社会人アメリカンフットボールのXリーグは23日、東京ドームで春季シーズンの大団円を迎える。春の東日本社会人選手権「パールボウル」決勝、オービック・シーガルズ対富士通フロンティアーズの一戦だ。
 日本選手権「ライスボウル」4連覇、2010年以降の4年半で国内公式戦55試合を53勝2敗という最強王者オービック、そのオービックに唯一2勝した富士通。現在、社会人のみならず、日本のアメフット界全体で見ても抜きんでた力を持つ「ツインピークスの激突」を、両チームのオフェンスから考えた。


 ▽オービック、前半のツーミニッツオフェンス
 オービックが強い理由は、これまでも何度も書いてきた。「分厚い戦力」「ポジションリーダーとなるタレント」「チームの外でも内でも競争がある」などなどだ。しかし核になっているのは何か。それは「球際の強さ」だと思う。
 単なる勝負強さではない。勝機を見誤らず、決して浮き足立つことなく、決めるべきところで決める。その一つを示すのが、前半残り2分からのツーミニッツオフェンスだ。王者としての強さ故、試合終了間際にオフェンスが追い上げる展開となったことはほとんどないオービックだが、昨年来、大事な試合で決めているのが、第2クオーター(Q)14分以降の得点だった。


 昨年秋のセカンドステージ、アサヒビール・シルバースターとの一戦以来、今春まで8試合中7試合で、オービックオフェンスは第2Q14分過ぎから得点している。そしてその得点は、フィールドゴールだった関学大とのライスボウル以外、6試合でタッチダウン(TD)だ。
 シチュエーションも異なる。アサヒビール戦は、予想外の苦戦の中、先制となるTD、鹿島ディアーズ戦では7―6と詰め寄られた状態から8点差に突き放した。今季に入って、5月31日のIBMビッグブルー戦では、前半で何とかキャッチアップしようと焦るQBケビン・クラフトからインターセプトで奪ったボールを、QB菅原俊がハリーアップオフェンスで7点に結び付け、IBMの傷口に塩を塗った。
 7日の準決勝、ノジマ相模原ライズ戦では1分余りで11プレー66ヤードを進んで逆転TDと、いずれも中味が濃い。


 アメフットはアジャストのスポーツだ。正味10数分のハーフタイムで、前半の相手のプレーを分析して、自軍の戦い方を修正する。後半に向けて対策を練るサイドラインにとって、前半終了直前の失点、それもTDの7失点は大きな誤算になる。モメンタムでも、優位に立った状態でハーフタイムを過ごせるのは大きい。
 競った展開での勝負に持ち込み、相手に決めさせずに決め、主導権を握り続ける。大試合での経験が豊富なオービックらしい強さの表れだ。


 ▽QBキャメロンとクラフトの違いは
 今回の試合で、過去の両者の戦いと最も異なる要素は富士通に加入したQBコービー・キャメロンの存在だろう。
 米ルイジアナ工科大でエースとして活躍し、2年前には12試合でパス4147ヤード31TDを記録、その年のハイズマン賞QBジョニー・マンゼル(現NFLブラウンズ)と互角以上のパス合戦を演じたトップQBだ。昨シーズンの社会人決勝「ジャパンXボウル」でQB平本恵也を、試合冒頭でサックされ負傷に追い込まれた富士通が、「打倒オービック」のために出した結論とも言える。


 オービックの大橋誠ヘッドコーチ(HC)もキャメロンを十分に警戒している。10日の記者会見では「パス守備については、IBMクラフトのパスオフェンスに対して、突きつめて取り組んだ。IBM戦前の3週間は、珍しくチーム内の練習でもディフェンスがオフェンスにやられることが多く、とてもピリピリした緊張感のある練習だった。この取り組みが富士通のパスオフェンスに対しても生かせる部分があると思う」と語ったそうだ。


 確かに、オービックが対IBMビッグブルー戦で見せたパスディフェンスは素晴らしいものだった。クラフトは来日3年目。自身がオフェンスコーディネーターを務め、レシーバー陣とのタイミングも合い、なによりも日本のフットボールに慣れてきている。
 選手として1年のブランクがあり、練習も不十分で日本での試合経験も少ないキャメロンと比べれば、現時点ではパスはクラフトのほうが上だと言ってよい。そのクラフトを封じ込んだ守備であれば、と誰もが納得するだろう。
 しかし、対クラフトで磨きぬいた対策がキャメロンと富士通オフェンスにそのまま通じるかといえば違うと思う。その理由を以下に書きたい。


 キャメロンを最初に見たときの私の印象は、「RBを使うのが巧みなQBだな」というものだった。実際、これまでの3試合は富士通のランは366ヤード(対ハリケーンズ)、288ヤード(対アサヒビール・シルバースター)、211ヤード(対リクシル・ディアーズ)と、いずれも200ヤードを超えている。
 特に社会人トップ級のLBを擁するリクシル戦でのスタッツは意味が大きい。プレー選択でも、3試合の合計で、パスが101回、ラン98回とほぼ均衡している。もちろん、今の日本で三指に入るであろうダブルエースRBの高野橋慶大、ジーノ・ゴードンの存在が大きいが、キャメロン自身が、クラフトのような根っからのパサーとはどこか違うように思えた。


 気になった私は、キャメロンが率いた2012年のルイジアナ工科大のスタッツを調べてみた。すると、プレー選択ではパス533回、ラン521回と変わらない。獲得距離ではランは2726ヤードで、1試合当たり227.2ヤードは全米124大学中16位の好成績。TDに至っては、パスによる33本に対して、ランは47本。これは全米2位だ。結果、ルイジアナ工科大のオフェンスは、1試合平均得点が51.5点で全米1位だった。


 この年のルイジアナ工科大はケネス・ディクソンとレイ・ホリーという二人の優れたRBを使い分けていた。レシーバー陣もNFL入りしたクイントン・パットン(現49ERS)ら、俊敏・小型な選手がそろっていた。
 バックフィールドの人材構成まで、今の富士通と似ている。つまりキャメロンは、パッシングオンリーのQBというよりは、多くのタレントを使い分けて、大量得点を狙う「ハイパーバランスアタック」の指揮官なのだ。


 誰もが認めるリーグ史上最高のパサーでありながら、あまりにも自分が優れているために、攻撃の主軸が1人となる。結果として、ビッグゲームではディフェンスの標的になり、勝ち切れない。これはNFLデンバー・ブロンコスのペイトン・マニングに対する私の率直な感想だ。
 レベルの差はあれ、IBMのクラフトに対しても、末吉智一という才能あふれるRBを使い切れず、最後は自滅する点で同じ感想を持っている。


 自分のパスにこだわらず、優れたRBがいればそれを生かす。「パスオフェンスのベストフレンドはランオフェンス」という、アメフットのことわざをよくわきまえていて、持っている手段をすべて使って攻め続けるのがキャメロンの真骨頂だ。
 藤田智HCは「キャメロンが加わって、オフェンスがガラリと変わったが、よくここまで形になってきたなという印象。一方でまだまだ詰められていない部分も多い。チームのポテンシャルとしてはまだまだあると思っている」と言う。レシーバー、RBともにスピード、クイックネスではXリーグ随一の人材を誇る富士通オフェンス。その最後のピースとしてキャメロンが機能するとき、藤田HC会心のゲームになるのではないだろうか。


 ▽名人同士の戦い
 競った展開での経験、勝負強さでは、オービックは富士通よりも一枚も二枚も上手だ。だが富士通オフェンスの潜在能力は、オービックの想像を超える可能性がある。僅差でオービック、3ポゼッション以上の差なら富士通というのが、一応の予想だ。しかし、率直に言うと、予想はつかないという方が正しい。


 先月、将棋の第72期名人戦七番勝負で、羽生善治三冠が、森内俊之名人を4連勝で破ってタイトルを奪還した。決着局となった第4局の終盤で「控室の検討が当たらない。終盤で検討と実戦の進行が一致するときは、形勢に差がついていることが多い」という自嘲気味の解説を読んだ。
 将棋界の叡智がそろって検討しても、大差でない限り予想が当たらないということだ。ともに43歳、名人戦での対戦は9回目で、大山康晴十五世名人対升田幸三実力制第四代名人と並ぶ史上最多タイという宿命のライバル対決は、第三者の予想を超えたところで展開されたのだった。


 49歳になったばかりの大橋HC、9月に47歳となる藤田HC。日本アメフット界の名人戦ともいうべきライバルの戦いは、将棋同様、凡人の考えが及ばないところで決着がつくだろう。下手な予想などせずに、「進化する日本のアメフット」を楽しむのが一番なのかもしれない。

【写真】今春、一段と冴えた走りを見せる富士通RB高野橋=撮影:Yosei Kozano