NFLは時に「シンデレラストーリー」の舞台となる。無名だった選手がチャンスを与えられて花開く。
 第12週のサンクスギビングデーゲームでディビジョンライバルのライオンズを退け、9勝2敗として2年ぶりのNFC北地区優勝に大きく前進したバイキングズ。そのオフェンスを支えるQBケース・キーナムが、今回のストーリーの主役だ。


 バックアップとして下済み生活の長かったキーナムにとって、第11週に対戦したラムズは少なからず因縁のある相手だった。
 今季のラムズは2年目QBジャレッド・ゴフが順調に成長し、RBトッド・ガーリーがランとパスキャッチで貢献し、大方の予想を裏切る快進撃を見せている。


 若い選手の力がようやくいい形で結集し、強豪シーホークスを抑えてNFC西地区の首位を堂々と走っている。
 昨年までキーナムはこのラムズの一員だった。昨年は開幕先発を任され、4勝5敗の成績を残した。しかし、22年ぶりにNFLチームが存在することで期待が膨らんだロサンゼルスのファンはこれでは納得しなかった。彼らが待ち望んだのはドラフト全体1位指名のゴフの登場だったのだ。


 その世論に押される形で、ジェフ・フィッシャーHC(当時)がキーナムに代えてゴフを起用したのが奇しくも昨年の第11週だった。


 その1年後に実現したキーナムとゴフの直接対決は、個人の因縁以上の大きな意味があった。
 7勝2敗の地区首位同士で迎えたNFCの大一番だ。イーグルス(9勝1敗)、セインツ(8勝2敗)が好調な中で、負けた方がプレーオフのトップ2シード争いから一歩後退する。ポストシーズンでバイウィーク(1週の休み)とホームでの試合開催権を獲得するための重要な一戦である。(いずれも第11週終了現在)


 万年控えのキーナム対将来を嘱望されるゴフの直接対決はキーナムに軍配が上がった。キーナムのこれまでの先発出場試合で、最も大きな勝利だったかもしれない。


 キーナムは、2012年にドラフト外でテキサンズに入団した。2年目のシーズンにマット・ショーブが故障で戦列を離れ先発を任された。
 肩が強く、ボールのリリースも速いのがキーナムの特徴だ。いわゆる「タッチのいい」パスを投げるタイプで、スパイラルのかかったきれいな軌道を描いてボールが飛んでいく。


 最初の2試合こそレーティング100以上のパフォーマンスを見せたが、勝ち星には恵まれなかった。
 コントロールが乱れてインターセプトされるケースもままあり、結局このシーズンは8試合で1回も勝てなかった。


 15年にラムズに移籍し、今年のオフにバックアップQBとしてバイキングズと契約した。
 バイキングズは、昨年夏にエースQBテディ・ブリッジウオーターが練習中に左膝の靱帯を断裂する重傷を負い、急遽サム・ブラッドフォードをトレードで獲得した。今季もブリッジウオーターは開幕には間に合わず、ブラッドフォードが開幕先発を務めた。


 ところがブラッドフォードの古傷である膝痛が再発し、早くも2週目からキーナムに先発の座が巡ってきたのだ。
 当初は1、2週で復帰できる見込みだったブラッドフォードの症状は意外に重く、バイキングズのオフェンスはキーナムに託された。
 ブリッジウオーターもリハビリ中であったため唯一の選択肢だったのだが、同時にチームにとっては大きな賭けでもあった。


 キャンプやプレシーズンはブラッドフォード中心にオフェンスを構築したため、キーナムとオフェンスのスターター陣はほとんどプレーを合わせていなかった。
 直線的なボールを投げるブラッドフォードに比べて、キーナムのパスはやわらかい。ボールの軌道もスピードも異なるのだ。


 それもあってか、最初の3試合はパスの成功率は50%台にとどまり、戦績も1勝2敗だった。
 しかし、次の4試合(ブラッドフォードが1試合だけ復帰したため先発は3試合)では、いずれも60%を超える成功率でパスを決め、チームに連勝をもたらした。現在バイキングズは7連勝中だ。


 最近2試合のキーナムは、パス成功率が70%を超え、レーティングも三桁をキープしている。
 インターセプトは平均して1試合に1回くらいの頻度で出てしまうが、被サックが少なく、それが彼の新たな持ち味となっている。


 ボケットの中で動き回るので、OLにとってはプロテクションを長く維持しなければならないが、レシーバーに長いパスコースを走る時間が与えられるので、結果としてビッグプレーが生まれやすくなる。
 バイキングズにはWRアダム・シーレン、ステフォン・ディグス、TEカイル・ルドルフといった好レシーバーが多いのもキーナムの肩を生かせる環境を作っている。


 3週間前にブリッジウオーターが出場登録された。代わりにブラッドフォードは故障者リストに登録されたが、バイキングズにとっては待望のエースQBの復帰だ。
 ただし、マイク・ジマーHCは当面はキーナムをスターター起用し続ける方針だ。チームは上昇気流に乗っているし、ここでオフェンスの司令塔を交代させることは得策ではないからだ。


 長いバックアップ生活を経てようやくつかんだ活躍の場。やがてはブリッジウオーターに譲らなければならないのかもしれないが、少なくとも今のバイキングズオフェンスはキーナムのものだ。
 彼にかけられた魔法は、まだしばらくは解けそうにない。

【写真】ライオンズ戦で相手守備選手のタックルをかわして前進するバイキングズのQBキーナム(AP=共同)