日本の社会人アメリカンフットボールは11月30日にファイナルステージ(準決勝)の2試合が横浜スタジアムで行われる。
 日本選手権(ライスボウル)5連覇を目指すオービック・シーガルズは、第1試合(午前11時キックオフ)で富士通フロンティアーズと激突する。昨年の社会人決勝、ジャパンXボウル、そして春のパールボウルでも対戦し、好ゲームを繰り広げてきた2強の対決を前に、勝負の鍵を握る男として、オービックのRB古谷拓也にスポットを当てたい。


 16日、大阪・キンチョウスタジアムで行われたセカンドステージのエレコム神戸ファイニーズとの一戦。今季関西に旋風を巻き起こした関西の雄にオービックは45―0で完勝した。ランオフェンスでは、今季初めて200ヤードを超え、ボール所有時間も35分4秒と、エレコム神戸を10分以上上回った。


 ラッシングリーダーは7回で59ヤードをゲインした古谷。タッチダウン(TD)こそなかったが、巧みなランでコンスタントに10ヤードを獲得し、オフェンスのリズムを作った。
 印象に残ったのは第1クオーター14分の走りだ。エレコム神戸の好パントで自陣ゴール前3ヤードからのドライブとなったが、古谷がインサイドを突いて一発で10ヤードを奪い、窮地を脱した。


 試合後、大橋誠ヘッドコーチ(HC)は「ああいうシーンは見慣れてしまったので。プリセットの段階で予想した通りのディフェンスが来れば、ああなるだろうな。拓也の形だなと思った」と、当然のように語った。
 古谷は「RBは獲得ヤードで語られることが多い。足が速くてカットが優れている選手もいくらでもいる。でも、ゴールラインを背負って、あるいはゴールライン前、サードダウンショート。こういうシチュエーションで仕事できないRBは駄目。そこができなくなったら自分もしんどいのかなと思う」と話す。


 1976年9月生まれの古谷は、今年38歳となった。ディフェンスのあらゆる選手からタックルされるRBは、本場米国のNFLでも最も選手寿命の短いポジションと言われる。
 そのRBで、社会人で16年、大学(関西大)時代も含めれば20年をプレーしてきた。「たぶん、日本の現役RBの中で、最も多くボールを持たせてもらってきたし、最も多く試合に出てきた。アリーナフットボールでの対戦も含めれば、最も多く外国人選手と対戦してきた」


 肉体的なピークは、渡米してアリーナフットボールに挑戦した2004~05年だったという。05年シーズンの最後にはライスボウルでラン246ヤード、5TDという記録も作ったころだ。
 「体の切れはその頃が一番だった」。体重もいろいろ試行錯誤してきた。一番増量したのは07年ごろの84キロ。川崎で開催されたワールドカップ(現世界選手権)で、海外の選手に当たり負けしないためだった。今は77~78キロで一番いいという。


 この8、9年は、試合に出られなくなるような大きな負傷はないが、昔はけがが多かった。足首は、大学の時に2回、社会人に入って2年目に1回と、計3回骨折。05年の『ジャパンUSAボウル』では、ハワイの選手に思い切り当たって、左の肩甲骨を折った。ただ、「骨折はしたけれど、肉離れは過去に1回しかない」。


 「トレーニングの回数は年とともに増やしている。練習後のトリートメントの回数も増やしている」。また、平日になるべく体を動かし汗をかいて疲れを体にためないようにしているそうだ。「特に月曜日はしっかり動くようにしている。(シーガルズの)週末の練習明けで休んでしまうと、体に乳酸がたまってしまうので」


 古谷の40ヤード走のタイムは4秒7。一番速かった時でも、今とそれほど変わらず、自分で速いと思ったことは一度もないという。
 「でもLOS(ライン・オブ・スクリーメージ)を抜けるスピードは自分の生命線だと思っている。ここが遅いRBは怖くない」。昨シーズンまではチームのリーディングラッシャーだった。


 30歳を過ぎてもパフォーマンスが落ちなかった理由について古谷は「僕が走れるのはオフェンスラインのおかげ。OLがいなくて裸では絶対に走れない」という。
 どんなふうに走るとOLがブロックしやすいかを考えて走っており、OLのブロックしやすいコース取りを心がけている。それをできるようになったのが20代後半からで、走り方はそこから向上しているという。


 「ディフェンスの選手は、必ずRBである自分の延長線上に来る。自分の走る向きによって、ディフェンスは動く。まだ距離があるのに、ディフェンスを見て動いてはいけない。OLの後ろにしっかりつく『レーンキープ』をして、ディフェンスの選手をOLがブロックした瞬間に動けばタックルはされにくい」
ディフェンスを「プッシュする」と古谷は表現したが、このプッシュがいかにできるかでランプレーが決まるという。


 「OLがしっかりブロックしたその背中ギリギリを走るということを強く意識している」という。オープンが空いているからといって、すぐにオープンに出てしまうのではなく、OLが当たったそのギリギリを急激な方向転換で走り抜けると、奥にもっと大きなオープンスペースができていると古谷は語る。


 1999年にリクルート(当時)に入社した時、RBコーチだった富永一・現オフェンスコーディネーターに体系だったRBの技術を教わった。
 大学時代もなんとなくわかっていたが、「走りたい方角を見ない」目線の使い方、ショルダーの使い方、レーンキープをしながら体の向きでLBをコントロールする方法などを正しく仕込まれたという。


 理論派の古谷が好きなのはゾーンプレー。インサイドゾーンの走り方は「デイライト」と表現される。林立するOLがブロックする後ろから見ると木漏れ日がさすように、走るレーンが開くからそう表現されるが、古谷は「パッと見た感覚で走るのではなく、ルールがあって、レーンをキープしながらOLの背中をちゃんとリードしていくと、きれいにホールを走れるようになる」という。


 NFLではテレル・デービス(元デンバー・ブロンコス)が大好きなRBだった。デービスと同世代では、バリー・サンダース(元デトロイト・ライオンズ)が有名で、一般ファンの評価も高いが「OLの使い方、間合いの取り方ではテレル・デービスがダントツでうまい」。
 現役選手で評価するのはアリアン・フォスター(ヒューストン・テキサンズ)。アウトサイドゾーンの走り方はピカイチだという。


 日本の選手では、関西大学の2年先輩となる波武名生則さん(元アサヒビール・シルバースター)。「当たれて、走れて、ブロックもできて。ずっと憧れていました」。今でも追い抜けていないと思っているという。
 同じ関西大出身のRBで(元富士通の)森本裕之さんも「独特の間合いが本当にすごかった」という。「僕が1年生の時の5年生で、レシーバーの練習をしていた自分を森本さんが『あいつはRBの方がいい』と言ってくれて、RBになるきっかけを作ってくれた」。オフには集まって意見を交換することもある。


 古谷の活躍するシーンはオフェンスだけではない。キッキングプレーでは、リターナーとしてだけでなくカバーチームに入ってタックルなどもする。「僕はキッキング大好きです。自分でやりたいと志願している」
 チームに若手選手が増えた今季は参加する機会が減ったが、「キッキングでフットボール選手の能力が磨かれる部分はすごくある。あれだけ大きなフィールドをフルスピードで走って、そのプレー中に自分でジャッジして、ヒットして。フットボールが凝縮されている」と語る。


 今季のオービックは、古谷、原卓門、中西頌、望月麻樹の4人でRBをローテーションしている。原と中西が26歳、望月は23歳と古谷より一回り下の選手ばかりだ。
 RBコーチでもある古谷は、かなり細かい指導をする。ファーストステップや、体半分ほどエイミングポイントがずれていても、「そこはこう」と身振りを入れて教える。


 原にも望月にも中西にも、それぞれの特徴はある。その特徴を生かして思い切り走ってもらいたいとしながらも、それはダウンフィールドに出た後の話だという。「ハンドオフのタイミングだったり、コース取りだったり、LOS手前ではウチのRBはかなり似た動きをしているはず」


 エレコム神戸戦で今季初の200ヤード超えとなったラン攻撃だが「エレコムのLBの予想外の動きをきっちりスカウティングでき、ゲームプランがはまっただけ」。富士通戦に向けて安心している選手は一人もいない。「ビデオを見れば見るほど富士通のディフェンスは強い。チームとしても強いが、個々の選手が強く、思い切りヒットしてくる」
 今季は毎試合、QBやWRのパスユニットが活躍して勝ってきたが「OL、TE、RBのユニットは、パスプロやゴールラインオフェンスで真っ向勝負をして泥臭く勝ち抜きたい。しっかり当たって、ブリッツをピックしてQBを助けたい」。


 古谷は、オフェンス(ラン、レシーブ)とキッキング(リターン)の合計で通算9884ヤード。あと116ヤードで、1万ヤードの大台となるが、「記録はまったく関係ない。意識もしていない。時計がゼロになった時に勝っていることだけが大事」と言い切った。


 ビジネスマンとしても、多忙な毎日を送る。週末の練習だけでなく、平日夜のコーチミーティングにも参加しなければならないが、職場の理解もあり、アメフットと仕事を両立させている。 
 「練習をして相手を分析して、戦略を立てて、試合で実行をして、それをビデオミーティングで振り返って、そして次の戦略を立てて。これはビジネスのプロジェクトと同じ」


 チームでは、若い選手に仕事に真剣に取り組めとことあるごとに話すという。「『仕事が面白くないとしたら、それはお前が仕事をちゃんとやってないからだ』と言う」。「日本代表に選ばれると、他の代表選手もそれぞれみんな自分の仕事をバリバリやっていて、フットボールができる選手は仕事を語らせてもとても面白い」という。


 そんな古谷は、大学で競技から引退してしまう選手が多い中、若い選手にメッセージを送る。
 「ちょっとでもやりたいな、と思うなら続けてほしい」。高校3年間、大学4年間プレーしたとしても、社会人のアメフットにはまったく違った奥の深さ、幅の広さがあると思うからだ。


 「学生の選手から、社会人になって(アメフットをプレーする)時間はありますかと尋ねられるが、時間は自分で作るもの」。「ハナから両立が難しいと思ったら間違いだと思う。仕事100%、フットボールも100%でやってほしい。家庭を持つようになったらプライベートも100%。そういう気持ちで頑張ってほしい」と熱く語りながら、「嫁さんが聞いたら『家を空けてばかりいるくせに』と怒るかな」と笑顔を見せた。

【写真】エレコム神戸戦できれのある走りを見せるRB古谷=撮影:Yosei Kozano、16日、キンチョウスタジアム