1月3日の日本選手権「ライスボウル」オービック・シーガルズ対関西学院大学ファイターズの一戦は、34―16でオービックが関学大を3年連続で破り、史上初の4連覇、ライスボウル最多7回目の優勝を成し遂げた。「週刊TURNOVER」でも、水野彌一前京大監督、中村多聞さんがコラムを執筆済みで、私のような者が小欄で今さら何を書くのか思案に暮れていた。


 そんな折、7日(現地時間6日夜)に、米カリフォルニア州パサデナのローズボウル・スタジアムで行われた米カレッジフットボールの王座決定戦「BCSチャンピオンシップ」フロリダ州立大対オーバーン大の一戦を生中継で観戦した。フロリダ州立大が34―31で、最終盤のシーソーゲームを制した試合は、フットボールの醍醐味が詰まった名勝負だった。ライスボウルと比較しながら今回の話を進めることにしたい。


 【ランをめぐる攻守ラインのせめぎ合い】
 ▽BCSチャンピオンシップ
 オーバーン大は、ワイルドキャットフォーメーションを広めたことで知られる攻撃の鬼才、ガス・マルザーンヘッドコーチ(HC)が指揮する。ラン攻撃は公式戦で全米ランク1位。鍛え抜かれた強く大きな攻撃ラインと、小柄ながらタフでパワフルなRBトレ・メイソン、高い運動能力のQBニック・マーシャルが、ノーハドルから休みなく多彩なランを繰り出し守備を疲弊させ追い込む。
 この試合も全80プレー中、53プレーがラン。232ヤードを進んで、今季13試合で全米最少の139失点と強力なフロリダ州立大ディフェンスから31点をもぎ取った。3―4守備を敷くフロリダ州立大は、ラン守備の要のNTティミー・ジャーニガンが188センチ、130キロと、米国ではやや小柄。3―4守備のNTはダブルチームでブロックされるのが当たり前とはいえ、オーバーン攻撃ラインに徹底的に狙われて、試合終盤にはフィールドで動けなくなってサイドラインに引き下がらざるを得なかった。残り1分19秒でメイソンが逆転のタッチダウン(TD)を決め、31―27とリードした段階までは、マルザーンHCにとっては会心の試合だったのではないか。


 ▽ライスボウル
 望遠レンズを通して感じたのは、オービック攻撃ラインと関学大守備ラインのサイズ差だ。特にインサイドのラン攻撃を左右するポジションで大きな差があった。オービックのCフランク・フェルナンデスは187センチで134キロ。大きいだけでなく、プレー理解が深く動きも俊敏で、国内でプレーするCの中では最強の選手ではないだろうか。対する関学大守備陣は3―4で、要となるNTの吉田知功は176センチ、103キロ。しかもオービックは、フェルナンデスをしばしばLGの藤田真史(181センチ、115キロ)とダブルチームで吉田に当たらせた。吉田も学生レベルではトップクラスのラインだが、体格、パワーともに違いすぎ。残念ながらミスマッチだったと言うほかない。


 オービックの攻撃を象徴する得点シーンはいずれもRB原卓門が決めた2本目と3本目のタッチダウン(TD)。第2クオーター6分のTDは、4WR、1RBのパス隊形からQB菅原俊からハンドオフされた原が12ヤードを走ってエンドゾーンに飛び込んだ。
 関学守備陣は3―4。NT吉田、DE池永健人、岡部勇太朗のライン3人に、ILBの池田雄紀と小野耕平が加わってランに備えたが、オービック攻撃ラインと1対1の勝負となり、5人ともきれいブロックされた。オービックのRT保呂篤志が池永、RG山本祐介が池田をブロックし、その間を原が抜けた瞬間、まだゴールラインまで8ヤードほど残っているのにもかかわらず、菅原が原のTDを確信して拳を突き上げたのが印象的だった。


 第3クオーター8分のTDも、オービック攻撃陣の隊形は同じ4人のレシーバー、1バック。サードダウンでゴール前9ヤードだったため関学はパスを捨てきれず、ランは同じ5人で守った。オービックは保呂と山本がダブルチームでDE池永を斜めに押し込み、CのフェルナンデスはNT吉田に一当たりして流すと、続いてLB小野をブロックした。オービックから見た右サイドにはLB池田がフリーでいたが、痛めていた足がさらに悪化したためか、いったん中に切れ込んでからカットバックしたRB原の動きにまったくついていけず、原は9ヤードを走りきってTDを上げた。


 撮影データを見直すと、オービックのランプレーでタックルしている関学の選手はほとんどがDBだった。第1クオーターの段階で、オービック攻撃ラインの選手たちが皆「今日はランプレーで勝負したい」と訴えたそうだが、うなずける話だ。オービックのラン攻撃は40回265ヤードを記録した。


 【球際の強さ】
 ▽BCSチャンピオンシップ
 フロリダ州立大のエースQBジェーミス・ウィンストンは1年生。19歳とは思えない強靭な体格と強肩を生かしたパスで一躍スターとなり、全米最優秀選手賞の「ハイズマントロフィー」を受賞した。しかし、タレント揃いの強力な味方が常にリードする展開の中で精神的に重圧を受けることなく伸び伸びとパスを投げてきた面は否めない。この試合では、今まで表に出なかった未熟さを露呈した。
 11点差を追う第2クオーター、自ら無理なランに出てオーバーン大守備陣のタックルを受けファンブル、攻撃権を奪われた。オーバーン大はこのチャンスを逃さずタッチダウン、21対3とオーバーン大が大きくリードした。若きエースの失態は18点の差以上にフロリダ州立大を打ちのめしたのではないだろうか。
 しかし、この日が20歳の誕生日だったウィンストンは並のQBとは違った。終盤にかけて落ち着きを取り戻し、第4クオーターに今季わずか8キャッチの4年生FBチャド・エイブラムにTDパスを決めて1点差に。
 その後、得点の応酬が続き、フロリダ州立大最後の攻撃は4点をリードされ、残り1分19秒から。TDを決めるしかない状況の中で、テレビ解説を務めていた松本直人「月刊タッチダウン誌」前編集長の「ここからウィンストンのハイズマンテストが始まるんですよ」というコメントに、私は思わずうなずいて、テレビに向かい拍手をしていた。
 オーバーン大守備陣のタックルミスや反則にも助けられ、残り17秒でファーストダウン、ゴールまで2ヤード。ウィンストンが投げ込んだパスは、196センチの長身大型WRケルビン・ベンジャミンがジャンプして伸ばした手の中にすっぽり納まっていた。第4クオーター残り13秒、フロリダ州立大の見事な逆転劇だった。ベンジャミンをカバーしていたオーバーン大CBは、11月30日のアラバマ大との一戦で奇跡の109ヤード決勝TDを決めたクリス・デービスだった。
 フロリダ州立大のサードダウンコンバージョンは2/12で、10/18だったオーバーン大を大きく下回った。ウィンストンのパス成績は20/35、237ヤード、成功率57.1%といずれも今季のパフォーマンスとしては最低に近かった。しかし、最後に決めるべきところで決めた。ウィンストンの「ハイズマン追試」は満点だった。


 ▽ライスボウル
 関学大のQB斎藤圭は3年生。昨年オービックをあと一歩まで追い込んだQB畑卓志郎を引き継いでエースとなった。関西学生リーグ戦ではコントロール良くパスを決めて成功率71.1%で、インターセプトはわずか一つ。この試合も、ケビン・ジャクソン、バイロン・ビーティー・ジュニアという、最強DEが率いるオービック守備陣から厳しいパスラッシュの洗礼を受けながら、左右に動き回って臆することなくパスを決め続けた。
 斎藤のパス成績は33/50、318ヤード。パンターの伊豆充浩と合わせ、パスで17回のファーストダウンを奪った。関学大はラン攻撃こそ封じられたが、後半の4回の攻撃ドライブでは合計235ヤードをゲインし、いずれも敵陣レッドゾーン(ゴールまで20ヤード以内)に侵入した。
 問題はこの好機になかなかTDが奪えなかったことだ。特に第3クオーター、2度にわたってゴール直前まで攻め込んだが、いずれも斎藤がジャクソンにサックされて後退、フィールドゴール(FG)トライとなり、しかも成功は1回だけだった。
 逆に、オービックはしたたかだった。「社会人にはミスがある」という関学大・鳥内秀晃監督の言葉通り、オービックQB菅原は前半2インターセプトを喫した。上で述べたように、後半最初の関学大のドライブでは、警戒していたにも関わらずフェイクパントからの27ヤードのパスをパンター伊豆に決められ、ピンチを招いた。しかし、インターセプトからの関学大の攻撃は、9ヤードと-2ヤードに抑えて、パントに追い込んだ。後半最初のピンチはFGの3点にとどめた。オービック・大橋誠HCが口癖のようにいう「起きてしまったことにはとらわれない。これから起きることに集中する」というメンタルな強さを感じた。
 フットボールの基本となるライン戦で圧倒されながら、関学大の取り組みは試合の中で一定の成果を上げた。日本人最高のWR木下典明に第4クオーターまでパスキャッチを許さなかったのはその一例だ。
 しかし関学大が封じ切れなかったオービックのストロングポイントとは「球際の強さ」ではないか。決めるべきところを決める。守るべきところを守る。オービックの本当の強さは外国人選手や国内トップ級のタレントにあるのではない。タレントを集めれば勝てるのがアメリカンフットボールかといえば、違うと思う。


 BCSチャンピオンシップとライスボウルを比較した意図はもう一つある。それは、本場米国では「ハイスコアの好ゲーム」が多いということだ。この試合だけでなく、4大ボウルゲームのうち、オレンジボウル、シュガーボウル、フィエスタボウルでは合計得点が70~80点、あるいはそれ以上ながら白熱した試合となった。
 翻って日本のフットボールを見れば、実力が伯仲したチーム同士の試合では合計得点が30~40点前後ということが多い。今季は関西学生リーグの関学大対立命大のように、0―0という試合もあった。日本のフットボールファンは概してハイスコアゲームには大味な、悪い印象を持っているかもしれない。
 しかし、昨今のNFLやカレッジ強豪校のフットボールを見ると、ハイスコアは戦術の帰結であることも多く、必ずしも大味とは限らないように感じる。むしろハイスコアゲームは学生が社会人に対して仕掛けることが可能な、一つの戦術なのではないだろうか。2008年のライスボウルで、関学大がQB三原雄太を擁して展開したハイパーパス攻撃はその一例だと思う。
 ライスボウルについては、後日あらためてもう少し考えてみたいと思う。

【写真】オービックの攻撃ライン。左からRG山本、Cフェルナンデス、LG藤田=撮影Yosei Kozano、3日、東京ドーム