アメリカンフットボールを見ていて、NFLと日本の社会人アメフットXリーグで異なる点はいろいろとあるが、その一つがQBの起用方法だと思う。
 NFLは基本的にQBをエースで固定、スペシャルプレーを除けば、大量点差でリードするか、拙劣なミスを連発しない限り、交代はない。ミスで交代させられた場合、それは一時的なものにとどまらずトレードなどの人事に結びつくこともある。


 出場登録の人数が45人と少ない上、第3QBの出場に制約があるなど、QBを交代起用しにくい事情もあるが、もっと大きな理由は、「QBとはリーダーである」という考えによるものだろう。
 100人近い選手がいて、バックアップの人数も多いNCAAフットボールでも、試合に出るQBは原則エースだけというチームが多い。

 それに対して、Xリーグは二人か、それ以上のQBを1試合の中で交代させながら起用するのが近年は当たり前だった。1人に負荷をかけ過ぎない、タイプの違うQBの起用で戦術に幅が出る、サイドラインから自軍のオフェンスを見る機会ができる―などのメリットがあったとはいえ、エースQB、ひいてはオフェンスのリーダー不在につながりかねない。そんな「Xリーグの常識」が、今変わってきている。
 7日に川崎富士見球技場で行われたパールボウルトーナメント準決勝、オービック・シーガルズ対ノジマ相模原ライズと富士通フロンティアーズ対リクシル・ディアーズの2試合は、4人のQBがエースとしての力量を問われた試合となった。


 ▽オービック・菅原俊VSノジマ相模原・木下雅斗
 オービックの先発QBは前戦に続いてルーキーの畑卓志郎。畑は最初のパスをインターセプトされ、リターンタッチダウン(TD)を喫するなど、計2インターセプトと振るわずに第2クオーター(2Q)の頭で菅原俊に代わった。


 降りしきる雨は、手が大きくない菅原にとってもパスを投げるのに不利な条件。登場後2回のドライブはいずれも「3&アウト」、ファーストダウンを奪えなかった。
 しかし、前半残り1分39秒からのドライブで、エースは真価を発揮する。ノーハドルで11プレー66ヤードのドライブを演出し、最後はWR萩山竜馬に逆転のTDパスを決めた。


 後半に入っても菅原にとって厳しい状況は続く。ノジマ相模原ディフェンス陣の素早い反応でオービックはランをほぼ封じ込まれ、雨は強くなり、3Qにはエンドゾーンまで2ヤードに迫りながら菅原がサックされて後退、フィールドゴール(FG)も失敗した。その後、相手のパントミスから得たチャンスを生かし、この日2本目のTDパスを萩山にヒット、点差を広げた。


 しかし菅原のこの日ベストドライブは、TDを決めた2本ではなく、4Q最後の攻撃だろう。残り7分1秒で得た攻撃権で、菅原率いるオフェンスは第4ダウンのギャンブルも含めて、次々とファーストダウンを重ねた。
 大橋誠ヘッドコーチ(HC)が「よくあんなところに投げるな、と思った」という、この日最長の26ヤードのパスを含め、4回連続でパスを成功させるなど、7分間を15プレーで使い切り、ノジマ相模原の望みを絶ち切った。
 最後は、ゴール前11ヤードで不要な追加点を狙わずにボールを抱えて膝をついた。TD以上に強さを印象付ける菅原のニーダウンだった。


 ノジマ相模原のQB木下雅斗はベテラン小島崇嘉の引退で、今春から完全に一本立ち。ここまで2戦は大量リードで途中交代していたが、この日は攻撃の全スナップを受けた。
 昨シーズン中盤から、スクランブルが減り落ち着いてパスターゲットを探せるようになった木下だったが、この試合はオービックのディフェンスラインの強いプレッシャーと、レシーバーへの厳しいカバーで思うようにパスが投げられない。


 結局走らざるを得ないシーンが目に付いた。木下のランは14回だが、デザインされたランがどれだけあったか。オービックディフェンスにしてみれば、外をまくられないようにしっかり守って、TDやロングゲインを奪われなければ、むしろ注文通りだったのではないか。


 ノジマ相模原は、オービックを上回る15回のファーストダウンを奪いながら、オフェンスのTDはなし。RB東松瑛介の走りは決して悪くなく、チーム全体でも120ヤード以上を記録したラン(スタッツ上は2回のパントミスのため86ヤード)を生かすことができなかったのは悔いが残るだろう。


 ▽富士通・コービー・キャメロンVSリクシル・加藤翔平
 第2試合の開始時には雨は一層激しくなった。ジーノ・ゴードンと高野橋慶大という、リーグ最高のRBデュオを擁する富士通だから、ランを中心にボールコントロールするかと思われた。
 しかし、キャメロンは最初からこともなげにパスを投げ続けた。FGで先制後、インターセプトで得たオフェンスでは、WR中村輝晃クラークに長短のパスを連続で成功させTD。前半終了間際には26ヤードのTDパスを再び中村に決めた。


 4Qには、ゴール前6ヤードから自らエンドゾーンに飛び込みリクシルを突き放した。その後リクシルが追い上げたが、TDを奪われた直後のドライブでは常にTDを返し、モメンタムを与えなかった。
 富士通の藤田智HCは「キャメロンは、雨は別に気にしていなかったので、普通にパスを投げさせた。レシーバー陣はこういう天気でパスを捕るというのはあまり機会がなかったろうから、いい経験になった」という。米カレッジフットボールのトップQBが見せた、フットボール外の要素に動じない強さは、さすがだった。


 リクシルのQBは4年目の加藤翔平。2学年しか違わないパスの名手・山城拓也が引退し、ユニットのリーダーとなった。
 関学大時代から大器と期待され、昨秋セカンドステージのパナソニック戦では気迫の逆転劇を見せるなど年々成長。この春は日本代表にも選ばれた大型パサーだ。


 しかし、この日の働きは、エースの名にふさわしいとは言えなかった。最終スタッツだけを見ればパス267ヤード3TDは立派で、キャメロンに引けを取らない。
 しかし、雨の激しい前半からパスで試合を作りTDを重ねたキャメロンに対し、加藤は、雨が小降りになった4QにWR前田直輝にTDパスを決めるまで、無得点。パスは3Qまで8/21で57ヤードという惨憺たるものだった。


 4Qのロングパス連発と4TDは、加藤の能力を物語るが、悪天候が続いていたら果たしてどうだったか。リクシルはRB陣の世代交代の中で、得意のラン攻撃が迫力を欠いている。
 QBが前田、中川靖士、宮本康弘、藤森裕人ら身体能力に優れ技術も高いレシーバー陣を使いこなせなければオービック、富士通の2強に伍していけない。秋のシーズンに向けて、加藤に与えられた宿題は多い。


 エースQBを固定化し、育てる。それは自チームのためだけではない。特に加藤は、来年の世界選手権に向けて、日本代表のオフェンスリーダーを目指さなければならない。
 前回の世界選手権で代表だった高田鉄男(パナソニック)は30代半ばにさしかかり、東野稔(アサヒビール)は秋のシーズンを40歳で迎える。彼らを追い落すくらいの気構えを持った若いエースQBの台頭を望んでいる。

【写真】オービックのQB菅原は最後にニーダウン、試合を終えた=撮影:Yosei Kozano、7日、川崎富士見球技場