6月23日、東京ドームで行われたアメリカンフットボールの春の東日本社会人選手権「パールボウル」決勝、オービック・シーガルズ対富士通フロンティアーズの一戦は、社会人アメフット、Xリーグの歴史に残る名勝負となった。


 オービックが、残り試合時間0秒で劇的な同点タッチダウン(TD)を決めてタイブレークに持ち込み、逆転勝ちした展開は、すでに多くの媒体で報じられ、アメフットファンの話題にもなった。
 この「週刊TURNOVER」でも、普段はXリーグの話題に触れることがない丹生恭治さんがコラムで取り上げた。私もこの試合について2回に分けて、思うところを書いてみたい。まずは当日、私がフィールドで撮影しながら感じたことをまとめてみた。


 ▽大黒柱、古庄の負傷
 前回のこの顔合わせは昨年12月の社会人決勝「ジャパンXボウル」。試合序盤に、DEバイロン・ビーティー・ジュニアのスーパープレーによって、富士通QB平本恵也がサックされて負傷、ゲームの流れが大きく変わったのは記憶に新しい。
 今回のパールボウルでは、オービックが反対に大黒柱を序盤で失った。主将でLBの古庄直樹が負傷したのだ。サイドライン後方で横たわる古庄の様子からは、試合中の復帰は無理なことが一目でわかった。


 前回の試合で平本が負傷した後の富士通サイドラインの精神的動揺は、すぐ横で撮影していても感じられたが、今回チームリーダーを失ったオービックは反対だった。ディフェンス、オフェンスの主軸の目の色が変わったのがわかった。


 ディフェンスではLB塚田昌克が、その後のプレーでインサイドからブリッツしてQBサック、後ろに下がってパスをカットする動きも見せた。塚田は副将で同じLBパートのリーダー、今春の日本代表でも古庄から引き継ぐように主将に就任した。
 なにかにつけて比較される同ポジションの立命館大の先輩。「古庄がいないから負けた」と言われることだけは我慢がならなかったのだろう。塚田の意地を見たように思う。


 オフェンスでもWR木下典明、RB古谷拓也にスイッチが入ったようだ。すでに81ヤードの先制パスTDを決めていた木下だが、その後も逆転TDとなるパスをキャッチするなど活躍。のみならずキックオフ、パントでもリターナーとして果敢な働きを見せた。
 古庄と同年代の古谷も頑張った。ランでは見せ場を作れなかったがスクリーンパスなどパスキャッチで貢献。最後には劇的なTDを決めた。


 ▽富士通の落ち着き
 今回の試合、富士通のサイドラインには不思議な落ち着きと冷静さがあった。最初のドライブで予想通りパスではなくランで組み立てたプレーで着実に前進し、フィールドゴール(FG)をトライ。しかし失敗して先制機を逃すと、直後のオービックのオフェンスでQB菅原俊―WR木下のホットラインを機能させてしまい、たった1プレーでTDを喫した。
 いつもの先制パンチで、モメンタムは完全にオービック。場内も「またか」という雰囲気に包まれた。


 しかしこの日の富士通は違った。直後のドライブで、WR宜本潤平のジェットモーションで34ヤードを進み、さらに今春絶好調のRBジーノ・ゴードンが35ヤードのTD。ビッグプレーの連発もさることながら、フェースマスクをつかまれて顔が横を向くほどの状態から態勢を立て直し走り切ったゴードンの心と体の強さが、モメンタムを取り返した。
 オフェンスの勢いはディフェンスにも伝わる。先制TDを決めた木下を狙ったパスを、ルーキーDBの石井悠貴が狙いすましたインターセプト。そのままリターンTDを決めて逆転した。王者・オービックを相手にメンタルでは終始臆することなく対峙し続けた。


 やはり、QBコービー・キャメロンの存在が大きかったのだろう。象徴的なのは4Qのドライブだ。オービックDLケビン・ジャクソン(KJ)にサックされ12ヤードロス。しかしキャメロンはジャクソンよりも素早く立ち上がると次のプレーでWR秋山武史に18ヤードのパスをヒット。
 さらにラッシュしたKJをかわすと、QBキープで23ヤードを走ってあっさりファーストダウンを奪った。「KJのサックなどまったく効いてないぜ」と言いたげなプレーぶりだった。このドライブ、最後はWR強盛へのTDパスに結び付けた。


 ミスや失点を意識せず、取られたら取り返す。アメフットに限らず、スポーツでは当たり前のことだ。以前の富士通には欠けていた部分をもたらしたキャメロン。この日はパス成績だけを見れば172ヤード、1TDと不満の残るものだったが、パスは練習すればよい。
 24歳の「若きフィールドジェネラル」が夏を経てさらにバージョンアップするのは間違いない。


 ▽改めて、球際の強さ
 先週のこの欄でも触れたオービックの球際の強さ。それは最後のドライブに凝縮された。
 4Q残り2分あまり、6点を追うオービックは菅原率いるオフェンス陣にすべてを託した。菅原は木下に立て続けに2本のパスを決めて富士通陣内へ。もう一人のエースWR萩山竜馬に14ヤードのパスを決めてエンドゾーンに迫った。ここまではオービックは考えていた通りのオフェンスだろう。


 しかし、残り27秒からの第3ダウン、菅原はレシーバーを探し過ぎた。富士通DL古木亮にサックされてしまうのだ。10ヤードのロス、そしてタイムアウトがないために時計が止まらない。第4ダウン、残り19ヤードで6点差。菅原は冷静だった。
 真っ先に立ち上がってボールを置くと、オフェンスを集めてすぐにスタートした。撮影した写真のデータを見ると、ボールがスナップされた時には残り5秒ほどだったと思われる。レシーバーを探しながら、再びラッシュしてきた古木をかわすと、エンドゾーンに走りこんだ古谷を見つけた。この時点ですでに残り時間はゼロ。
 古谷は菅原が投げ込んだパスをしっかり抱え込みながら倒れた。劇的な同点のTDだった。シャッターを押しながら、私は背中を多数の虫が這いあがるようなぞくぞく感を覚えていた。


 試合後、菅原は「あのプレーは、ラストプレーで準備していました。残り15ヤードで15秒。ノーハドルであのプレーというのは全部決まっていました」。しかも、前日の練習でやっていたという。「きのう練習でやったプレーを現場で決めただけです。RBに決めるのも決まっていました。そういう意味ではコーチに感謝です」と、こともなげに答えた。
 言うのはたやすいが、あの混乱した土壇場で決めることができるオービックの強さを改めて見せられた気がした。まさに「練習は実戦と思え。実戦は練習と思え」という格言を地で行くプレーだった。


 そして後から撮影したデータを見直してわかったのだが、古谷もキャッチした後ボールを空中でジャグルしている。しかし体で抱え込むようにして倒れ、決してボールを落とさなかった。
 本当に大事なプレーではオービックオフェンスは古谷にボールを託す。それは古谷がボールではなくチームの信頼をキャリーしているからなのだと感じた。


 オービックは、この同点劇に興奮したサイドラインの一部の人間がインフィールドに出てしまい、アンスポーツマンライクコンダクトの反則を取られ、15ヤード罰退してトライフォーポイント。これが外れて延長戦となった。
 しかし、流れは完全にオービックに傾いていた。タイブレーク1回表裏はともにフィールドゴール(FG)で3点ずつ、2回表もキャメロンのパスを許さずにFGに抑えると、その裏の攻撃で菅原は自らエンドゾーンに1回転しながら飛び込んだ。
 普段は冷静な菅原が見せた歓喜の雄叫びは、日本選手権「ライスボウル」でもなかったほどのものだった。(後編につづく)

【写真】4Q残りゼロ秒で同点TDパスをキャッチするオービックRB古谷=撮影:Yosei Kozano、23日、東京ドーム