富士通フロンティアーズとIBMビッグブルーが激突した、日本社会人アメリカンフットボール選手権・ジャパンXボウル(12月15日、東京ドーム)。


 後半が始まり、フィールドに登場した富士通のQBは背番号「12」の平本恵也だった。エースのコービー・キャメロンに何かがあったのか。ただ、ドライブの冒頭で控えQBをワンプレーだけ登場させることはXリーグでは時折見られる手だ。そう思ったが、次のプレーも平本だった。
 23―7と富士通のリードは16点、しかもオフェンスがドライブして奪ったタッチダウン(TD)はない。この段階で、キャメロンを休ませるわけがない。何か異変が起きている。


 考えられるのはキャメロンの負傷だ。前半最後のドライブでIBMのDEジェームス・ブルックスとトゥイカ・トゥファーガにQBサックされていたことが思い起こされた。
 400ミリレンズで探したキャメロンは、グランドコートを、右腕を通さないで羽織っている。利き腕の右肩か腕に負傷したのではないか。


 コンピュータ、IT業界ではライバルともいうべき大企業同士の戦いとなったこの試合、ジャパンXボウルとしては久しぶりに2階席を解放した。
 2万数千人が入っていると思われる観客席だが、社会人アメフット、Xリーグをあまり見たことがないお客さんが多いためだろうか。リーグ戦時の川崎富士見球技場に訪れる常連のファンならすぐに気付きざわめくであろう富士通オフェンスの大きな変化にも、格段の反応は見られなかった。


 富士通ディフェンスが好調で、前半3本のインターセプトを奪ったとはいえ、20分のハーフタイム間のアジャストもある。稀代のパサーIBMのQBケビン・クラフトを試合を通じて抑えきるのは困難だろう。前半と打って変わって点の取り合いになれば、16点差は決して大きなリードではない。


 そんなことを考えているうちにも、富士通のオフェンスは進んでいた。前半から引き続き、RBジーノ・ゴードンのアウトサイドゾーンのランが止まらない。
 サードダウンロングに追い込まれたが、平本はWR宜本潤平に13ヤードのパスを決めて、あっさりファーストダウン。さらに宜本に23ヤードのパスを通して、一気にゴール前に迫った。
 仕上げはゴードン、左のアウトサイドを狙うと見せながら縦に鋭く切れ上がり、あっさりとTDを奪った。昨年までのランパス自在の富士通ハイパワーオフェンスがよみがえった感じがあり、IBMディフェンスは気勢をそがれたようにさえ見えた。


 平本がさらに真価を発揮したのは、2度の3アンドアウトを経て迎えた後半4シリーズ目、第3クオーター残り45秒からのドライブだ。IBMトゥファーガの好タックルでロスさせられ、サードダウン13ヤード。この窮地から平本はWR強盛へ29ヤードのロングパスを決めた。左のサイドライン際、ここしかないというところに投げ込んだ。


 さらに、このドライブ2度目のサードダウンコンバージョン、残り12ヤードを迎える。もう後がないIBMは、DL3人、OLB2人に加え、2人以上のブリッツを入れる超攻撃的ディフェンスの構えだったが、勢い余ってDLの3人が飛び出してしまうオフサイドを犯す。
 富士通にとって、失敗しても反則の5ヤードを前進できる、いわゆる「フリープレー」だ。平本は落ち着いて、右サイドを縦に上がったWR中村輝晃クラークに33ヤードのロングパスを完璧なコントロールで決めた。


 相手のミスに付け込む冷静なプレーぶりは、試合出場の乏しさを全く感じさせなかった。ゴール前12ヤードまで攻め込んだ富士通はランプレーをはさんだ後、平本が再び強にパスをヒットしTDを奪った。トライフォーポイントも決まり、37―10。試合を事実上決めたドライブとなった。


 平本にとって、ジャパンXボウルは鬼門だった。2011年(対オービック・シーガルズ)は、途中から出場しながら数プレーで転倒し。じん帯を切る大怪我をして、翌シーズンまでほぼ棒に振った。


 昨年(対オービック)は、ファーストドライブで、オービックDEバイロン・ビーティー・ジュニアの「人間ロケット」にヒットされて負傷、チームのモメンタムまで一気に下がってしまったのは記憶に新しい。そんな過去の屈辱の歴史をきれいに拭い去り、チームに勝利をもたらした。


 試合後、藤田HCは「あれは大きかった、あの1本は。オフェンスが止められて苦しい状況が続いていたので」と、5本目のTDを振り返った。


 「平本は今日は腹がすわっていた。ああいう場面で出てちゃんと仕事をしてくれた」。今年は、キャメロンが正QBになったため、試合に出る機会も少なかった。準決勝のオービック戦は出番がなく、1カ月前のセカンドステージ、パナソニック・インパルス戦で、大差がついた終盤以来の出場だった。「今日の平本は本当に良かった。よく準備をして、自分なりに考えて、気持ちを作ってずっと出番を待ち続けていたんだと思います」。


 平本はハーフタイム中に、後半はいくぞと言われたという。「OLが頑張ってランがよく出ていた。オフェンスのテンポを作ってくれたので、大きなミスをしないように心掛けた」。フリープレーでのロングパスは、キャメロンが同様のプレーをよく決めるので、イメージを普段から持っていたという。「僕が27歳でコービーは24歳なので後輩なんですが、いいコーチです」と平本は言う。


 今春は初めて日本代表にも選ばれ、期するところがあったシーズン。正QBから降格となったことについて、平本はいろいろ思うところもあったという。「社会人になって3年目くらいまでは、努力もせずに文句ばかり言っていた。(キャメロンが来たからと言って)そこにまた戻っても、自分自身が成長できない。こうなったらこうなったで腹をくくってやるしかない」。周囲のいろいろな人たちから心配されることもあるが「気持ちを切り替えて、自分がやらなければならないことに徹することができたと思う」。


 この試合の自分のパフォーマンスについては50~60点と辛目な平本。「ドライブできずに3アンドアウトでパントになってしまったシリーズが2回あった」と振り返った。


 ライスボウルで対戦する関学大は、平本が日本大学2年の2007年に甲子園ボウルで戦い、38―41と激戦の末に惜敗している。キャメロンの負傷の具合は不明だが「いけと言われればいける準備をして、チャンスをものにしたい」。笑顔の中に闘志が見えた。


 平本の話ばかりを書いたが、IBMのQB多川哲史についても触れたい。多川も第3クオーターにクラフトの負傷で途中出場した。パスは10回中9回成功、106ヤードをゲイン。ランでタックルされファンブルリカバーされたプレーもあったが、試合を壊さず、最後までTDの機会を狙い続けた。
 クラフトが加わる前はどちらかと言えばランニングQBだった。クラフトとともに練習することで長足の進歩を見せたパスが、大舞台でトップチームのディフェンスに十分に通用した。


 Xリーグで、米国人QBの起用がゲームを面白くしてきたのは間違いないが、他方で日本人QBが育たなくなると心配する関係者も多いだろう。しかし、二人の日本人控えQBが大一番で見せたパフォーマンスは、育つも育たないも、結局は選手の心がけ次第だと証明したように思う。

【写真】後半から出場しチームを勝利に導いたQB平本を抱きしめる藤田HC=撮影:Yosei Kozano、15日、東京ドーム