本が2週間前に指摘された問題点を、今回きっちり修正してきたと高く評価していた。「レベルが違うから」などと妙な遠慮をせず、積極的にこういう場に参加した彼らにも好結果が出ると信じたい。


 こんな話を書いていたら、IBMビッグブルーのWR栗原嵩のニュースが入ってきた。米アリゾナで22日に開催された「NFLベテランズ・コンバイン」に参加した栗原は好パフォーマンスを見せて、注目されているという。


 ベテランズ・コンバインは今回初めて開かれたトライアウトだ。名門ノートルダム大でエースとして活躍しブラウンズにドラフト1巡指名で入団したQBブレイディ・クインや、カウボーイズにやはり1巡指名で入団し、ベストシーズンは800ヤードというRBフェリックス・ジョーンズ、レイダースでエースRBとして最高で977ヤードを走ったRBマイケル・ブッシュら、つい数年前活躍していた知名度の高い選手が集まったため、注目のイベントとなった。


 栗原は40ヤード走で参加WR中2番目の4秒54を記録したが、現地からの情報では、今回のコンバインでは計測方式の違いで、各大学がNFL球団向けに実施している「プロデイ」と呼ばれるワークアウトよりも0秒1から0秒2遅く計時されるのだそうだ。そうなると栗原のタイムは4秒4前後ということになり、ドラフト候補のトップ級選手と変わらないことになる。


 元々パスルートを正確に走る能力は高いだけに、複数のチームが関心を持っているという。栗原は自身のツイッターアカウントで「とりあえずベスト尽くせました。NFL全チームのスカウトやコーチ、GM等がいて、自分の力を出せるか出せないかで人生変わると思っています」と語っている。


 4月30日から5月2日にかけてドラフト会議があり、その後、ルーキーFAというドラフト外契約選手が多数生まれる。WRとDBは、もともと登録人数が多いポジションだ。ルーキーミニキャンプなのか、OTAと呼ばれる全体ミニキャンプかわからないが、そこへ参加できる可能性は高まったと見ていい。


 栗原のNFL挑戦は、日本代表から見れば戦力的なマイナスだが、そんなことは言っていられない。アメリカとの差を埋めるという大目標から見れば、とてつもなく大きな一歩となる。期待したい。

【写真】ベテランコンバインでQBブレイディ・クインと話すWR栗原嵩