8月25日に東京ドームで行われたXリーグの開幕戦、オール三菱ライオンズ対LIXILディアーズ。オール三菱のスターターQB、社会人3年目の谷口翔真選手が、立命館大学時代と同じ背番号15をつけて躍動しました。


 この日の谷口選手は、動きながら次々とパスを決めます。そしてRB陣はガンガン走り、第3クオーターには2TD差でリードするという、予想もしなかった展開をオール三菱は繰り広げました。
 ですが、リクシルが徐々にアジャストしだし、最後は結局3点差でオール三菱は敗れました。


 試合後のオール三菱のスタンドは、ちょっと大袈裟な表現かもしれませんが「スタンディングオベーション」状態でした。大きな拍手で選手を迎えました。それもそのはず。過去の戦績をみてもいわゆる「上位チーム」と接戦をしたことは今まで一度もなかったのです。


 そんな中で、谷口選手は何を思ったのでしょうか。
 「やっぱり悔しいですね。初戦ということで足をすくってやろうと考えてきたので。(TD)2本差をつけたからといって、勝てるとは全く思わなかったけど、自分たちはこんな試合をした経験がないので、浮き足立った部分は少なからずあったと思います。2本差になるのがちょっと早すぎました。そのあたりからミスも出始めました。格下の僕らがミスを犯していちゃ勝てないですよね。それに加えて明らかにフィジカル面でも相手と差が出てきました。みんな動けなくなってきたし、自分も足がつってしまいました」


 「格下の僕ら」という言葉がひっかかりました。オール三菱は上述したような戦績。たしかに間違いではありません。
 ですが、谷口選手は、大学3年生のときには甲子園ボウルで優勝し、チャック・ミルズ杯(年間最優秀選手賞)を受賞。ライスボウルでは社会人ナンバーワンを相手に、真っ向勝負をした大学日本一のエースQBだった選手です。
 負けることが許されないエリートチームのエリート選手が今、いわゆる「上位チーム」に全く歯がたたず、勝つより負ける試合の方が多い、そんなシーズンを過ごしてきているのです。今、谷口選手はどんなモチベーションでアメフトを続けているのでしょうか。


 「今のチームにいきなり『ライスボウル』なんて、それは厳しい。今はセカンドステージ上位リーグ進出が目標です。まずはセカンドステージだと思っています。そのために一つ一つ勝利を重ねて…。少しずつ段階を踏んでいくっていうのもありなんじゃないかなと思います」


 今シーズンは、専任のオフェンスコーディネーターがいない状態で始まりました。どうなってしまうんだろうと、不安がよぎりました。ですが、代わりにチームには、学生時代に日本一を目指してきた選手たちが多く加入しました。
 彼らは学生時代と変わらぬ「勝利に対する執着心」をチームに運んできます。チームが変わり始めました。
 だからこの試合。格上の相手の足をすくってやろうと、照準を合わせてきました。それだけに…。あと一歩及ばなかったことは悔しかったでしょう。


 「こんな経験すらしたことがなかったチームです。自信にはしたいです。ただ一番懸念することは、リクシル相手にこんな試合ができたのだから、他のチームに勝てるかもしれないという雰囲気にチームがなることです。この経験をいい方向にもっていきたいです」


 3年生で学生日本一。最終学年では関学に完敗。栄光も挫折も、自信も過信も。いろんなことを経験してきたであろう谷口選手。
 「自分がライオンズのQBとしてチーム全体をコントロールしていかなくては」。谷口選手は今そんなことを考えています。


 この試合、谷口選手の持ち味であるQBランはほとんど出ませんでした。走る必要がなかったそうです。そのかわりに次々とパスを通す谷口選手。自分も思いのほか戦えたし、受け手であるレシーバーたちにも「こんなボールも捕れるんや」と驚いたとも話してくれました。


 「なんやかんやのアメフト小僧なんです。やるからには中途半端はいやですね。チームは今、ちょっとずつ強くなっている実感があるし、みんなでうまくなるのはやっぱり楽しいですよ」


 初めて話したのは、大学1年生の終わりの春。日本代表の合宿のときでした。
 日本代表のユニフォームを着ていたあのアメフト小僧は、アメフトを始めて今シーズンで19年目。ちょっと大人のアメフト小僧になっていました。

【写真】3Q、パスを決めるオール三菱QB谷口=撮影:Yosei Kozano、8月25日、東京ドーム