スポーツの撮影を続けていて記憶に残るのは、撮った1枚ではなく、撮り逃したシーンだ。上手く撮影できた思い出はすぐに消え去るが、撮れなかったシーンはいつまでも脳裏に居座り続ける。
 Xリーグを撮影していて、ここ数年で特に忘れられないシーンは、2010年10月23日の鹿島ディアーズ対アサヒビール・シルバースター(川崎球場)で、シルバースターQB東野稔が投じた、2本目のタッチダウン(TD)パスである。


 ここ数年のシルバースターはオービック、鹿島、富士通と対戦しても歯が立たず、30点以上の大差で敗れることも多い。そんな中、過去3年で3強の一角鹿島に最も肉薄したのがこの試合だった。


 第3クオーター終了時、24対10で鹿島がリード、シルバースターはラン攻撃をほぼ完全に封じ込まれ、敗色は濃厚だった。しかし、ここからベテランQB東野の逆襲が始まる。
 7分過ぎにTDパスを決めて7点差に。次のドライブでも東野は立て続けにパスを決め、エンドゾーンまで30ヤードの地点に迫った。残り2分、東野は鹿島守備陣のラッシュを受けて右に流れながらエンドゾーンにいたWR稲垣彰彦にパスをヒットした。鮮やかなTDだった。


 30ヤードと距離があったので、400ミリの望遠レンズを構えていた私は、ズームレンズに持ち替えるタイミングが遅れ、劇的なTDを目で見てしまった。夕闇迫る中、弾丸のようなパスを横っ飛びでハンドキャッチした稲垣の姿が今も目に焼き付いている。
 この後、シルバースターは、逆転の2ポイントコンバージョンを狙ったが失敗。鹿島が辛くも24-23で逃げ切った。東野はパス280ヤードで2TD。第4クオーターの反撃は、10代から天才と呼ばれた実力者がその片鱗を見せた場面だった。


 前振りが長くなった。10月5、6日に川崎球場で行われたXリーグの今季第4節6試合は、実力差のあるチーム同士の対戦が続いたが、6日の第3試合、鹿島対シルバースターの一戦には期待をかけた。低迷が続くシルバースターだが、今季、元日本代表DEの闘将・佐々木康元氏がヘッドコーチ(HC)に就任。春、非公開のオープン戦ではシルバースターが鹿島に勝ったと聞いていた。3年前のような接戦を願った。


 シルバースターは第2シリーズからエースQB東野が登場。4戦目にして今季初出場の東野はパスを5回連続で決め83ヤード。シルバースターは2回のドライブで100ヤード近くを進み、時間も8分以上消費。得点こそフィールドゴール(FG)の3点だけだったが、サイドラインは手応えを感じていたに違いない。


 しかし、第2クオーターに入ってすぐに東野が負傷。シルバースターはQBに2年目古川芳とルーキー高橋玲生奈の起用を余儀なくされ、攻撃が手詰まりとなる。鹿島はTDとFGで加点、リードを広げる。
 後半に入ると鹿島のお家芸であるパワーランが止められなくなる。シルバースターは守備陣が踏ん張りTDこそ阻止したものの、機能しなくなったオフェンスでは、着々と決められるFGが重くのしかかった。


 残り3分で16点差となった段階で、日大のエースだったルーキーQB安藤和馬を投入したが、残り1分を切った第4ダウンでギャンブルすることなくパントを選択、試合は終わった。19-3。率直に言って、期待外れの内容だった。


 佐々木HCは試合後、開口一番「ぶざまな試合をお見せしました」。これまで東野の出番がなかったのは負傷によるもので、隠していたわけではなかったという。「ようやく治って出られたのに、また負傷してしまった。パスの調子が良かっただけに残念です」と話した。
 安藤の投入は、反撃のためというより試合経験を積ませる側面が大きかったようだ。将来のエースと目される大器だが、負傷が治り切らず調子も上がっていないという。39歳になった東野と、23歳以下の3人というQBユニット。起用と育成をどう両立するか、苦悩が見て取れた。


 3年前の10月に見たシルバースターは、冬に向かう前の一瞬の夏「インディアンサマー」だったのだろうか。今が冬だとしたら春はいつ来るのだろうか。憎らしいほどに強いシルバースターの復活を、待ち望んでいる。

【写真】第1Q、パスを決めるアサヒビールのQB東野=撮影:Yosei Kozano,10月6日、川崎球場