「長かったですね…」。関西学院高等部が早大学院を下し、高校日本一を達成したあとのインタビューです。中尾昌治監督は感慨深そうに、静かに話しました。


 実に10年も優勝から遠ざかっていました。
 2年前と4年前はクリスマスボウルには出場したものの、ともに早大学院に敗れ日本一に届きませんでした。


 昨年、長年選手を指導してきた広瀬慶次郎元総監督が定年退職をされました。高等部をなんとかしなければ。
 社会人コーチの一人、片岡健太郎コーチ(25)が、ファイターズ2007年に学生日本一に輝いたメンバーの一人である大西史恭コーチ(29)に助けを求めました。


 大西コーチは同期に呼びかけます。K大西史恭、QB三原雄太、WR岸千貴、榊原貴生。「甲子園ボウルIN長居」で激戦の末日大を破り、学生日本一に輝いたあのときのメンバーが今年、コーチとして集結しました。
 彼らは高校で8年ぶりの日本一、大学でも6年ぶりの日本一を達成した学年で、中尾監督いわく「優勝請負人たち」なのです。


 日本一を知っている社会人コーチは学生コーチに、勝つために必要なことを徹底的にたたき込みます。早大学院に敗れ高等部ファイターズを引退していった経験を持つ大学生コーチたちは、選手たちに「クリスマスボウルに出られたことで気を抜くな」と何度も何度も言い続けます。
 「おかげで今年のチームは気持ちに隙がない」―。それは中尾監督が今年のチームを褒めたただ一つのことでした。


 こうして春は初戦で敗れたチームが8カ月後、日本一を達成しました。例年に比べて際立った選手がいないといわれたなかでつかんだ日本一でした。
 試合後、中尾監督が「勝てなかった時代の選手たちのことを思うと…」と、目を潤ませたとき、思い出したことがあります。


 4年前。早大学院にとって23年ぶりの日本一を達成したときのことです。濱部昇監督が言葉をつまらせながらこんなことを言いました。
 「自分の至らなさでシーズンを終えていった選手たちを思うと、申し訳ないことをしたと思っています」。優勝の喜びよりも先に出てきた言葉でした。


 思うのはやはり、日本一にむけて命がけで取り組んできたものの、それを達成できずに卒業していった選手たちのことなのです。

 
 関西学院の森上衛主将は試合後のインタビューで先輩たちへの感謝の言葉を繰り返しました。当然「うれしいです! やりました!」といった言葉か出てくると思っていた私は、「でも戦ったのはフィールドにいた選手ですよ」と返しましたが、それでも森上主将は「自分たちだけの力だけではない」と譲りませんでした。


 就任6年目の片岡コーチは、悲願達成のときをこう振り返りました。「今の高校生の努力はもちろん、今までの卒業生とともに流した涙を思い出し、また一緒に頑張ってきた大学生コーチの努力が報われたかと思うと、言葉に出来ない感情でいっぱいになりました」


 日本一を達成したのは2014年ファイターズの選手、スタッフ、監督、コーチたちです。ですがこの日本一は、これまでファイターズに関わった全ての人に与えられた日本一なのだと思いました。

【写真】早大学院に勝って10年ぶりの日本一を達成した関西学院の選手たち=撮影:seesway、23日、キンチョウスタジアム