日本のアメリカンフットボールに多少なりとも関心を持つ人から「富士通フロンティアーズはどうしてチャンピオンになれないのか」と聞かれることが時々あった。同種の質問として「富士通は強いのですか」「何が足りないのですか」というものもあった。その度に答えに窮していた。


 「富士通は強いのですか」という質問には「もちろん、強いです」と即答できる。「何が足りないのですか」という問いは難しい。おそらくどの戦力が足りないのか? という質問と理解するが、戦力的に穴があっても王者になるチームもある。「他チームと比べて、という意味なら、不足している部分はむしろ少ない方です」と答えることになる。


 立命大、法大、日大など強豪大学から優れた選手が加入してくる富士通は、過去のワールドカップや世界選手権、そして昨年4月の国際試合でも、日本代表に多数の選手を送り込んでいる。
 特に、スピードと身体能力に優れた選手が多く、タレントの不足が勝てない理由ではなかった。


 「なぜ王者になれないのか」。一番難解なこの質問には、この2年ほどは「富士通さんが決勝で勝てない理由は、おそらく勝ったことがないからです」と答えるようになった。禅問答のようだが、今となってみれば正解だろう。
 単に経験の有無が勝負を決めるというのではない。勝つための準備、努力をいくら重ねても、それが正解だったかどうかは勝った場合にしかわからない、確信が持てないという意味だ。


 ここで、日本のアメフットファンや、どうかすると関係者の間にもある誤解を解いておきたい。Xリーグは、「100点差ゲーム」に見られるようなチーム力に格差のある対戦ばかりのような印象があるかもしれないが、その認識はまったく間違っている。


 富士通が昨年10月以降に対戦した相手を列記する。
▽IBMビッグブルー =13―41で勝利
▽ノジマ相模原ライズ =0―7で勝利
▽アサヒビール・シルバースター =0―65で勝利
▽パナソニック・インパルス =24―48で勝利
▽オービック・シーガルズ =17―27で勝利
▽IBM(ジャパンXボウル)=10―44で勝利
▽関西学院大学ファイターズ(ライスボウル)=24―33で勝利


 延々と続いた強豪とのタフな試合をすべて勝ち抜いた。私はすべて撮影したが、大差となったシルバースター戦以外のすべての試合で、どう転ぶかわからない局面があった。


 藤田智ヘッドコーチ(HC)は「(セカンドステージ制になって)システムが変わってから、一発勝負の面が薄まり、シーズンの中盤以降7戦くらいはこういう試合が続く。フィジカルにもメンタルにもタフでなければ勝ち抜けない」という。


 そのタフな対戦の中で登山に例えると、最も登頂が困難だったのは、やはり11月30日の社会人準決勝、対オービック戦だったと思う。
 今季の対戦の中で最もスリリングな攻防に満ちていたこの試合。今思えば、これが決勝の舞台ではなかったことが、富士通にとって幸いしたように思う。
 秋季リーグ戦では曲折を経たとはいえ、今季もオービックはずば抜けた強さを持っていた。


 2013年シーズンはDBアルリワン・アディヤミ、RBジーノ・ゴードンが戦列に。今季はQBにコービー・キャメロン、DEにオースティン・フリンという攻守の2枚看板を加え、さらにトム・カウマイヤー、グラント・ジョンソン両コーチを迎えた富士通。飽くなき補強は、極論すれば、計り知れない高さを持つ「オービック峰」登頂のためと言っても良い。


 オービックとの準決勝は、既に書いているので詳細は省くが、富士通の選手はキャメロンを先頭に、高くそびえたつ岩壁にくさびを打ち込み、這い上がり、攻略した。


 強敵に勝ち切った歓喜と放心が、試合後の富士通の選手たちを支配していた。常に沈着冷静な藤田HCでさえ、この試合の後にはある種の虚脱感にとらわれていたようだ。


 決勝という大舞台の手前で「オービックという最高峰」の登頂に成功したたことが、自分たちが長年にわたってもがき苦しんできたことに一つの答えを出した。
 傍からは強力な補強で優勝候補筆頭と言われながら、今季も確信が持てないまま取り組んできた努力と準備が正解だったと判明した。オービック越えにはそういう意味があった。


 ジャパンXボウルではキャメロンが後半負傷で欠場、ライスボウルではキャメロンとフリンの「飛車と角」が最初から欠場しながら、しっかりと勝負をものにした。
 確信と平常心を持った状態なら、優れた米国人の力を借りずとも勝負できるだけの戦術と戦力が本来あったのだと感じた。


 司馬遼太郎さんの小説の中で私が好きな作品の一つが「花神」だが、題名は、主人公で日本の近代軍制の祖、大村益次郎を中国の花咲爺「花神」に例えたことに由来する。
 大村は攘夷のような狂信や武家社会特有の夜郎自大を退け、外国に由来する技術と理論に基づいて、明治維新の礎を作った。


 本場米国の優れた技術や理論に裏打ちされた実力で戦いをリードし、富士通の選手あるいはコーチやスタッフたち一人一人に、平常心と確信という「花」を咲かせてまわったキャメロンを筆頭とする米国人選手やコーチたち。彼らも花神だったのかもしれない。

 ライスボウル後の藤田HCの言葉で最も実感がこもっていたのは「(HC就任してから優勝するまでの10年は)長かった。ゴールが来るのかどうかも、わからなかったから」。その言葉を聞いた時に、どんなスポーツにも神様がいるのだなと感じた。


 NFLでは期待をかけていたスティーラーズがプレーオフで早々に敗退した。米カレッジフットボールは年末年始のボウルゲーム放送が日本ではなくなってしまったため、オハイオ州立大、オレゴン大、アラバマ大、フロリダ州立大の4強による王座争いがテレビで見られなかった。
 アメフットの上では残念続きな私の中では、富士通の栄冠が、ライスボウルから日が経つにつれて大きくなってくる。そういうシーズンだったように思う。

【写真】悲願の日本一を達成、喜びの富士通選手・スタッフ=撮影:Yosei Kozano