佐竹美帆さんは2011年3月下旬、NFLチアオーディションのため、渡米した。東日本大震災については、受験したサンフランシスコ49ersのチアリーダー「ゴールドラッシュ」の関係者も心配してくれて、面接時には「日本の家族は大丈夫なの?」と心配してくれたという。
 合格後、4月のドラフト会議に合わせて開かれたパーティーの時に、チームが震災のチャリティー募金活動をしてくれた。その際に、ビデオメッセージを撮って送るよう指示を受け、パーティーで流してくれたということもあったそうだ。


 「ゴールドラッシュ」のオーディションは350人が受験、初日は2次にわたる実技審査で半数ずつ落とされていきファイナリスト75人に絞られた。1週間後に、一般にも公開する形で最終審査があった。
 その間に、課題の振り付けや振る舞いなどを確認する合同リハーサルと、チーム面接がある。面接は試験官と受験者の5対5で行われ、一人当たり4問ほどの質問に答えたという。


 ▽自分を出す
 佐竹さんはとにかく、「自分を出せ」というアドバイスを受けていた。日本の場合は協調性というか、自分が前に出ないことを(企業などの)採用の場面でも重んじることがある。
 しかし、米国の場合は「いかに自分をアピールするか」が大切になる。日本人には元々備わっていない資質の上、英語も話せない。そうなると弱く見えてしまう部分がある。どうにかして自分の色を出さなければならない。


 体操をやっていて体幹には自信があったという佐竹さんは、「練習で米国の子たちと一緒に踊って『あ、私負けてない』と思いました」という。身長は160センチで、米国人に交じると小柄だが、体幹がしっかりしていると大きく見える踊り方ができるという。
 ただ、ポンポンを指先で持って腕を長く見せるとか、ダンスはベタ足ではなく爪先立ちで踊り背を高く見せるなどといった工夫は忘れなかったという。フリースタイルの部分ではジャンプを入れて高さを見せることなどもした。また、最終審査のフリーの中で、ハンドスプリング(前転)を決めて、会場から拍手をもらった。


 オーディションでは、まずコリオグラファー(振付師)が、課題となるダンスの振り付けを示して全体で練習をした後、3人ずつ順番に実際の審査となる。その審査前には休憩の時間が入るのだが、佐竹さんは休まずに審査員が見える位置でずっと踊り続けたという。
 単に踊るだけではなく、楽しそうに笑顔で続けた。「笑顔は狙ってというよりは、実際に楽しかったので」と振り返る。自分の演技順の時以外でも、常に見られていると思ってやっていたという。


 後日談がある。佐竹さんが2013年に、プロバスケットボールNBAのマイアミ・ヒートのダンサーオーディションにトライした際にも、同様に休憩時間でも踊り続けていた。すると、チームのディレクターが休んでいた他の受験者に「ちょっとあなたたち、あの子を見て。あの子はずっと踊っているわよね。(審査の時間外であっても)私たちが何も見てないとでも思っているの。あの子が一番目立つでしょ」と語りかけたそうだ。佐竹さんは心中「やっぱり見ていてくれているんだな」と思い、うれしかったという。


 ▽英語
 佐竹さんは「私、英語はかなり苦手でした」という。だが、オーディションの実技はなんとかなったという。振り付けの指示がとても分かりやすく、さらに自分が聞いて理解したと思った部分について、自分より順番が前の人のパフォーマンスを見られるので、「同じようにやればいいんだな」と確認が可能だった。そうはいっても、面接の際は「やはり緊張しました」。


 ただ、佐竹さんの英語コミュニケーション能力を、試験官が理解していたらしく、最初は『あなた英語が分かる?』という質問から始まったという。こちらの誠意は感じ取ってもらえたようで、とてもありがたいと思ったという。
 「なぜアメリカでチアをやりたいの」「なぜ49ersなの」「本当に会社を辞めて、こちらで活動するの」「こちらで暮らしていく方法はあるの」といったベーシックな質問だった。チームの歴史に関する質問などは、佐竹さんに対してはなかったが、他の受験者は尋ねられていたそうだ。


 49ersチア受験時には英語が苦手だった佐竹さんだが、米国滞在でコミュニケーション能力が身に付き、翌年複数の他チームを受験した際は、受験資格をめぐって自分の状況を説明し、チームに納得してもらうまでになったそうだ。


 ▽合格する人数
 「ゴールドラッシュ」の定数は32人。オーディションはベテラン(経験者)も一緒に受験する。佐竹さんが受験した2011年のオフは、「半数近くがルーキーという入れ替わりの年でした」。通常ルーキーは10人弱だという。チームによって入れ替わり、人数はチームによって異なる。
 2014年まで3年連続でデンバー・ブロンコスのチアとして活動している西村樹里さんが初めて合格した2012年は、ルーキーは3人だけという狭き門だったそうだ。


 ▽衣装、メイク、ヘアスタイルは
 オーディション時の衣装はチームのイメージに合わせればよいとは限らない。49ersだから赤い衣装が良いというものでもないそうだ。
 佐竹さんは、チームの公式HPで、前年のオーディションの写真や動画を見て研究したという。「最終まで残ったファイナリストの写真を見て、そういう子たちの間に入ってなじむ衣装かどうか」
 またチームによっては、受験時の衣装にも決まりがあるという。ヘアスタイルやメイクは、やはり受けるチームによって一定の方向性があるため、写真や動画を見るのが良いという。衣装やメイクは、もちろん自分に似合っていることが大前提だという。


 ▽「頑張る」のではなく「楽しむ」
 佐竹さんは「アメリカ人は、作られた笑顔が好きではないし、そういう笑顔を見抜く」という。受験前に、NFLチアの動画を相当見て研究したが、引きつった笑顔が誰一人としていないことに気が付いた。「みんな楽しんでいる。だからもっと見たくなる」。オーディションはとにかく自分が楽しんだ。
 「パフォーマンスなのだけれど競技ではないし、審査されているというよりは、自分が持っている力や、自分が感じているものを審査員にも感じてもらうために表現をする」と捉えたそうだ。


 日本人は真面目なので、「合格したい」という気持ちを前面に押し出してしまいがちだ。「正確に踊らなきゃとか、表情にも硬さが出てしまうんです。でも採用する側が見たいのはどれだけその子に意欲があるかよりも、フィールドに立って踊っている姿をイメージしたいわけで、自然でなければいけないと思います」。自分が何をするかではなく、自分のパフォーマンスを見たお客さんがどう反応するかが問題だということだ。そのためには自分が楽しまなければいけない。


 「私は、楽しめたと思います。オーディションを見ていた人が一番言ってくれたのが『すごく楽しそうだよね』ということで、一緒に受験したベテランの人たちからも言われました」


 2年前、49ersのオーディションを手伝う側として参加した。見ていて気が付いたのは、米国人でも緊張するのだということ。そういう中で、魅力的に見えるのは、やはり自然にふるまえる人だという。「頑張っている姿。それはそれでいいのだけれど、プロフェッショナルではない。チームが求めているものとは違う」


 「少しでも他の皆さんのお役に立てればと思って」と、佐竹さんは、NFLのチアや、NBAのダンサーオーディションに挑んだ自身の体験を以下のブログで公開している。
http://mihosatake.blogspot.jp/


写真=佐竹美帆さん提供

【写真】49ersチアオーディションでの佐竹さん