社会人アメリカンフットボールのXリーグは、29日から春の東日本社会人選手権「パールボウル」トーナメントが始まった。
 新装・川崎富士見球技場の開幕戦に登場したのが、LIXIL(リクシル)ディアーズだ。鹿島のアメフット撤退発表から1年。クラブチームとなった新生ディアーズの船出を、森清之ヘッドコーチ(HC)の話を中心にまとめた。


 ▽選手、スタッフへの聞き取り
 鹿島の支援が2013年度限りということが4月上旬にチームに伝えられた後、森HCと丸田泰裕主将はすぐに動いた。
 「今後どうしたいのか」。選手やスタッフ一人一人から聞き取りをした。その際に森HCが強調したのは、「鹿島として終わるというのであれば、それはそれで駄目なことでもなんでもない。感情論だけで、とにかく続けたいというだけでは難しい」。


 ある程度のチームのクオリティーを維持するためには、今のXリーグでは「気持ち」だけではなんともならない。特にアメフットは大所帯になるので、費用もかかる。
 その場での気持ちの高ぶりで「何とかするんだ」ということで、個々の選手やスタッフがそのコストを負担するのでは、せいぜい持って1年、2年。常に優勝争いをするためのチーム力を維持する最低限の環境があり、それを得るのが難しいというのであれば、継続せずにやめたほうが良いというのが森HCの意見だった。


 その結果、クラブチームとして、スポンサーを探して、活動を継続したいという方針でまとまった。選手、コーチ、マネジャーなどから選抜したメンバーで新チーム移行の「準備委員会」を組織し、プレゼンテーション資料も作成した。リクシルから最初の打診があったのはその頃だったという。
 リクシルグループの藤森義明社長兼CEOや役員の前で説明したのが、昨年6月のパールボウル直前だった。


 ▽チームの理念と本拠地
 森HCは運営会社ディアーズフットボールクラブの代表取締役でもある。競技の中で日本一を目指すのは大前提で、ある意味当然の目標。チームの理念として最も重視しているのが「仕事とアメフットの両立」。これは鹿島時代から選手皆がこだわっていた部分だという。「どちらかを言い訳にして、どちらかをおろそかにするということが決してないように」


 クラブ全体として鹿島時代に引き続き力を入れたいのが地域への貢献とアメフットの普及活動だ。
 今シーズンは従来の鹿島・柴崎グラウンド(東京都調布市)を使用するが、今後も調布を本拠地として活動していく予定。すでに市から使用できるグラウンドのオファーをいくつか受けている。


 ここ数年、市内の地域イベントに選手やチアリーダーが参加する機会が増えてきており、市側と折に触れ協議を行っているという。
 サッカーJ1のFC東京と共通の応援バナーを市内の商店街が飾るなどの動きもある。「これを機に調布市がホームタウンであるということをより明確にしたい」
 富士通フロンティアーズ、オービック・シーガルズ、ノジマ相模原ライズなどが力を入れている、子ども向けのフラッグフットボールチームやチアリーディングの教室も構想の中にある。さらに「子どもたちに、運動だけではなく勉強を教える教室のようなものも考えている」という。


 オービック、IBM、ノジマ相模原など企業からクラブチームに転身した「先輩」は多い。ノジマ相模原の須永恭通HC、オービックの大橋誠HCとは年代も近く、連絡を取ってクラブ運営上のちょっとした疑問について助言を仰ぐこともあるという。


 ▽変わったこと、変わらなかったこと
 これまでのチームとの違いは、日々走りながら感じている。昨年までは、鹿島という会社とチーム行事がほぼ同じ。「新人イコール新入社員」というように戦力の把握も会社の人事の中で行ってきた。
 3月中旬に実施したトライアウトの結果、他チームからの移籍選手が数名入ったが、これも初めてのこと。小さなことでは、例えばチーム内での連絡事項が社内メールではできなくなるなど、企業チームだから今まで普通にできていたことが多数あるとわかった。


 今オフに引退した選手は10人で、これは例年より多かった。「プロとは違いアマチュアなので、引退を決めるのは自分。そういう意味では区切りになったのかと思う」
 変わらないのが、フットボールの戦術や練習方法。ディアーズがクラブ化したことによる変化はない。ただし森HCは「ディアーズ伝統の攻撃」といった考え方を否定する。
 「チーム文化のような伝統はあってもいい。しかし戦術については、こだわりを持つべきではない。例えば、数年前に比べると、今はパス攻撃の比率が相当に高くなっている。その時のチーム事情、戦力の中で、一番勝つ確率が高い戦術をチョイスしてきた」


 ▽チームの現状
 ディアーズは、ラインが攻守ともに入れ替えの時期となっているという。「今回、引退したOLの井澤健のような長年スターターを務めた選手から、どのように世代交代させていくのが大きな課題」


 守備ラインのパスラッシュ力強化も課題とみている。「昨シーズンは、相手QBに対して、フロントでプレッシャーをかけられていなかった。迫力に欠けた部分がある」。森HCは、その結果が、昨年セカンドステージのIBM戦の大敗だったとみている。
 「システムがどうこう言うのではなく、個々の選手が基本的なスキルやフィジカルを根本からもう一度鍛えなおす必要がある」。現代アメフットは、攻撃ラインはどうしても一定以上の身体の大きさが必要だが、守備ラインはスピードとスキルを磨くことで、サイズをカバーできる部分があるという考えだ。


 また、オービック、富士通、IBMのように、突出した能力を持つ米国人選手が勝敗の行方を大きく左右しているが、「ディアーズは現状ゼロ。彼らに通用するより高いレベルのフィジカルやスキルを身に付けていかなければならない」。
 決して外国人選手を否定するわけではなく、ディアーズのチーム理念に合致した選手ならウェルカムという。3月のトライアウトでは米国人の選手が1人受験したそうだが「身体能力は高かったが、スキルと30代半ばという年齢を勘案して見送った」という。


 10人が引退し、新加入は15人。移籍・復帰組と新卒組がほぼ半々だという。「リクシル・ディアーズの正式発表が1月で、その段階では就職など進路も決まっていた学生が多いと思っていたので、数的にもレベル的にも、予想以上に選手が来てくれたと思う」。リクシルの社員選手は現段階でいないが「今後は増えてくると思います」と話す。


 29日の初戦、リクシルはブルズを相手に65―0で大勝した。日本代表―フィリピン代表から中2日ということもあり、QB加藤翔平、WR前田直輝ら代表組はほぼ序盤だけの出場となり、2年目のQB尾林浩行や、新加入のRB前川真一(前富士ゼロックス)、大野将樹(早大卒)、LB小泉圭(日大卒)らの活躍が目立った。
 とはいえ、森HCは第2クオーターに主力選手から控え、新加入組に切り替えたら点が入らなくなったことに納得がいかなかった。
 第3、4クオーターには得点を重ねたが「試合の中で、最初は様子を見て、プレーを続けることで調子を上げていくというのでは駄目。よくわからない状況でも最初から思い切ってプレーしなければいけない」。


 「今日、初めてアメリカンフットボールを見に来たというお客さんも多かったと思う。われわれにとって『春』と『秋』で試合の重みが違ったとしても、お客さんにはそんなことは関係がない。来ていただいた方々に何かが伝わる試合をしなければいけない。とにかく勝ち続けてドームまで行きたい。そこでより多くのお客さんにリクシル・ディアーズを見ていただきたい」。現場指揮官を超えたリーダーとして、6月23日のパールボウル決勝を見据えている。

【写真】第1クオーター、新生ディアーズ最初のTDを決めたRB岩倉=撮影:Yosei Kozano、29日、川崎富士見球技場