先週に続いて、社会人アメリカンフットボール「パールボウル」決勝、オービック・シーガルズ対富士通フロンティアーズの一戦について。


 「Xリーグの歴史に残る名勝負」
 「菅原が見せた歓喜の雄叫びは、日本選手権「ライスボウル」でもなかったほどのもの」


 先週、こう書いたところ、ある方からご意見をいただいた。
 春の試合は、大会とは名ばかりで、極論すれば練習試合に過ぎない。パールボウルも好試合になったとはいえ、途中でいろいろなことを試しながらやっているはずで、本当の本気でやっているわけではない。日本社会人選手権「ジャパンXボウル」や、日本選手権「ライスボウル」と同列に論じるような書き方はよくないのではないかというものだ。


 それはある面では全くその通りだと思う。選手もサイドラインも全知全能を傾けて、後のない戦いをしているわけではない。どのチームも、その年目指すフットボールのピークは秋シーズンとなるよう鍛錬している。
 もっと端的に言えば、春シーズンの不振でHCが交替するチームもなければ、春の結果に満足して引退する選手もいない。


 それでもこの試合は名勝負だったかと聞かれれば、やはり「YES」と私は答える。オービック、富士通が動員をかけたとはいえ、1万6000人が詰めかけた東京ドーム。これ以上の観客を集める試合は、大学、社会人を合わせて五指に余るかどうかという大舞台だ。その中でお客さんは、この試合をアメフットの面白さを堪能したはずだ。


 以前、リーグ改善案の提案をいただいた葛西泰寛さんは「アメフットはルールがわからない、難しいというが、一度素晴らしい試合を見ればわかるようになる。試合の中で、どこで熱くなるか、熱くなれるか。それがわかればいいのです。誰でも4Qの逆転タッチダウンを見れば、試合がわかるようになります」という。まさにそれが現実となった試合だった。


 あるいはこういう見方もできる。1月3日に開催されるライスボウルでどんなに名勝負があったとしても、そこでアメフットシーズンは終わってしまい、国内の春シーズンを待つにしても3カ月半から4カ月試合がない状態が続く。
 しかし、パールボウル終了後約2カ月で秋シーズンは始まる。このゲームを見たことで、アメフットに興味を持って、9月を迎える人も多いのではないか。その興味の矛先がXリーグではなく、学生フットボールでも、米NFLでも、NCAAフットボールでもいいと思う。


 振り返れば、日本のアメフットにとっては、いつにない春だった。Xリーグの事実上の本拠地、川崎球場に新スタンドが完成し、「川崎富士見球技場」となった。
 3年ぶりの日本代表チーム招集、テストマッチ(国代表同士の対戦)として、ドイツ戦、フィリピン戦の開催、初の大学世界選手権開催とカレッジ日本代表チームの結成もあった。


 フル代表、カレッジ代表に選ばれた選手は、この時期としては異例の仕上がり状態で、Xリーグでも、代表選手を多く輩出したチームほど、引きずられるように活性化した。春シーズンにルーキーがこれほど活躍したのもあまり記憶にない。
 X2から昇格した太陽ビルマネジメント・クレーンズがオービックに113―0というリーグ新記録となる大敗を喫したのは、その余波だったともいえる。さらに、クラブチームとして再スタートを切ったリクシル・ディアーズの戦いや、富士通の新米国人QBコービー・キャメロンの登場にも注目が集まった。


 誤解を招く言い方だが、オービック・シーガルズの目標は、ライスボウル5連覇ではないと思う。彼らの目標はもっとシンプルで「より強いチームに進化する」ことで、1月3日はその結果に過ぎない。
 その目標の中で、タイトルの価値も相対化される。彼らは進化を続ける生き物だ。パールボウル勝利がもたらしたのは「春の東日本社会人王者」という位置づけのわかりにくい栄冠を得た喜びではなく、自分たちと同様に、日本のアメフットの従来の枠からはみ出して進化を求める富士通という生き物と戦って勝った、本能的な歓喜ではないだろうか。
 WR木下典明の終始気合いの入ったプレーぶりも、残りゼロ秒の同点劇に思わず反則を犯したサイドラインの昂揚も、QB菅原俊の勝利の雄叫びも、そうでなければ理解できない。


 進化を求める生き物の目は、今違うところに向いている。それは米国だ。8月、オービックは米アラバマ州に遠征する。夏の楽しみが一つ増えたと思っている。

【写真】2年ぶり5度目のパールボウル優勝を果たした、オービック副将の塚田(中央左)と原(中央右)=撮影:Yosei Kozano、23日、東京ドーム