社会人アメリカンフットボール「Xリーグ」のオービック・シーガルズの米アラバマ遠征に帯同した取材旅行から帰国して数日が経った。自分の中で、現地で見たあの試合がなんであったのか、いまだに消化できていない部分がある。
 その理由は、セミプロ選抜チーム「APDFLブレイザーズ」に単に負けた(12―16)からではなく、あまりに「オービックらしくない」試合だったからだ。力の限りを尽くした結果、無名チームとはいえ本場のフットボールの底力に屈したというわけではなかった。
 「不完全燃焼」のまま、ずるずると試合が進み、終わってしまったというのが大部分の選手やコーチたちの偽らざる感想ではないだろうか。
 試合をもう一度振り返る。


 オービックは第1クオーター、QB菅原俊が第4ダウンギャンブルからWR木下典明、さらにWR平野勇紀へテンポよくパスを決め、エンドゾーンに迫ると、RB中西頌が3ヤードを走り切って先制タッチダウン(TD)。
 さらに敵陣でDT清家拓也がファンブルリカバーすると、QB龍村学が木下へパスを決めて前進、RB古谷拓也のランはエンドゾーン直前のハードヒットで止められたものの、金親洋介のフィールドゴール(FG)に結び付け10―0とリードした。しかし、オービックらしかったのはここまでだった。


 ブレイザーズは第2クオーターに入るあたりから、QBキキ・レイのスクランブル気味のドローにRBへのパスなどを交えたオフェンスが機能し始める。対照的に、オービックの攻撃はランを止められ、レシーバーの落球などもあり停滞する。
 長尾健のFGはブロックされ、逆に、ブレイザーズはエンドゾーンでパスターゲットとなったWRラブロン・チェンバースがDB渡辺雄一ともつれながらも落球せずにボールを確保しTD。


 10―8と追い上げられたオービックは、前半最後のドライブで残り40ヤード付近からQB畑卓志郎がWR萩山竜馬へのロングパスでTDを狙ったがDBジョン・ウェストグラントがパスカット。さらに続いて畑が投じたパスをDBラバロン・マローリーにインターセプトされてしまう。
 昨秋から強敵との対戦でしばしば見せてきた、ハーフタイム直前の得点でモメンタムを奪う「勝利の方程式」が機能しない。


 後半に入って、試合は完全にブレイザーズペース。ショットガンから機動力を生かして左右にロールしてレシーバーを探し、時にスクランブルするQBレイを、オービックの2枚看板DEケビン・ジャクソンとバイロン・ビーティー・ジュニアが追い回すが、なかなか捕まえられない。
 レイが時間を稼ぐため、オービックDBのカバーがずれてパスも通りやすくなる。オービック守備陣をかき回しながら進んだレイは最後はジェームズ・カーターに30ヤードのTDパスを決め、更に2点コンバージョンも成功させた。


 それでもオービック守備陣が耐えてその後は得点を許さず、6点差のまま第4クオーター終盤に攻撃権を奪った。ここからは菅原が得意とする2ミニッツオフェンス、やはりオービックが勝つのかと思ったが、ブレイザーズは勝負強かった。
 残り1分22秒で、木下を左に走らせて一気に逆転TDを狙った菅原のパスはエンドゾーン付近でDBマローリーにインターセプト。守備陣の頑張りとクロックマネジメントで得た残り20秒からの最後の攻撃でもQB龍村のパスはカットされて試合は終わった。


 オービックは前半、後半の2ミニッツオフェンスをパスインターセプトに仕留められ、逆に決められた2本のTDパスは、いずれもギリギリのプレーだった。
 ブレイザーズはパンター、キッカーが実質的に不在だったにもかかわらず、キッキングで優位に立てず、2点コンバージョンを2回とも許した。「球際に強い」オービックが、看板を相手に譲り渡したかのような淡白さが気になった。


 帰国後調べたところ、QBレイやWRチェンバースらが本来所属するプリチャード・ファルコンズ(アラバマ州)は、昨年までは別のセミプロXSFLで2連覇。今年3月から6月までのAPDFLではレギュラーシーズン10勝、プレーオフ4勝の14戦全勝で優勝し、セミプロの全米南部ランキングでは2位という強豪だった。
 ジャクソンやビーティーのラッシュをかわして繰り広げたパフォーマンスは、こうした実戦経験に裏付けられたものだったのだろう。


 オービックのコーチ、スタッフと大半の選手の出発は8月11日。空港での待ち時間などを含めればおよそ20時間近い長旅を経て試合の3日前に現地入りした。今回の対戦は、千葉県習志野市とアラバマ州タスカルーサ市が姉妹都市だったことから決まった経緯がある。
 現地の受け入れ態勢は極めてしっかりしていたが、私の目には、歓迎行事などの拘束が長く、選手たちのコンディションに影響しないか心配に思えた点もあった。


 アラバマ大クリムゾンタイドの見学は、今回の遠征の中でとても大きなウエートを占めていたと思う。米カレッジフットボールでは名門中の名門で、歴史的名将ポール・ベア・ブライアントら数多の名コーチや名選手を生んできた。
 現ヘッドコーチのニック・セイバンの下では2009、11、12年に全米制覇(BCS選手権優勝)で、通算15回の王座は全米最多。今季も各メディアのシーズン前ランキングで2位につけ、虎視眈々と優勝を狙っている。


 9万2000人収容のブライアント・デニー・スタジアム、複数面の天然芝フィールドと170ヤードの巨大室内練習場、巨大ウエートトレーニングルームなどの施設面。いたるところに張り出されている、選手を煽り鼓舞するスローガンやキャッチフレーズ。栄光のトロフィーやリングの展示。
 さらに1億円を超える寄付をする支援者や、72人もいるマネジャー・アスレチックトレーナーの特待生制度。それらを目の当たりにした後、疲労度を考慮して自由参加とした夜7時からのクリムゾンタイドの練習見学にも、首脳陣だけでなく多くの選手たちが残った。


 一連の日程の中で感じたのが、オービックの「大人感」だ。日本のチャンピオンチームとして親善試合に臨む以上、歓迎行事出席は義務だ。マネジャーやトレーナーの苦心の調整もありコンディションに影響はなかったと思うし、選手たちも十分に行事の重要性を理解し、しっかりとこなしていた。
 現地受入れスタッフの中心として動いてくれたタスカルーサ市姉妹都市協会理事のリサ・キーエスさんの気配りやもてなしにはチームの誰もが感謝した。


 アラバマ大の見学では、選手もコーチも全米王者が見せつけた「桁違いのヒト、カネ、モノ」に圧倒されるのではなく、彼我の差を冷静に理解しながら、自分たちにフィードバックできるものはないか、把握しようとしていた。
 また、数回の歓迎行事の中で顔合わせをしていたブレイザーズの選手力を冷静に判断し、自分たちのフットボールができれば負けることはないと考えていたようだった。


 その一方で、オービックの選手たちが本来持っている「野獣性」や「アグレッシブさ」、米国チームに挑戦するがむしゃらさ、あるいはハングリースピリットのようなものが薄れていたのではないかという気もするのだ。
 米国への遠征は本来、いにしえの兵法者の「武者修行」「道場破り」のような面もあったはずだ。


 大橋誠ヘッドコーチも、古庄直樹主将の急病渡米キャンセルでチームを率いた塚田昌克副将も、悔しさをあらわにし、再チャレンジの気持ちを強く持っているようだ。
 とはいえ、来年7月にはスウェーデンで世界選手権があり、日本代表にも複数名が選出されるであろうオービックにとって、同じ年の夏に米へ遠征するのは難しい気もする。もし次の挑戦は再来年ということになるなら、準備期間はある。


 未知の土地、未知のフィールドで、スタンドからブーイングが飛ぶようなアウェー感あふれる雰囲気で、オービックの選手の磨きぬいた牙を見てみたいというのは無責任過ぎるだろうか。
 日本のサムライが西部のフロンティアを二本差しで行く三船敏郎の映画「レッド・サン」のような遠征。そんなことを夢想しながら、間もなく開幕する日本のシーズンを待っている。

【写真】2Q、オービックWR萩山へのロングパスでTDを狙ったがDBウェストグラントがカット=撮影:Yosei Kozano