NFL、カレッジを問わずパス攻撃が主流の米国では、激しい得点の応酬「シュートアウトゲーム」がしばしば見られる。QBは西部劇のガンマンに例えられ、決定力の高いポケットパサーは特に敬意を払われる。
 現在、Xリーグで最高のパサーは、米カレッジの強豪UCLAで活躍した実績があるIBMビッグブルーのQBケビン・クラフトと言い切っても異論はないだろう。そんな本場育ちの「ガンマン」に真っ向から撃ち合いを挑んだ日本人QBがいる。オービックシーガルズの32歳、龍村学だ。
 壮絶なシュートアウトとなった9月29日のXリーグファーストステージ、オービック―IBM。8回に及ぶ逆転の連続の末、オービックを勝利に導いたのは龍村のパスだった。


 第2クオーターにIBM・クラフトに長短のパスを自在に決められ、わずか4分で3タッチダウン(TD)を奪われた王者オービック。キッキングにミスが出るなど浮き足立ちかけたが、前半の最後に龍村がQBスニークでTD、さらに2点コンバージョンをパスで決めて同点とした。
 後半、撃ち合いはさらにヒートアップ。IBMのフィールドゴール(FG)で3点リードを許した後のドライブで、オービックはWR木下典明がパスキャッチ後に快走、68ヤードのTDを決めた。
 IBMはすかさずクラフトが斜めに走り込んだWR小川へTDパスを決めた。圧巻は第3クオーター9分。IBMがフィールド中央付近でギャンブルに失敗すると、直後のプレーで龍村は49ヤードのロングパス。ボールはエンドゾーンに走り込んでジャンプした木下の胸にすっぽり収まった。その後再びクラフトがTEスタントンに逆転TDパス、さらにFGを決めてリードを6点とするが、オービックと龍村の勢いは止まらず、第4クオーター6分、木下へこの日4本目の逆転TDパス。これが試合を決め、1点差でオービックが逃げ切った。


 龍村はパス獲得距離392ヤード、4TD、被インターセプトは1。QBレーティング(NCAA方式)は217.7。クラフトは387ヤード、5TDで被インターセプト1。レーティングは146.2。TD数を除けばほとんどのパス成績で龍村がクラフトを上回った。数字以上に光ったのが内容だった。この日投げたTDパスはすべて逆転。しっかりと投げ込んだリードボールが日本人WR最高クラスのスピードを持つ木下の能力を限界まで引き出した。


 両チームともに、ほぼすべての攻撃を1人のQBでプレーした。NFLなどでは当たり前だが、リスク管理や戦術上の理由で、複数QBを起用するチームが大半のXリーグでは異例の試合だった。特に龍村が1人で任された試合は、この数年記憶にない。
 Xリーグでは各チームのQBは、関学大、立命大、日大、法大など名門校出身者が大半を占める。そんな中で龍村の経歴は異色だ。出身校は関東学生2部の神奈川大。大学時代はオプション戦術のため、基本はランニングQBだった。同年代の高田鉄男(立命大、現パナソニック)、波木健太郎(早大、元アサヒビール)といったスターQBに比べて、無名の存在と言ってよかった。


 卒業後オービックに練習生として入団した龍村はスカウトチーム(仮想対戦チーム)のQBに起用された。スカウトチームは、対戦する敵チームの攻撃を正確に再現できないと練習にならないため、QBとしてのプレー精度が向上した。さらにリーグ屈指のオービック守備陣を相手に練習できたのもプラスになったという。


 2005年のデビューは鮮烈だった。春のパールボウルトーナメント、秋のリーグ戦、ジャパンXボウル、そして日本選手権(ライスボウル)まで、すべて勝って日本一に。自身のパス成績も、秋のリーグ戦では12TDで被インターセプトはゼロとさえまくった。
 翌06年はリーディングパサーにもなった。しかしその後、攻撃システムの変更などもあり、徐々に出番が減っていく。10年に法大出身の菅原俊が加入すると、2番手QBに降格。起用されれば、鋭いスクランブルや美しい弾道のパスを披露するものの、サイドラインにいては、力を発揮するチャンスさえなかった。


 今春のパールボウルトーナメントやドイツ遠征には参加していなかったが、IBM戦に向けた練習でとても調子がよく、先発が決まった。龍村本人に先発が言い渡されたのは試合の2日前、27日だったという。「その時から『撃ち合い』は覚悟していました」という龍村。プレッシャーよりも「クラフトと投げ合えたのはとても楽しかった」という。4TDを挙げた木下とのホットライン開通は「日頃の練習がすべてです」と準備を強調した。


 オービックにとって、ホーム・習志野市での試合開催はこの日が初めて。約2300人の観衆は手に汗握る展開に一喜一憂したことだろう。日本選手権4連覇を目指すオービックとしては、フットボール的には大味な展開で、ラン攻撃やパス守備に課題が残ったことは確かだ。龍村も「ショートパスでオフェンスをつなげることができなかった」と反省を忘れていない。
 しかしクラフトのようなパサーを相手に、リードされても臆することなく矢のようなパスを投げ続け、モメンタム(勢い)をIBMに与えなかったことは、味方を勇気づけたに違いない。大橋誠ヘッドコーチも「今日のオフェンスは本当に頼もしかった」と最大級の賛辞を送った。


 試合後、スタンドの地元ファンにあいさつをするため整列したオービックの選手たち。望遠レンズで探すと、ヒーローは誇らしげな様子も見せず、列の一番端で応援に来た仲間の声援に応えていた。

【写真】終始追いかける展開となりながら、冷静にパスを決め続けたオービックのQB龍村=撮影:Yosei Kozano、9月29日、秋津サッカー場