11月30日、日本社会人アメリカンフットボール・Xリーグのファイナルステージ(準決勝)は、富士通フロンティアーズが27―17でオービック・シーガルズを破って、決勝のジャパンXボウルに名乗りを上げた。
 日本選手権・ライスボウルを4連覇し、日本のアメフット界に君臨してきた巨大なオービックの壁を、富士通がついに乗り越えた。


 勝負を決めたのは、富士通の第4クオーター9分過ぎからのタッチダウン(TD)ドライブだが、その前にゲームの流れを振り返りたい。


 第1クオーター、WR宜本潤平の55ヤードリターンで、好位置からオフェンスをスタートした富士通は、QBコービー・キャメロンが4回連続でパスを成功させ、開始2分足らずであっさり先制TDを奪った。
 対するオービックは9プレー57ヤードを前進しながらフィールドゴール(FG)にとどまる。富士通は次のドライブでもFGを奪うと、第2クオーター2分過ぎからのオフェンスでは11プレー80ヤードを前進し、キャメロンがWR強盛に2本目のTDをヒットした。


 オービックは、第2クオーター13分からのオフェンス。残り5秒、前半最後のプレーでQB菅原俊が投じたヘイルメアリーパスは、WR池井勇輝に通ったが、池井が一瞬エンドゾーンの手前1ヤードの地点で膝をついてしまい、TDにはならなかった。17―3と富士通リードで後半へ折り返した。


 後半はオービックのレシーブから。リターナーに入ったWR木下典明のビッグリターンで好位置からの攻撃を得たが、キッカー金親洋介のFGが決まらず。しかし、富士通はキッキングでミスが出る。パンター吉田元紀がボールを一瞬ジャッグルしたのをオービックのDEバイロン・ビーティー・ジュニアが見逃さずにタックル。転がったボールをLB中西庸輔がすかさずリカバーした。
 オービックはこのチャンスに、菅原から代わったQB畑卓志郎が自らのランなどで前進し、最後は木下にTDパスを決めて17-10と追撃態勢に入った。


 この後、富士通はフォースダウンのギャンブルに失敗しパントと、3シリーズ連続で無得点。藤田智ヘッドコーチ(HC)が「ミスが出て持っていかれて(TDを許した)。オフェンスが止められて。一番しんどかった時間帯」と振り返った場面だ。
 第4クオーター6分にはFGで3点を追加したのもつかの間、次のキックオフリターンで、オービックの木下が98ヤードのリターンTDで20―17と3点差に。相手のミスに付け込み追撃、さらにエースのビッグプレーでモメンタムを取り戻すTD。オービックらしいフットボールに、私も「結局は、王者が逆転で勝ち上がるのか」と感じていた。


 その流れを断ち切ったのが、キャメロンだった。第4クオーター残り5分51秒、自陣8ヤードから始まったドライブで、キャメロンは絶妙なコントロールのパスをLBの裏に走り込んだレシーバーに落としていく。
 オービックディフェンスもRBジーノ・ゴードンのランを止め、サードダウンロングのシチュエーションを2度作り出したが、キャメロンはいずれもパスでファーストダウンを奪った。


 特に、残り1分54秒、ボールオン34ヤード、サードダウンで残り8ヤードの場面からのパスが決定的なプレーだった。右に流れたキャメロンに対し、反対サイドから富士通OLを突き抜けるようにして追ってきたビーティー・ジュニアが強烈なプレッシャーをかけた。
 キャメロンはジャンプしながらパス。そのボールを、マンツーマンのDBを振り切ったWR宜本がキャッチした。いったん外に流れながら中へ入ってさらにカムバックしてくるという不規則かつ敏捷な動きだった。


 私は、キャメロンがパスを投げた瞬間を撮影し、そのまま前にレンズを振ったが、宜本の動きが速すぎて、追い切れなかったほどだ。このプレーでファーストダウンを更新した富士通に、オービックは残しておいた「虎の子」のタイムアウトをすべて使わざるを得なくなった。


 ゴールまで16ヤード、フォースダウン残り1ヤード。FGで6点差にするのか、ギャンブルしてファーストダウンを奪い勝ち切るのか。富士通はタイムアウトを使って、意思統一をした。残り33秒から始まったプレー、富士通はギャンブルを選んだ。キャメロンはRBゴードンにハンドオフフェイク。そのまま右に出るとエンドゾーンに走り込んだ。キャメロンは両手を広げながらサイドラインに戻り、勝利を確信して歓喜の表情の藤田HCとハイタッチをかわした。トライフォーポイントも決まり27―17。勝負は決着した。


 試合を決めたキャメロンのTDを撮影しながら、私の脳裏には「ドラキュラの心臓に杭を打ち込んだ」という言葉が浮かんでいた。日本選手権4連覇の王者オービックに対して、はなはだ失礼な表現とは思う。
 だが、オービックの土壇場での勝負強さはどこか人間離れしていて、心中、ブラム・ストーカーの小説に登場する不死身の伯爵のようだと感じていたのだろう。


 同時に、オービックが、関西学院大ファイターズに試合最終盤で逆転されながら、残り10秒でTDを上げて劇的な再逆転劇となった2012年シーズンのライスボウル(2013年1月3日)も思い出していた。
 あの試合後、私は「1点のリードでオービックに勝とうとしたのが、関学大の敗因」と感じた。関学大はオービックを追い詰めたが、とどめを刺せなかった。富士通も、今年6月のパールボウルで、残り時間ゼロ秒になってから同点のTDを決められて延長タイブレークとなり、敗れた苦い記憶が鮮明なはずだ。


 試合後のインタビューで、藤田HCの口から最初に出たのは「今何が起きているのか、自分がどうしてここにいるのか、わからない。勝利の実感がまったくない」という言葉だった。


 第4クオーター最後のドライブは「守りに入ったオフェンスだと、すぐに止められてしまう。(オービックは)そういう強さをもったディフェンスなので、攻めるしかないのだろうなと考えた」という。
 だから普段通りにパスで攻めようと言う結論になった。フォースダウンギャンブルのキャメロンのランプレーは「いろいろチョイスはあった中で、考えて決めた。時間もギリギリまで使ってタイムアウトを取った。ディフェンスまでそろって、意思統一をした」結果だった。


 FGを狙わなかったのは、6点差にしても、キックオフでリターンとなれば、TDを奪われるリスクはあるからだろう。確率的なリスク以上に、その数分前に目の前で木下に見せられたインパクトが大きかったのだろうと思う。


 一方、5連覇の夢を断たれたオービック。LBの古庄直樹主将は「キャメロンを止められなかった。(富士通の攻撃を)しのいだシリーズはあったと思うが、攻略したという感じを持てないまま最後までいってしまった」と振り返った。
 「もっとパスラッシュをかけるのか、それともレシーバーのカバーをもっと増やすのか、そういうところの判断で負けた。ディフェンスで、試合中のひらめきのようなものも今日はなかった」。最後のドライブのフォースダウンギャンブルはある意味仕方がなく、それよりもその前のサードダウンコンバージョンで止められなかったことが敗因だという。


 「今季は2敗している。『お前ら、このリーグで勝ち続けられるチームじゃないんだよ』って突きつけられている」と語る古庄主将。厳しいまなざしは、早くも挑戦者のものだった。


 私は今年、Xリーグを秋シーズンだけで32ゲーム、春季も含めれば49ゲーム撮影してきた。複数会場であっても同日開催で、時間的に移動が困難でない限り、電車を乗り継ぎ、古くなって車輪の曲がったカメラバッグを引きずり移動しながら撮影してきた。
 私見として言えば、他チームには失礼ながら、この両者がXリーグで最強を争う2チームと断言できる。そういう予断があったためだろうか。この2チームが合いまみえるのは、ジャパンXボウルだという思い込みがあった。


 これだけの勝負が、4400人余りの観客しかいないスタジアムで繰り広げられてしまったことは、個人的には痛恨の思いだ。もっと多くのファン、もっと多くのメディアが目にすべき試合だった。
 このリーグをいかにして盛り上げるか。「微力な自分にも何かできることはないのか」と、突きつけられた気持ちになっている。

【写真】4Q14分、勝利を決定的にするTDをあげ、歓喜のポーズでサイドラインに戻る富士通QBキャメロン=撮影:Yosei Kozano、11月30日、横浜スタジアム