1月3日のアメリカンフットボール日本選手権「ライスボウル」は富士通フロンティアーズが関西学院大学ファイターズを33―24で破って、初の日本一に輝いた。この試合、観衆は3万361人と、2011年以来4年ぶりに3万人を超えた。多くの人が見聞きし、語っている試合を、自分なりの視点で書くつもりだった。


 しかし、アメフットファンの間でも有名なブログ「MAJIK MIRROR」の
ライスボウル2015観戦記
http://packmania.blog61.fc2.com/blog-entry-3152.htmlで、ほぼ私の考えていた通りのことを先に書かれてしまった。
 ブログ管理人の草場謙一さんは知人で、私と同年。アメフットは一般のファンの立場だが、いつも落ち着いたニュートラルな意見を展開しており、私もいろいろと参考にさせてもらっている方だ。


 いまさら自分の見方を変えることもできないので、草場さんの見解を紹介しながら、私なりの意見を加えていきたい。まず試合の主なスタッツを記載してみよう。


   富士通    関学大
◎ファーストダウン
(ラン/パス/反則)   18(9/9/0)    22(9/12/1)


◎攻撃
回数/獲得ヤード   64/297ヤード  89/454ヤード


◎パス
獲得ヤード    147ヤード  299ヤード
被インターセプト      2       1


◎ラン
回数/獲得ヤード     37/150ヤード  41/155ヤード


◎反則
回数/罰退ヤード     2/15ヤード   4/30ヤード


◎フィールドゴール
成功/回数      4/5    1/1


◎ターンノーバー     2        1


◎タイムオブポゼッション 27分13秒 32分47秒


 ファーストダウン数、攻撃の獲得ヤード、パス獲得ヤード、タイムオブポゼッションなどすべて関学大が上回っている。
 草場さんは、富士通がほぼすべてのスタッツで関学大を下回りながら勝った理由について、こう分析している。


1.キックオフのリターンが良かった。
2.関学大の9回の(4thダウン)ギャンブルのうち、2回しか成功できず、それが実質ターンオーバーになった。
3.FG(フィールドゴール)成功数で上回った。


 私もほぼ同感だ。そして関学大の4thダウンギャンブルの中で、特に第4クオーター1分過ぎの富士通陣45ヤードからのアテンプトについて
 「ここは定石どおりにパントで良かったんじゃないかと思います」と書いている。


 関学大QB斎藤圭のパスは、富士通CBアルリワン・アディヤミへのインターセプトとなり、アディヤミは38ヤードをリターンし、富士通がタッチダウン(TD)で再びリードを奪うお膳立てをした。


 関学大がこのドライブで得点を奪いたかった理由は理解できる。富士通QB平本恵也のインターセプトで奪った攻撃権だったからだ。リードはわずか1点。しかも直前2回のドライブはTDだ。ここでTDか、少なくともFGを決めれば流れは自分たちに来る。


 もう一度このギャンブルのシーンを振り返る。4thダウン4ヤード、QB斎藤から見て右サイドから富士通DL平井基之がラッシュしてきた。斎藤は左に逃げながら右にターンして平井を振り切った。右サイドのダウンフィールドを見たが投げられない。そこでもう一度左に方向転換した時、ブロックをかわした富士通DL古木亮が目前に迫っていた。
 斎藤はレシーバーを確認する余裕もなくパスを投げたと思う。そしてこの試合、アディヤミのいるサイドには1回もパスを投げなかった斎藤の失投は、アディヤミの胸に「ストライク」で収まった。なぜ投げ捨てなかったのか、などというのは後知恵だろう。


 ただし、ここまで書いてきたことは結果論に過ぎない。ギャンブルに失敗し、最悪の形になったが、決まっていればどうだっただろうか。


 草場さんは「成功していれば、『守りに入らなかったことによる勝利』と言われていたと思います」「『関学が定石通りの試合運びをやっていたら勝っていたかもしれない』と言うのは、あくまでも結果から導いた声だと思います」と書いている。


 ここからは私の視点を加えたい。関学大が、この日のために用意したスペシャルプレーを次々に展開する、ボウルゲーム用の「晴れ着のアメフット」だとしたら、富士通は普段と変わらず、定石通りにプレーを展開する「普段着のアメフット」だった。


 どんな試合でも、私が写真を撮影しながら注意を払うのがサイドラインのあり方だ。サイドラインには、そのチームの姿が現れる。
 この試合の富士通サイドラインには不思議な落ち着きを感じていた。というよりは、秋季リーグ戦のファーストステージ中の試合のようだった。不必要な盛り上がりもなければ、逆転された後でも浮き足立つようなところもない。1年余り前のジャパンXボウルで、ハイテンションで試合に臨みながら、エースQB平本が負傷退場となった後は一転して言葉は悪いが「お通夜」のような空気となってしまったのとはまったく違っていた。


 QBコービー・キャメロンは右肩の負傷で欠場。DEオースティン・フリンも負傷なのか、あるいは別の理由なのか、ゲームに出るそぶりもない。今季補強した「飛車と角」が出られない状況の富士通、戦力面でも関学大に対して優位に立っているとは必ずしも言えない。
 そんな中でも、富士通の選手やコーチたちは落ち着いて、前のプレーに引きずられることなく、次のプレーに臨んでいた。


 スペシャルプレーを決められても「やはり、やってきたか」という冷静な受け止め方をしていたように思う。関学大との戦いに慣れたオービック・シーガルズのサイドラインに比べても、冷静さを感じた。
スペシャルプレーを決め切れなかったと悔やむのは、関学大としては当然だが、勝敗はそこで決まったのではないように感じている。


 私個人の意見としては、関学大の敗因のうち一番大きかったのは、富士通の中村輝晃クラークに2本のビッグリターンを許したことだと思う。


 1本目は関学大がゴール前でWR木戸崇斗からWR木下豪大にスペシャルプレーのタッチダウンパスを決めた後だった。関学大に過去オービックとの対戦でも何度も繰り出した「十八番」を決められた後のキックオフ。中村は一度インサイドにカットを切った後真っ直ぐに走りぬいて56ヤードのリターン。RBジーノ・ゴードンのTDランにつなげた。


 2本目も、関学大RB橋本が3点差に詰め寄るTDを決めた直後のキックオフリターン。ここもスピードを生かした走りで、中村が54ヤードを快走した。
 この後の攻撃は振るわなかったが、日本屈指のプレースキッカー西村豪哲が48ヤードFGを決めて、リードを6点とした。このFGがなければ、この後の関学の逆転TDで富士通が4点のビハインドとなり、もう少し慌てる部分があったかもしれない。


 2本とも、リターンチーム富士通のブロックが格別よかったわけではない。タックルできる位置に複数の関学大の選手がいたが、中村の速さについていけなかったように見えた。
 そして、何よりも大きかったのは、2本ともTDによる失点の後に飛び出し、関学大のモメンタムを断ち切って、富士通に得点をもたらしたことだ。


 藤田智HCは「今やることに集中すること。開幕戦でも、優勝決定戦でもフットボールはフットボール。今できることしかコントロールできない。終わったことや、未来のことはなんともならない」と言い続けてきた。
 その言葉通りに選手たちはプレーし続けた。スペシャルプレーを決められても、インターセプトされても、逆転タッチダウンを喫しても、状況に引きずられずに大部分で悪い流れを断ち切ることに成功した。そんな選手たちを藤田コーチは「ど根性フットボールをやり切った」と独特の表現で称賛した。


 最優秀選手にはキッカー西村を推す声も多かったが、状況に左右されずに自分の仕事をやり切った点、そしてビッグゲームだからと特別なプレー選択をするでもなく、決めるべき時に3点を取りに行った点、そんなフロンティアーズフットボールの象徴として、彼の働きは十分に「ポール・ラッシュ杯」に値するものだったかもしれない。


 最後に別の話を。これも仲の良い知人からの意見を載せたい。ライスボウルを観戦した翌日に新聞記事を読んだ感想だ。


 「ゴードンや、アディヤミについて、名前ではなく外国人、米国人という書き方が見られました。こういう見方を僕は日本からなくしたいと思います。国籍がどこであれ、チームの一員として力を尽くした。そう皆が思うようになってほしいです。そういう意味では外国人選手を日本代表キャプテンに選ぶラグビーは進んでいますね」
  ラグビーとは代表選考の基準が違うとはいえ、まったく同感である。

【写真】2Q開始直後、富士通WR中村が56ヤードのビッグリターン=撮影:Yosei Kozano、3日、東京ドーム