強いアメリカンフットボールのチームは、本場米国ではしばしば「ミーン」と表現される。ミーンの直訳はこのような場合「意地の悪い」だが、ことアメフットに関しては、そういう生やさしい表現ではなく、語感的には「強欲な金貸しのような」とでも言い換えた方がぴったり来る。
 「相手の出端をくじく」「弱みにつけ込む」「取れるときにはとことん取る」「情け容赦がない」。5月31日に川崎富士見球技場で開催された、社会人アメフットのパールボウルトーナメントDブロック、オービック・シーガルズ対IBMビッグブルーの試合は、いささか誤解を招くような表現で恐縮だが、オービックの「借金取りのような強さ」が際立った一戦となった。


 ▽QB畑の先発起用
 試合前に配布されたスターティングメンバー表には、ルーキーQB畑卓志郎の名があった。先週のこの欄で「重要なシーンでの投入もあるかもしれない」と書いたが、いきなりの先発起用とは思わなかった。
 畑が最初に決めたパスは、エースWR木下典明へのスラント。何年もコンビを組んでいるのかというくらい絶妙のタイミングでファーストダウンを奪った。ミドルパスとランを挟んでこの試合3本目のパスが、木下への41ヤード先制タッチダウン(TD)となった。
 次のドライブでは、第4ダウンのパントフォーメーションからバイロン・ビーティー・ジュニア(BJ)が意表を突いたランプレーで27ヤードをゲインしゴール前へ、RB中西頌が押し込んでTDとし、第1クオーターで14点差とした。


 先発の大役を言い渡されたのは1週間前だったという畑は「ローテーションで起用されることは、それ以前から言われていたので、出番が最初になっただけ」と淡々と語った。
 ポーカーフェイスはQBとしては重要な資質だが、名門関学大で修羅場をくぐってきた男だけに、このくらいでは本当に緊張しないのかもしれない。「パスがよかったのは最初のドライブだけ、2回目以降は納得がいかない」と反省する畑だが、効果的な先制攻撃で試合の流れを作り出したのは間違いない。


 ▽勝負所を締めた菅原
 オービックは、畑、龍村学、菅原俊の順にQBを起用した。大橋HCは「出てきた順番が、そのまま今の力の順番」と、ライスボウル4連覇の中心だった菅原にあえて厳しい評価をする。
 チーム内に競争を起こし、大黒柱であっても煽りたき付けて安閑とさせないという側面もあったと思うが、それだけではない。IBMのパスオフェンスはいつでも大量点を奪う能力を秘めている、先制するよりは、勝負所で効果的に加点し、試合を決めることがより難しい。


 菅原はその重要な役割を冷静に遂行した。第2クオーター、BJのインターセプトから得た攻撃では、ノーハドルで進むと木下に20ヤードのパスをヒットし、残り36秒でTDを挙げた。前半終了間際の、しかも相手ミスからの得点。IBMには傷口に塩を塗られる失点だったに違いない。
 第3クオーターには、IBMがようやくQBケビン・クラフトのTDパスで初得点を挙げると、次のドライブで菅原は即座に58ヤードのTDパスを決め、懸命に盛り上がろうとするIBMに冷水を浴びせた。
 昨秋は10試合でTDがなく、ショートパス専門と思われていた伏兵WR森健太郎をターゲットに、試合を決めた一撃だった。


 意表を突いた畑先発も、終わってみれば適材適所のQB起用に思える。そうさせたのが菅原の「決める」力だった。


 ▽復讐のディフェンス
 昨年9月のリーグ戦で、クラフト率いるIBMオフェンスに41点を奪われたオービックディフェンス。過去5年間でも最多失点で、敗れた試合でもこれほど点を取られたことはなかった。
 試合は勝ったが、ディフェンスには屈辱だったはずだ。大橋誠ヘッドコーチ(HC)によると「この3週間、本当にピリピリしていた」という。そのディフェンスの復讐は完璧だった。


 クイックリリースのクラフトがボールを持ったまま逃げ回るシーンが何度も繰り返された。パスターゲットを探せないのだ。それくらいオービックDB陣のIBMレシーバーに対するカバーが徹底していた。
 さらに、ディフェンスの「助さん、格さん」ケビン・ジャクソン(KJ)とBJの使い分けも見事だった。KJは、ほぼパスラッシュが中心で、執拗にクラフトにプレッシャーをかけたが、BJはしばしばダウンフィールドに下がってパスカバー。第2クオーターには右腕だけでボールに飛びつき鮮やかなインターセプトを決めた。
 クラフトのパス成績は199ヤード、1TD。パス成功率42.1%と2インターセプトはワーストだった。


 ▽真のヒーローはOL
 気温が今年初めて30度を超え、真夏よりも強い日差しが照りつけたこの試合。タイムオブポゼッションはオービックが38分6秒と、IBMを16分以上も上回った。39回で165ヤードを奪ったラン攻撃だが、10回以上キャリーしたランナーはなく、最高はRB原卓門の41ヤードという「誰が走ってもランが出る」状態。
 RB陣の層の厚さもあるだろうが、ここはフランク・フェルナンデス、ケアラカイ・マイアバ、この日が社会人デビューとなった坂口裕らオフェンスラインを称賛するべきだろう。フェースマスクの間から汗をしたたらせながら奮闘した彼らが、この試合の真のヒーローかもしれない。


 ▽王者に死角はあるか
 「昨年一番苦戦した相手」IBMを粉砕したオービック。分厚い戦力、傑出したタレント、勝機を逃さない勝負強さは、今季も変わらないどころかさらに磨きがかかったように見える。王者に死角はあるのだろうか。


 一点だけ気になるのはオービックの試合間隔だ。次戦の準決勝、ノジマ相模原ライズ戦(7日、川崎)までは中6日となった。昨年、国内公式戦連勝を37で富士通フロンティアーズに止められて敗れた前週に、オービックはドイツに遠征し、デュッセルドルフ・パンサーと対戦した。
 実質中5日の日程だったが、それに近い。昨年のような長距離移動、時差の影響はないが、今回は真夏のようなコンディションで15分クオーターをフルに戦った疲労がある。コンディション面よりも大きいのは準備だ。オービックは、パールボウルのブロック組み合わせと日程が決まった段階から、早々にIBM戦を意識し対策を立てていたに違いない。緊張感をそのままに、戦術の切り替えが必要となる。


 ノジマ相模原は、今春は日本代表にも選ばれたRB東松瑛介、宮幸崇が好調な上、名QBだった須永恭通HCの教えを受けて、QB木下雅斗が年々巧みさを増している。もともとオービックとの対戦では競り合った展開になることが多い。反則を減らし、キッキングでミスが出ないようにすれば、勝機は十分にありそうだ。

【写真】意表を突いたフェイクパントからのランで27ヤードをゲインしたオービックBJ=撮影:Yosei Kozano、31日、川崎富士見球技場