オークランド・レイダーズのラスベガス移転が、オーナー会議で承認された。ついにNFLは「ギャンブルの都市」へ足を踏み入れることになる。


 この1年余りで移転が決まったのはラムズ(セントルイス~ロサンゼルス)、チャージャーズ(サンディエゴ~ロサンゼルス)に続いて3例目だ。
 北米4大プロリーグではフランチャイズ移転は珍しくないが、短期間にこれだけの移動があるのはさすがに異例だ。


 新スタジアム建設や新規マーケットの開拓など、チームやリーグにはそれなりのメリットがある。しかし、置き去りにされるのはファンだ。
 チームが自治体に求める新スタジアム設立を受け入れるには増税が不可欠で、その負担は一般市民にのしかかる。それを拒否すればチームを失う。実に不条理だ。


 オークランドのファンがレイダーズを失うのはこれで2度目。1982年のロサンゼルス移転の時はまだ同じカリフォルニア州だったが、今度はネバダ州へとチームが去る。
 国土が狭いうえに大都市にプロスポーツチームが集中する日本ではなかなかイメージしにくいかもしれないが、アメリカ人のファン心理とは地元チームへの愛着そのものだ。国際大会で日本人が日本代表チームを応援するのに近い。


 そのチームが突然ほかの地域へと去ってしまう。地元愛から発生する感情を注ぐ相手がいなくなるのだ。野球の「侍ジャパン」が外国の代表チームになってしまうようなものだ。
 オークランドのファンは熱狂的だ。過激なヘビーメタルバンド顔負けの派手でトゲトゲしいコスチュームを身にまとったファンがスタジアムに集結する。


 こうした「危ない」人たちに子どもを近づけたくないと思う親が多いのでコロシアムの観客動員数が伸び悩んだという事情もあるのだが、「ブラックホール」と呼ばれる熱狂的なファンがレイダーズの象徴でもあった。


 レイダーズの移転がオーナー会議で可決された瞬間、「レイダーズファンをやめる」と宣言する人は少なくなかったようだ。
 移転阻止に尽力したオークランド市議会のラリー・リード議長も「私が『レイダーズ』の文字の入った服を着ることは金輪際ない」と述べた。熱狂的だからこそ反動も大きいのだろう。


 もう20年ほど前の話になるが、筆者の職場にクリーブランド出身の記者がいた。当然彼はブラウンズファンだ。
 ところが、ブラウンズは1995年シーズンを最後にクリーブランドからボルティモアに移転してしまう。ただし、クリーブランド市民がブラウンズの所有権を訴訟で勝ち取ったためにボルティモアではブラウンズは名乗れず「レーベンズ」と名称を変更したことは以前にもこのコラムで紹介した。


 クリーブランド出身の彼もレーベンズを応援する気にはならなかったようだ。やはり地元が裏切られたとの思いが強かったのだ。
 面白いのが、彼が寝返った先がブラウンズの最大のライバルであるスティーラーズだったことだ。彼に言わせれば「クリーブランドに近いから」という理由だった。


 それなら、なぜ同じオハイオ州のシンシナチに本拠を置くベンガルズではなかったのかが今でも謎なのだが、いずれにせよ99年に現在のブラウンズが新興チームとなって復活したため、彼も晴れてブラウンズファンに戻っていった。


 レイダーズの場合、事態をより複雑にしているのはチームが少なくとも今後2シーズンは従来通りオークランドでホームゲームを行うということだ。
 ラスベガスで建設計画の進むスタジアムの完成予定は2020年。現在のホームであるコロシアムとのリース契約は2年残っており、1年の延長をすればあと3年は古巣でプレーすることになる。今回は変なたとえが多くて申し訳ないが、これでは別れた妻と同居を続けるようなものだ。


 これをオークランド市民はどのような気持ちで見るのだろうか。ラスベガスに移転してもファンで居続ける人はいずれいなくなるチームに声援を送れるのか。ファンをやめると宣言した人に未練はないのか。
 せっかく長い低迷期を脱してプレーオフに出場したばかりのチームにファンのサポートはあるのか。


 より良い環境とマーケットを求めるのはビジネスでは当たり前のことだ。しかし、損得勘定抜きで愛情を注いできたファンの心理は、ビジネスライクに切り捨てることはできない。

【写真】NFLはオーナー会議でレイダーズのラスベガス移転を承認した(AP=共同)