日本社会人アメリカンフットボール・Xリーグは10月4、5日にファーストステージ第4節を迎えた。
 1位通過をかけた戦いが激しさを増す中、最激戦地区イーストで、全勝同士の富士通フロンティアーズとIBMビッグブルーが、4日に川崎富士見球技場で対戦した。
 ファーストステージ屈指の好カードで、富士通のコービー・キャメロン、IBMのケビン・クラフトという米国人QBの初対戦としても注目され2200人余の観客が詰めかけた一戦は、攻守ともに会心のフットボールを展開した富士通が41―13でIBMに完勝した。


 すでに松元竜太郎さんが富士通ディフェンスの活躍について書いているので、ここではオフェンスの勝利について、私なりの見方を書きたい。


 ▽1Q、先制TD
 富士通は第1クオーター3分、QBキャメロンがWR中村輝晃クラークへ、35ヤードの鮮やかなタッチダウン(TD)パスを決めて、先制パンチを叩きこんだ。第1ダウンでWR宜本潤平のジェットモーションスイープで9ヤードをゲインした後、ゴールまで35ヤード、第2ダウン1ヤード。ロングパスを狙っていい場面だ。
 IBMも心得ていて、ジェームス・ブルックス、トゥイカ・トゥファーガという2枚看板のDEが激しいパスラッシュを仕掛けたが、キャメロンはそれよりも早く、エンドゾーンに走り込んだ中村の腕の中にピンポイントで投げ込んだ。


 伏線がある。この2プレー前、富士通はLT小林祐太郎が左肩を痛めて負傷退場していた。190センチ、110キロの小林は日本代表のLTも務める、富士通最強の「QBの護衛役」だ。
 その小林がいなくなった状態で、ブルックス、トゥファーガと向かい合うのはかなり困難だと思った矢先のこのプレー。しかも、ビデオを見直すと、富士通は4WR、1バックのショットガン隊形から、RBの金雄一が5人目のレシーバーに位置を変えてノーバックにしていた。守ってくれるのは5人のOLだけという、危険と背中合わせのプレーで最高のパスを決めたキャメロン。そのメンタルの強さに舌を巻いた。


 ▽前半終了間際、2本目のTD
 富士通はIBMのQBクラフトのパスを、DB三木慎也が第1クオーターと第2クオーターに2回インターセプト(INT)する。しかし、今季のIBMディフェンス陣は粘りがある。2度のターンオーバー後に得点を許さず、オフェンスはフィールドゴール(FG)を2本決めて6―7と追撃する。緊迫したディフェンスゲームのまま、前半の2ミニッツに突入する。


 残り1分13秒からの攻撃で、富士通はホールディングの反則で10ヤード下がりながら、キャメロンが自らのスクランブルなどでファーストダウンを奪って前進する。残り時間は20秒を切っており、ゴールまではなお37ヤード。タイムアウトも残っていたので、サイドライン際のパスで刻んでFG狙いかと思っていた第2ダウンだった。
 キャメロンはIBMディフェンスのパスラッシュを前にすっと出てかわすと腕を強く振った。待っていたのはまたしてもWR中村だ。「コービーは、意外なところに投げてくる。だからパスカバーの空いているエンドゾーン奥に走り込んだ」。ワイドオープンになった中村は、ジャンプしながらTDパスをキャッチした。残り時間は10秒。膠着状態だったゲームの流れが一気に変わった瞬間だった。
 富士通はこの勢いを維持したまま後半になだれ込み、第3クオーターに17点を奪って試合を決めた。


 2本目のTD。エンドゾーン後方に位置取りしていた私は、400ミリ望遠レンズでキャメロンを追っていた。キャメロンの腕の振りで、ポストパターンのロングパスだと瞬時に理解したが、近距離を撮影する短いズームレンズを装着したもう一台のカメラに持ち変える余裕もなく、400ミリレンズを振ってシャッターを切った。かろうじて撮影できたのは2枚。デジタル一眼レフの液晶画面で撮影画像を確認して、安堵したことを覚えている。
 試合後、富士通の藤田智ヘッドコーチ(HC)は、2本目のTDを「スーパーなプレー。ちょっと見たことがない。投げるのもすごいし、あれをああやって捕るのもすごい」と手放しで賞賛した。


 QB出身の藤田HCは、キャメロンを「まず(相手ディフェンスの)カバーリードがうまい。パスのコントロールも良い。そして冷静で無茶をしない。何よりも自分のコントロールができている」と見る。
 中村についても「もともと球際の強い選手だったが、キャメロンから良いボールをもらえるようになって、さらにそれが発揮されるようになった」という。普段からよく意思疎通ができており、試合ごとにコンビネーションが良くなっているキャメロンと中村。「ホットライン」開通と見ていいだろう。


 ▽ホットラインの差
 富士通のキャメロンはパス成功率70%、230ヤードで3TD。IBMのクラフトはパス成功率こそ64.5%ながら、169ヤード、1TDで3INT。米国人QB対決はキャメロンの圧勝だった。しかしこの数字がそのまま二人のパス能力の差ではない。
 Xリーグでもトップ級のクイックネスを誇る富士通のDB陣には、ディフェンスを大幅に強化したIBMといえども、まだまだ及ばない部分があるからだ。


 一つ気になる点がある。二人のメーンターゲットとなるレシーバーだ。キャメロンは来日して半年ちょっとで、中村へのコネクションができあがった。一方、クラフトのホットラインの相手はTEのジョン・スタントンだ。
 この試合も、スタントンのパスレシーブは7回73ヤードと回数、獲得距離ともにチームトップだった。大きくて人に強くシュアハンドなスタントンは頼りになるレシーバーだが、快足ワイドアウトタイプではない。相手DBをスピードで振り切って、縦のロングパスをキャッチするよりは、ショート、ミドルのタッチパスを確実に捕球する選手だ。


 IBMにも、NFL入りを狙っている栗原嵩や、元日本代表の小川道洋らスピード豊かなレシーバー陣がそろっているが、勝負所でクラフトが頼るのはスタントンというケースが多い。
 スタントンがターゲットである以上、ディフェンスが群がるエリアにパスを落としていかなければならない場面も出てくる。富士通やオービックなど、俊敏でボールへの嗅覚が鋭いセカンダリーがそろうチーム相手にクラフトがインターセプトを喫するのは、そんなことも影響しているのではないだろうか。


 試合後、観客も帰り、誰もいなくなった川崎のフィールド。キャメロンはチーム関係者の子どもと思われる男の子と二人きりで追いかけっこに興じていた。無邪気に遊ぶ二人。24歳のエースQBはすっかり日本に溶け込んでいると感じた。
 過去数年、リーグ屈指の戦力を誇りながら、大事なところで涙を飲んできた富士通だが、いよいよ悲願を果たす日が近づいてきているのかもしれない。

【写真】IBMのDEブルックスが迫る中、冷静にパスを投げる富士通のQBキャメロン=撮影:Yosei kozano、4日、川崎富士見球技場