ライスボウルが終了し早くも2カ月が経った。小欄の更新がない間に、さまざまな意見を読んだ。その中で新生剛士さんが唱えた「ライスボウル=異種格闘技化」論について私なりの考えを書きたい。


 新生さんは
 「今後、学生が社会人に勝つことは『これまで以上に』難しくなってくると私が考える理由。その大きな理由のひとつがアメリカ人選手の存在です」と書いた。その通りだと思う。
 しかし、個々のプレーを見ると関学大はオービック・シーガルズの米国人選手を封じ込んでいた局面も多数あった。鍵はなにか。現状のライスボウル以上に異種格闘技的な対戦だった、21年前のある試合に注目したい。


 それは、1993年1月に東京ドームで開催された「エプソンアイビーボウル」オール日大対ウィリアム&メアリ大の一戦だ。ウィリアム&メアリ大は米カレッジフットボールではDiv.1AA(現FCS=実質的に2部に相当)の強豪で、1989年1月に日本学生選抜と対戦した際は73対3と、鎧袖一触で大勝していた。


 その後学生選抜は毎年、米アイビーリーグ選抜チームと対戦するが、常に大差で完敗。日本と米国との格差を見せつけられた。
 そんな状況に業を煮やしたのか、日大の篠竹幹夫監督が「侍フットボールでアメリカを倒す」をスローガンに、現役学生に社会人で活躍する選手も加えた「オール日大」でウィリアム&メアリ大に挑戦したのだ。


 オール日大は、伝家の宝刀・ショットガン攻撃で互角以上に渡り合った。第2クオーターにはフィールドゴール(FG)で先制。その後4分足らずの間に3タッチダウン(TD)を奪われたが、前半終了間際にQB宇田川健治がTD。第4クオーターにはQB山田喜弘がWR梶山龍誠にTDパスを決めて食い下がった。
 最終スコアは35対19。更新したファーストダウン数は29対17とオール日大が上回った。第2クオーターにTD4本を奪われた以外は、主導権を握っていたようにさえ見えた。ダブルヘッダーでこの試合の前に行われた、米アイビーリーグ選抜対学生選抜では日本の学生選抜が3対68と大敗していただけに、オール日大の戦いぶりは際だって見えた。


 当時の話を、この試合に参加したOBの尾寺忠さんに伺ったことがある。尾寺さんは大学、社会人を通じてオフェンスラインの中核Cとして活躍、QB松岡秀樹さんとのコンビで名を馳せた方だ。
 尾寺さんによると、前年の晩秋に関東大学選手権で法大に敗れた翌日から、この試合に向けてOBも交えた練習が始まったという。年末年始も含めて1カ月以上、一日も休むことなく続けられた猛練習で、学生、社会人のトップ級だった選手があらためて鍛え抜かれた。尾寺さんは、試合が終わった後に「オヤジ(篠竹監督)が『ありがとう』と言ってねぎらってくれたのが忘れられない」という。


 付記しておくと、このシーズンのウィリアム&メアリ大は、9勝2敗。うち1敗は、最終ランクで全米24位だった強豪バージニア大に喫したもので、Div.1AAでは最強クラス。1部中堅校並の力を持っていたといっていいだろう。現NFLスティーラーズのヘッドコーチ、マイク・トムリンも選手として在籍していた。


 今と違ってインターネットなどなかった時代、米の強豪チームは実質的に未知の存在と言っていい。戦術も詳細には分からなかっただろうし、もちろん個々の選手の技術、パワーやスピードなども違う。「異種格闘技戦」以上の困難さがあったと思う。そんな中でなぜここまで戦えたのか。


 ごく最近、日大OBの奥田一郎さんにも、その辺りの話を伺った。奥田さんは日大の甲子園ボウル5連覇を支えた、伝説的なオフェンスラインだ。
 奥田さんは「私たちの時も、他大学をスカウティングするという考えはなかったわけではなく、8ミリフィルムで撮影し、分析などもしていた」という。ただ、根底にあったのは、「どんなものが出てきても両断できる日本刀を鍛え抜いていた」という考えだ。
 昨今のフットボールは、情報戦の様相があり、事前に得た情報で相手にアジャストした戦い方を模索するが、そういうものに左右されず自分たちを鍛え抜き完成度を高めるという方法だ。奥田さんは「(前京大監督の)水野さんが『学生には時間がある』『スキルをみがけ』とコラムで書いているのは、そういうことではないか」と教えてくれた。


 「侍フットボールで米国に勝つ」「どんなものも切れる日本刀を鍛える」。大先輩の言葉は深い。レベルの高い外国人選手も参戦する「異種格闘技戦」であればこそ、ライスボウルには新たな意味が生まれるのではないか。

【写真】第4クオーター、日本QB岩本(10)が突進したが、アイビー選抜LBジンゴの猛チャージに阻まれる=94年、東京ドーム