人種差別に抗議する態度を表明するため、国歌斉唱の際に起立を拒みベンチに座り続ける行動が、アフリカ系アメリカ人のプロスポーツ選手の間で急速に広まっている。NFLも例外ではない。


 昨年も49ers(当時)のQBコリン・キャパニックが片膝をつく抗議行動を始め、それに賛同する選手が多く出た。
 キャパニックはアメリカ各地で発生した、アフリカ系アメリカ人が白人警官に射殺される事件に対して抗議の意思を表したものだ。


 今年は8月中旬にバージニア州で白人至上主義を唱える団体と抗議集団が激しく衝突し、死者の出る事件が起きた。
 これに対しドナルド・トランプ大統領が出した、双方を非難する声明が人種差別を助長するものだとして騒動を大きくした。トランプ大統領がかねてから唱えているアメリカ第一主義の主張も要因となった。


 NFLでこれにいち早く反応したのがシーホークスのDEマイケル・ベネットだ。プレシーズンゲームで国歌斉唱をベンチに座ったまま聞き、試合後にそれがバージニア州の暴動に対する抗議活動であることを明言した。


 ピート・キャロルHCは「ベネットを支持すると言うことは簡単だ。ただし、私は国歌斉唱の際には全員が起立するべきだと思う」との立場を表明しつつも、「この件については、あらゆる面でベネットを支えていく。協議を重ねて、いろんな立場の意見を聞くことで彼が孤立しないようにしていきたい」と、事態の難しさを口にしている。


 NFLではレイダーズの新人Sシャロム・ルアーニ、ラムズLBロバート・クィンらが片膝をついたり、こぶしを高く上げたりするなど形は異なりながらも、ベネット同様に抗議行動をする選手が増えている。
 また、白人であるデレク・カー(レイダーズQB)やジャスティン・ブリット(シーホークスC)らはそれぞれチームメートを支持する態度を示している。


 引退を撤回して今季からレイダーズに移籍したRBマーション・リンチも、国歌斉唱ではベンチに座ったままだが、こちらはその理由を明らかにしていない。
 「自分はNFLでのキャリアを通じて、ずっとこのやり方を通してきている」と語るのみだ。


 NFLでは、こうした抗議行動を容認する風潮が強い。選手やコーチの約7割弱がアフリカ系アメリカ人であり、その割合はNBAに次いで高い。
 彼らの存在なくしてはリーグそのものが成り立たなくなるのだ。


 また、NFL自体もマイノリティ(社会的少数派民族)がHCやGMなどチームの要職に就くことを奨励している。抗議行動を抑止することはこの姿勢に反することにもなる。


 その一方で、アメリカで最も人気のあるプロスポーツが国歌に対する敬意を示さなくていいのかという議論もある。
 国歌斉唱の際に起立、脱帽して国旗を見つめることで母国に対する敬意を示し、統一の意志を表すと根強く考えられている。人種問題と国に対する敬意が大きな矛盾をはらんで表面化してしまったのである。


 抗議行動の支持派は「個人の意思の表明は尊重する」との立場だ。あくまで個人が行動するならその権利は認めるということだ。
 それが現状では矛盾を解決する最善の方策なのかもしれない。


 しかし、抗議行動が個人にとどまらない範囲にまで広まれば、リーグとしての正式見解が求められる可能性がある。
 NFLでは乳がんの早期発見、治療を啓蒙する「ピンクリボン運動」や軍役従事者への感謝の意を表す「Salute to Service」といった期間限定の運動を行う。


 これらの運動期間やサルートを行う試合での国歌斉唱で起立しなければ「ピンクリボン運動を軽視し、兵役従事者​に対する敬意を表さない態度だ」と非難されるかもしれない。


 開幕まであと2週間。全米が待ち望む9月7日を前に、NFLは難しい判断を迫られることになる。

【写真】2016年10月のカウボーイズ戦で、国歌斉唱を片膝をついて聞くQBキャパニック(中央)ら49ersの選手(AP=共同)