アメリカンフットボールの醍醐味はディフェンスとランだ。強い守備の支配する肉弾戦が面白い。30数年もNFLのピッツバーグ・スティーラーズファンとして過ごしてきたためか、そう信じてきた。


 最近耐え難いゲームを観戦する羽目になった。今季第9週11月3日のニューイングランド・ペイトリオッツ戦。55対31の惨敗だ。スティーラーズは第3クオーター、いったんは同点に追いついたものの、ペイトリオッツのQB、トム・ブレイディのパスに守備が翻弄され、ランも止められなくなり、第4クオーターに4タッチダウン(TD)を奪われた。
 失点55、喪失ヤード610はチーム史上ワーストという。奪われたファーストダウンは33回に及んだ。NFL屈指だった守備がボロボロと崩壊していく様子をネット中継の画面で眺め続けた、ファンとして最悪の一日だった。


 それから1週間経たずして、同じような試合を今度はフィールドで撮影することになるとは思いもしなかった。11月10日、川崎球場で行われたXリーグセカンドステージ、IBMビッグブルー対鹿島ディアーズの一戦だ。
 IBMは、前週11月2日のパナソニック・インパルス戦で大敗して3敗となり、セカンドステージでの敗退が確定しており、これが今季の最終戦だった。鹿島として最後のシーズンで何としても王者に、と意気込むディアーズとのモチベーションの差は大きいと思われた。


 鹿島は、試合開始のキックオフをWR前田直輝のリターンTDで先制、好調な滑り出しだった。しかし、IBMはQBケビン・クラフトのパスが過去2シーズンで最高と言っていいほどのさえを見せる。6プレーで59ヤードをやすやすと進み、TEジョン・スタントンにTDを決めたドライブが、ワンマンショーの始まりだった。


 この試合、IBMはエースRB末吉智一をあえて起用せず、クラフト一人にオフェンスを委ねた。鹿島はそのパスが止められない。第4ダウンショートのギャンブルさえパスで決められた。それでも、鹿島は24対24の同点で迎えた第2クオーター10分過ぎに、LB山本吉孝が外からのブリッツでクラフトをサックすると、そのドライブでDB栄貴浩がインターセプトを奪う。クラフトのリズムが唯一狂った場面だった。
 しかし、このチャンスにオフェンスがゴール前で攻めきれず、フィールドゴール(FG)の3点にとどまった上、時間も2分1秒を残した。タイムアウトは2回あり、この日のクラフトには十分すぎた。5回連続でパスを決めて鹿島ゴール前に迫ると、ランを1回挟んで、WR栗原嵩に18ヤードの逆転TDパスをヒット、IBMがモメンタムを維持したまま後半へ折り返した。


 第3クオーター、クラフトのパスに陰りは見えない。最初の攻撃で75ヤードを進み再びスタントンにTDパスを決める。鹿島も食い下がり、RB丸田泰裕が追撃のランTD、QB山城拓也が2ポイントコンバージョンをパスで決めて38対35と3点差に迫る。
 しかしIBMは自陣10ヤードから始まった次のドライブでもクラフトがパスを決め続け前進。最後はスタントンが3本目となるTDパスをキャッチ、10点差。IBMは次のドライブでもFGを決め、リードを13点とした。


 クラフトは鹿島DLにプレッシャーをかけられても、巧みにスクランブルする余裕があった。1対1になっても長いリーチを生かしたスティフアームでタックルをかわし、パスを決めた。縦にも横にもストレッチされた鹿島の守備陣は、フィールドを走り回らされ、サイドラインでは疲労して肩で息をしていた。
 こんな鹿島ディフェンスを見るのは初めてだった。ディフェンスの焦燥はオフェンスにも伝わる。サイドラインの山城、加藤翔平の両QBは、表情がこわばっていた。第4クオーター残り9分、加藤が第4ダウンギャンブルのパスを失敗した。次のドライブはノーハドルで攻めたが、山城のパスをIBMのDE諸星武文がインターセプトリターンTD。2ポイントコンバージョンをクラフトがスタントンに決め、残り3分余で21点差。勝負はついた。


 最終スコアは56対35。手元の記録を見る限り、鹿島のチーム史上ワーストの失点となった。喪失ヤードは643、奪われたファーストダウンは31。IBMは12回の攻撃ドライブで一度もパントを蹴ることがなかった。クラフトはパス41/54、534ヤード5TD、ランでも12回65ヤードを記録した。


 IBMとしては会心の試合だろう。前週の大敗から、ここまでチームをまとめ上げた山田晋三ヘッドコーチ(HC)、そしてクラフトにも敬意を表したい。しかし、それでも私は、ほぼパスオンリーのオフェンスがディフェンスを圧倒し続けた試合に、撮影していて精神的に疲労感を覚えた。


 鹿島の森清之HCは「完敗。パスラッシュがかからなさすぎた。クラフトをノープレッシャーで投げさせてしまった」と守備の崩壊を認めた。攻撃では、第4クオーターにランが進み始めるいつもの形になったが、追いつくためにパスを投げざる得ない状況ではどうしようもなかったという。


 17日、横浜スタジアムの富士通フロンティアーズとノジマ相模原ライズの一戦で、ライズが敗れるという条件付きながら、鹿島の準決勝進出の可能性は残された。次戦のパナソニック戦は17日に大阪・長居陸上競技場でのアウェイ開催。森HCは「パナソニックは総合的に見ればIBM以上に強い。だが試合までもう練習する時間もない。できることは限られているがマストウィン。全力を尽くして這い上がる」。


 クラフトという「黒船」に、日本の選手だけで構成した鹿島ディフェンスが翻弄された現実は、日本のフットボール界にとって大きな課題として残った。しかし、今の鹿島には、IBM戦を総括し振り返っている余裕はない。ひどい試合だったが、出会い頭の交通事故のようなものと考える切り替えと開き直りも必要だろう。
 鹿島の選手たちにとって、次戦は「最後の試合」になるかもしれない。試合の勝敗を超えて、今までの人生をかけてフットボールで培ってきたものをすべてぶつけてほしい。

【写真】IBMに大敗し、唇をかむ鹿島の主将RB丸田(中央)=撮影:Yosei Kozano、11月10日、川崎球場