私は年に十数回、東京ドームへ通う。とはいえ、プロ野球の取材はもう10年近くご無沙汰で、日本選手権「ライスボウル」、社会人選手権「ジャパンXボウル」などアメリカンフットボールの試合取材が半分。残りは社会人野球の都市対抗野球大会のためだ。
 第85回の記念大会となった今年の都市対抗野球は7月18日から29日まで行われ、連日多くのファンが東京ドームに詰めかけた。そんな「真夏の球宴」を振り返りながら、同じ米国に起源を持つ二つの社会人スポーツを比べながら思いつくままに書いてみた。


 ▽企業かクラブか
 社会人野球は企業チームが2004年には全国で83チームと最盛時のおよそ3分の1まで減ったが、昨年度は89とやや持ち直した。今大会は、予選で企業チームの壁を越えて、室蘭シャークス、全足利クラブ、松山フェニックスの3クラブチームが本大会に出場した。
 また、新日鉄住金かずさマジック、新日鉄住金東海REXは、運営形態はクラブに近いものの、企業チームと同じ扱いを受けられる「広域複合企業チーム」として、2003年から活動している。


 元は新日鉄の野球部だった両チームは、ともに2012年からは「新日鉄住金」がチーム名に加わった。近年クラブ化が進み、企業チームが数少なくなった社会人アメフットXリーグだが、オービック・シーガルズに代表されるように、実態としては有力企業がスポンサーについて活動するチームがほとんどだ。
 広域複合企業チームのように、企業から支援を受けながら、選手の勤務先は複数に分かれていて、地域との結びつきを大事にする。そんなあり方が今後は主流になるだろう。クラブチーム、企業チームという区分け自体が、実は古い考えなのかもしれない。


 ▽観客動員
 29日の決勝、富士重工業(太田市)対西濃運輸(大垣市)には、今大会最多3万人の観客がドームを訪れた。昨年の決勝、JX-ENEOS対JR東日本は、横浜、東京決戦となったこともあり3万5000人だったが、地方からのチーム同士の決勝としては少ない人数ではない。
 また、土日の試合では対戦カードによっては2万人前後の観客を集めている。もちろん企業の動員があるのは事実だが、大会期間中、毎日ナイトゲームを開催するなど、仕事を持つ人が観戦しやすい環境を作る工夫もある。また、名物の多彩な応援合戦も楽しい。ブラスバンドやチアリーダー、郷土色豊かな出し物に、近年はゆるキャラも加わった。米カレッジフットボールの応援にもどこか通じる賑やかさがある。


 Xリーグは、平日夜開催のリーグ戦などとボウルゲームを合わせると年間10試合程度を東京ドームで開催しているが、観客が1万人を超す試合は、ジャパンXボウルと、春シーズンのパールボウルにとどまる。
 ライスボウルを加えても年3試合だ。通常のリーグ戦では、東京ドームや横浜スタジアムでも5000人を超す試合があるかないか。
 2008年9月、オービックが開幕戦のIBMビッグブルー戦で、レギュラーシーズンゲームでの観客1万人を目指し、多方面で努力を試みたが、約6400人という結果に終わった。リーグ戦の好カードで1万人を超す観客が詰めかけるようなXリーグを見たいと思う。


 ▽実力
 プロ野球がある以上、社会人野球は日本のトップではない。しかし、この四半世紀に限っても、メジャーリーガー(野茂英雄、福留孝介、田澤純一)や、三冠王(松中信彦)、MVP(野茂、佐々岡真司、古田敦也、松中、小笠原道大、福留、杉内俊哉、和田一浩)、沢村賞投手(野茂、佐々岡、杉内、摂津正)ら、スター選手を多数生んできた。
 特に田澤は、日本のプロ野球を経ずにメジャーリーガーとなったことで、社会人野球のレベルの高さを証明した。高校野球や大学野球に比べ地味な印象が強いが、国際野球連盟(IBAF)が主催する国際大会にも古くから参加し、キューバなどの強豪国と対戦。プロ野球よりも国際試合の経験は豊富と言っていい。


 一方、Xリーグはレベル的にはアメフットの国内最高峰リーグと言って間違いないが、かつてのNFLヨーロッパのような、挑戦が可能なリーグや組織が国内外にない。国際試合の機会も野球に比べると極めて限られているために、選手やチームの実力に正当な評価が受けられていないのが実情だろう。


 ▽補強選手
 意外と知られていないが、都市対抗野球は社会人野球の日本一を決める大会ではない。日本選手権が、別途秋に開催されているからだ。両大会の違いは何か。それは「補強選手」だ。
 都市対抗野球は、その名の通り都市を代表して参加するので、本大会出場を決めたチームは、予選敗退のチームからエースや中軸打者などを、最大で3人まで選び本大会に出場させることができる。この補強選手の存在が、都市対抗野球を日本選手権に勝るとも劣らない最高峰の大会にしている。
 今年決勝を戦った西濃運輸と富士重工業は、トヨタ自動車や三菱自動車岡崎、日立、新日鉄住金鹿島といった同地区の強豪チームが予選で敗退したため、社会人トップ級の好投手や打者を補強できたのが、躍進の大きな原動力となった。補強で出場し、大舞台での活躍がきっかけでプロ入りする選手も多い。


 以前から、アメフットでもこの仕組みを何とか取り入れられないかと考えることがある。もちろん、野球とは競技の性格が異なるので、有力選手を加えたからと言って即チーム力がアップするようなことはない。
 しかし、例えばキッカーやリターナー、あるいはパスラッシュDEなどポジションやシチュエーションによっては活用は可能なように思う。チームだけではなく、補強選手も強いチームに限定的に参加することで、技術面、精神面などでいろいろ得られるのではないか。


 都市対抗野球では、優勝チームの補強選手は異口同音に「この喜びを、今度は自チームの仲間と味わいたい」と語り、新たなモチベーションにつながっている。アメフットも同様の効果は期待できそうだ。
 ライスボウルがある以上、秋シーズンでは無理だが、例えば春シーズンのボウルゲームで、決勝進出チームに他チームからの補強を制度として取り入れることは、秋と春との違いを出すという意味でも考慮可能な試みではないだろうか。


 ▽天覧試合、「ルーズベルトゲーム」
 今回の都市対抗野球大会は、決勝戦を天皇、皇后両陛下がご覧になった。天覧試合は、プロ野球公式戦ではまだ1回だけだが、都市対抗野球では3回目だ。
 また、4月から6月にかけて直木賞作家、池井戸潤さんの小説を原作にしたテレビドラマ「ルーズベルトゲーム」が放送され、話題となった。長らく逆風の中にある社会人野球だが、今大会は世間一般の注目度が上がったような感を受けた。


 VIPの観戦や、ドラマ、漫画の題材となることと、競技自体の質は関係ないといえばない。しかし、アマチュアであれプロであれ、選手やチームは世の中に注目され、時には批判にさらされることで鍛えられ、強くなると思う。
 もう30年近く前、学生ラグビー人気が絶頂で、国立競技場が年に何度も満員となっていた時代、ある元選手の「早明戦は、河川敷でやったっていい。人に見られるためにやっているわけじゃない」という趣旨の発言をたまたま耳にして、心中激しく反発したことを思い出す。


 かつて週刊「少年ジャンプ」誌で人気を呼び、高校生のアメリカンフットボール入部希望者を増やしたとさえ言われる漫画「アイシールド21」は、連載開始がもう12年も前のことになるという。アメフットが世の中に関心を持ってもらえるような新たな何かが欲しい。最近、特にその思いが強くなっている。

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