アメリカンフットボールシーズンが始まった。日本の社会人「Xリーグ」や関西学生リーグは、番狂わせや予想外の好ゲームが続き、早くも白熱。本場米国でもNCAAフットボールで、ニュースターの台頭など話題に事欠かない。
 日本時間の5日にはNFLが開幕、新方式の関東学生リーグも週末に熱戦の火ぶたが切られる。そんな中、時計の針を20日ほど戻して、8月中旬にオービック・シーガルズのチームに帯同して見学した、米アラバマ大フットボールチームの話題を書きたい。


 アラバマ大学クリムゾンタイドは、名門、強豪がひしめく米大学フットボールの中でも別格の存在だ。全米王座15回(大学側の認定回数)は、NCAAの1部にあたるフットボール・ボウル・サブディビジョン(FBS)中では最多だ。
 通算323勝の伝説的ヘッドコーチ(HC)ポール・ベア・ブライアントや、後にNFLでスーパーボウルを制覇した3人のQB、バート・スター(グリンベイ・パッカーズ)、ジョー・ネイマス(ニューヨーク・ジェッツ)、ケン・スティーブラー(オークランド・レイダーズ)ら、数多くの名将、名選手を生んできた。


 1990年代から21世紀初めにかけて低迷した時代もあったが、現在のニック・セイバンHCになってから復活。2009年、11年、12年と3回の全米王者(BCS選手権優勝)に輝いた。
 昨シーズンも終盤まで全米ランク1位を独走しながらオーバーン大との伝統のライバル対決に土壇場の逆転負け。第2次大戦後初の3連覇は逃したが、今季も開幕前のランキングは全米2位だ。


 セイバンHCは13年12月に契約を延長、米紙USAトゥデーによると、年棒は690万ドル(約7億2000万円)で、全米で最も高給の公務員(アラバマ大は州立)だという。
 大学スポーツの一監督にそんな高い給料を払うのは、常識外だが、セイバンHCになってチームは昨年度まで7シーズンで72勝9敗。アラバマ大フットボールチームが王者となった2012年度に得た収入は8870万ドル(約92億8700万円)、大学体育局全体では1億4380万ドル(約149億7200万円)という桁外れの巨額なので、名将に払っている高い報酬は、十分に見合っているといっていいだろう。


 見学コースの最初は「ブライアント・デニー・スタジアム」。大学所有の総天然芝アメフット専用競技場で、原則としてアラバマ大のホームゲームしか開催しないため、春の紅白戦を含めても年間7試合という。
 1929年に建設され、幾度となく改築を重ねて現在の収容人員は10万1800人で全米の大学中7位。2週間前の当コラムで9万2000人と書いたが、それは2009年までの数字だったようだ。
 このスタジアムの壮大さはなかなか説明しにくい。余談だが、全米で収容人員10万人以上のスタジアムを持っているのは8大学で、NFL最高はワシントン・レッドスキンズの本拠地フェデックス・フィールドで8万5000人だ。


 スタジアムに至るメーンストリートは「王者の歩み」と名付けられ、全米王者となったシーズンの成績やヘッドコーチ、キャプテンの名が彫り込まれたレリーフが道に埋め込まれている。
 これは、この後の専用練習場見学でも共通なのだが、いたるところに歴代のアラバマ大出身NFL選手の写真や、過去の王座歴を示すモニュメントなどを掲示、さらにスポーツイラストレイテッド誌の表紙なども貼られ、アラバマ大が特別なチームであることを、選手や関係者、そして観客にも強調している。
 試合用のロッカールームには、同じ番号の歴代名選手の名が記され現役選手を鼓舞する、といった感じだ。


 スタジアム内には、ボックスシートが157室あるという。私たちが案内された12の座席と応接室からなる1室は、1年5万ドルの10年契約で、さらに設備維持費として別途40万ドルが必要と聞いた。
 このボックスシートは常時契約が埋まっていて、待機リストに名を載せてもらうためだけで500ドルが必要だという。


 お金の話はさらに続く。スタジアム1階のロビーには寄付者の名前が金額別のプレートに記されている。5万~10万ドル未満は「サークル」。10万~50万ドル未満は「アライアンス」。50万ドル~100万ドル未満は「レガシー」と、金額で扱いが違う。
 そして100万ドル以上の寄付者は円形のホールに肖像画が飾られる。面白いところでは、ビジターチームのロッカールームは「ザ・フェイル・ルーム」つまり「失敗の部屋」と名付けられているが、これはジェームズ・フェイルさん(故人)という有名な銀行家の寄付に由来するという。フェイルさんは生前、自分の名がこんなに役立ったことはないと喜んでいたそうだ。


 次に見学したのはフットボールチーム専用の練習施設だ。前体育局長、マル・ムーアさんの名が付けられたこの施設は、3面の屋外フィールドと、エンドゾーンの後方にさらに25ヤード分のフィールドがある広大な屋内練習場、30×60メートルほどもある巨大ウエートトレーニングルームなどからなっている。
 施設の2階には、過去の優勝トロフィーなどが飾られている。2009年にRBマーク・イングラム(現ニューオリンズ・セインツ)が受賞したハイズマントロフィーもあったが、ハイズマン受賞はアラバマ大としては初めて、これまで唯一というのが意外だった。


 特に日本ではあり得ないと思われた設備が二つ。一つは「クーラーシート」。テント状の屋根に覆われた、20人は座れるだろうという金属の長いすの下から冷気が吹き出す。熱中症対策の最新兵器だという。
 もう一つは選手専用ラウンジの一角にある、ゲームセンターにあるような、オートバイのアーケードゲーム。選手の気分転換のためだろうが、町中のゲームセンターに出かけて無用なトラブルを引き起こさないためでもあるのだろう。


 見学の最後は、アラバマ大の練習だ。内容を詳しく口外しない、撮影も禁止という条件だったため、写真はなく、詳細なリポートもできないが、この日はシーズン開幕までほぼ2週間。セイバンHCが直接指導する、実戦形式の中身の濃いものだったとだけ記しておこう。
 印象に残った選手は、74番をつけた身長200センチ、体重140キロ級の巨漢OLと、27番の大型俊足RBだった。
 後で調べたところ、OLはキャム・ロビンソン。なんと18歳の1年生で、米ESPNの評価では全ポジションを通じて全米3位の評価だったそうだ。27番のRBはデリック・ヘンリーといい、191センチ、110キロの体躯で100メートルをほぼ11秒という俊足で、パス捕球にも秀でた万能バックだという。


 アラバマ大は8月30日に今季開幕戦でウェストバージニア大と対戦し、33―23で破った。ロビンソンは左タックルで先発し、1サックも許さず、パス250ヤード、ラン288ヤードというオフェンスに貢献。ヘンリーは17回のキャリーで113ヤード1TDの活躍を見せた。


 最後に、見学の中で一番印象に残ったことを書きたい。アラバマ大には、各種スポーツの特待生がいるが、フットボールの次に多いのは、アスレチックトレーナー、マネジャーの72人だという。これは、陸上競技と水泳の男女特待生合計よりも20人も多い。
 選手と同等、あるいはそれ以上に、選手を支える学生スタッフを重視する。こんなところに強豪の強豪たる理由があるのだと思った。

 日本では、夏の全国高校野球出場の強豪校女子マネジャーがおにぎりをこれまで2万個握ったというニュースが、話題となっていた頃だ。
 彼女がマネジャー業に専心するために進学コースから普通コースに移ったという話もあって、ネット上では「男尊女卑だ」「選手はコンビニでおにぎりを買え」などという意見もあったと聞く。


 私は、心の底から議論の質が貧しいと思った。そのマネジャーは、おにぎりを2万個握ったのではない。多くの選手たちの体重を増やし、体力を強化したのだ。彼女の努力は間違いなく、チームを強化した。
 他校のマネジャーの記事では、練習後のおにぎりなど炭水化物摂取で、エースの体重が入学時から20キロも増えたケースがあったという。


 野球に限らず、アメフットやラグビーなど、身体接触を伴う球技は、まず大きな体、けがをしにくい体を作ることが最も重要なのだ。仮に進学クラスから外れたとしても、マネジャーとしての実績を評価するスカラシップのような仕組みがあればいいのだ。「おにぎり2万個」という言葉尻にとらわれて、本質を見ていないと感じた。


 延々とお金の話ばかりを書き連ねてきたが、米国のスポーツに追い付くためには、そんな意識からの脱却こそが必要なのかもしれない。

【写真】10万1800人を収容する巨大なスタンド=撮影:Yosei Kozano