「法政戦まであと8日」
 東京・桜上水にある日大のクラブハウスに貼られた、11月24日の「あずまボウル」までのカウントダウンを見ると、今年もこの季節がきたなあと、1年という時の流れを感じます。と同時に、私まで身が引き締まる思いがします。


 久しぶりに昨年のあずまボウルのDVDを見ました。まさに「死闘」。昨年もそう表現しましたが、やっぱりライバル法大との一戦は「死闘」という以外に表現できない試合でした。
 なぜなのか。答えはシンプル。みんな必死でした。あと一歩。あと一伸び。あと一押し…。勝ちたい気持ちが「あとほんのちょっとの力」を発揮させていました。選手それぞれに。そんな中での勝負だったからでしょう。
 では、何が勝敗を分けたのでしょうか。それは1年たっても、やっぱり私には分かりませんでした。


 こんな試合を、勝ったチームは「気持ちで勝った」と表現します。では負けたチームは気持ちで負けたのでしょうか? この試合を見る限り私はそうは思いません。勝ちたい気持ちはどちらも同じだったと思います。
 この結論は、1年たってちょっと冷静に試合を見られるようになっても同じでした。1年ぶりに行った日大グラウンド。そこには昨年までキッカーとして活躍した井ノ口くんの姿がありました。コーチとして、坊主じゃない髪型で。


 考えてみたら、坊主だった期間はほんの一時なのに、「井ノ口くん」と「坊主」がイコールで結ばれるのは、昨年のこの時期の印象が私のなかで強く刻まれているからだと思います。


 「きのうね、去年のあずまボウル見たんだ」
 「あずまボウルっすか…。僕まだちゃんと見てないです」
 やっぱりこの話はするべきでなかったか。一瞬後悔。でももう遅い。それならば聞いてしまえ―。
 「最後のオンサイドキック蹴ったの、井ノ口くんだったよね? あれ、すごかった」


 最後に同点としタイブレークに持ち込むためのトライフォーポイントのキックを外して、仲間に抱えられるように一度サイドラインへと出て…。
 それでも井ノ口選手はすぐにもう一度フィールドに戻ってきました。自分の役割はまだ終わっていない。キックオフです。
 オンサイドキック。きれいに10ヤードを超えたボールを、まさに執念の「一伸び」でもぎ取ったのは、同じ4年生の林選手でした。オンサイドキック成功。


 1年たった今、井ノ口くんが教えてくれました。
 「あれね、今までで最高のオンサイドキックやったんですよ。練習でもほとんど決まったことがなかった。あんなにきれいに決まったのは初めてでした」


 そうだったんだ…。聞いてよかった。やっぱり勝ちたい気持ちが「あとほんの少しの力」を与えたんだ。
 あれこそ4年生のプレーでした。4年間が詰まったプレーでした。でも、それでも…。勝利をつかむことはできませんでした 。
 「もう一度学生に戻りたいです。やり直したいです。うらやましいですよ、学生たちが」。そっか。今でもそんな思いなんですね。


 「限りがあるからこそ輝く」―。あるコーチの言葉です。
 大学4年間という限られた期間。ただ勝利のために。日本一になるために。今年が最後のシーズン。負けたらもう二度とこのメンバーで試合をすることはないのです。
 学生たちがまぶしいほどに輝きを放ち、その輝きはときにまぶしすぎて直視できない…。また今年も、そんなボウルゲームの季節がやってきました。

【写真】あずまボウルの記者会見で握手する法大の主将LB田中喜貴(左)と日大の主将OL岩井悠樹=撮影:Ayako Konishi、13日、都内