少々古い話だが、2012年のNFLは新人QBの当たり年として歴史に残るシーズンだった。レギュラーシーズンでパス獲得距離3000ヤード以上の新人QBが5人も出現した。それ以前には他リーグでプロ経験を持つ選手も含めて7人(注1)しかいなかった。またQBを評価するパサーズレーティングで、一流の目安となる100を超える新人選手が初めて現れた。それも2人。


 攻撃部門の最優秀新人に選ばれたロバート・グリフィンⅢ(ワシントン・レッドスキンズ)は、パス3200ヤードこそ新人中4位だったが、レーティング102.4は新人史上1位。ラン815ヤードはNFLのQB全体で1位だった。
 スポーツの世界で、いつの頃からか「記録よりも記憶に残る選手」という表現をしばしば目にするようになった。プロ野球の新人選手が入団会見などでこの言葉を使っているのをテレビや新聞で目にすることもある。
 だが、私はこの言葉が好きではない。まずは試合に出て、数字を、結果を残せと思う。トップ選手のプレーが記憶に残ったとしても、それは結果を出した上での話。スポーツ選手は基本的にすべて記録の裏付けがあった上で評価されるべきだろう。


 その点では日本のアメリカンフットボールはどうも記録へのリスペクトが薄い気がする。Xリーグの今季第4節、10月5日の川崎球場では、QBにまつわるさまざまな記録が生まれた。
 ノジマ相模原ライズ対明治安田パイレーツ戦では、ノジマ相模原のQB木下雅斗がパスを21回投げ20回成功、1試合の最高パス成功率(20回以上試投)で95.2%を記録した。
 また、木下は前の試合(対警視庁イーグルス)の終盤に8回連続でパスを成功。この試合も第2クオーターまで12回連続でパスを決めており、20回連続パス成功となった。木下のこの試合唯一のパス失敗は第2クオーター、WR出澤信へのショートポスト。出澤は手に当てて落としたが、捕球していれば成功率100%だっただけでなく、連続パス成功も29回となっていた。


 東京ガスクリエイターズ対ハリケーンズ戦では、東京ガスのQB田昌光が第4クオーターにWR藤縄大輔にタッチダウン(TD)パスを決め、最年長パスTD記録を更新した。1966年1月31日生まれの田は、47歳8カ月5日。田は昨季リーグ戦ファーストステージの対富士ゼロックスミネルヴァ戦(10月20日)で2TDパスを決めており、自己の記録を約1年更新した形となった。
 問題はこれらが本当にリーグ新記録なのかどうか誰にも分からないことだ。Xリーグの担当者に聞いても「そこまでは分からない」といわれた。公式記録は残っていても、整備されていないから不明なのだ。


 米国ではそういう記録がすぐに出てくる。例えばNFL。1試合最高パス成功率は、2012年10月のサンフランシスコ・フォーティナイナース(49ers)対アリゾナ・カージナルス戦で、49ersのアレックス・スミス(当時)が記録した19回投げて18回成功の94.7%。パス試投20回以上では2008年1月のプレーオフ、ニューイングランド・ペイトリオッツ対ジャクソンビル・ジャガーズ戦でペイトリオッツのトム・ブレイディが記録した28回投げて26回成功の92.9%ということになる。
 連続パス成功記録はフィラデルフィア・イーグルスのドノバン・マクナブが2004年のニューヨークジャイアンツ戦からグリーンベイ・パッカーズ戦にかけて記録した24だという。


 NCAAフットボールでは、2012年12月にウェストバージニア大学対カンザス大学の一戦で、ウェストバージニアのジーノ・スミス(現ニューヨーク・ジェッツ)が24回投げて23回成功の95.8%を記録した。この数字は史上1位タイで、スミス以前には、1998年10月にテネシー大学対サウスカロライナ大学の試合で、テネシーのティー・マーチンが同じく24回投げて23回成功の95.8%というパス記録を残している。
 マーチンは前の試合からこの試合にかけて24回連続でパスを成功させていてNCAA記録となっている。この記録は1部(フットボール・ボウル・サブディビジョン=FBS)のもので、下部ではさらにいろいろな記録がある。


 最年長パスTD記録は、NFLでは往年の名QBジョージ・ブレンダが晩年に在籍したオークランド・レイダーズで1974年12月の対ダラス・カウボーイズ戦に記録。この時ブレンダは47歳2カ月27日だったという。
 こうして見ると、レベルの差はあるにしても、木下と田のパフォーマンスが、日本のアメフットの中では歴史的な記録の可能性があると思う。本場米国は、公式サイトや記録専門サイトなどがあり、上記のような記録が少し調べただけで簡単に分かる仕組みがある。それは「記録へのリスペクトは選手へのリスペクト」だという認識があるからだろう。


 もちろん、個人記録よりもはるかに大事なのは試合に勝利することだ。グリフィンⅢは、米オハイオ州カントンのプロフットボール殿堂を訪れた際、1970~80年代に活躍したWRリン・スワン(元ピッツバーグ・スティーラーズ)の「MVPやプロボウル、それは忘れろ。スーパーボウル(に勝って)リングを手に入れられなかった時の残念賞でしかない」という言葉に最も感銘を受けたという。


 木下率いるノジマ相模原は、10月20日、ファーストステージの地区優勝を懸けて王者オービック・シーガルズに挑む。好調のパスが、オービック守備陣にどこまで通用するか。とても楽しみだ。

(注1)1984年のウォーレン・ムーン(ヒューストン・オイラーズ)はカナダのCFLから、1986年のジム・ケリー(バファロー・ビルズ)はNFLの対抗リーグだったUSFLから移籍。当時ムーンは27歳、ケリーは26歳だった。

【写真】今季、好調を維持しているノジマ相模原のQB木下=撮影:Yosei Kozano、10月5日、川崎球場