プレーオフに進出した12チームがリーグ制覇を争っている間、NFLの他の20チームは着々と来季への準備を始めていた。そのうち6チームは新たなヘッドコーチ(HC)を迎えて2017年シーズンに臨むことになる。
 HCが交代した6チームのすべてが、自チームもしくは他球団のアシスタントコーチからの抜擢で、現職HCのスライド就任やカレッジ界からの登用がないのが特徴だ。


 記録のために列挙しておくとショーン・マクベイ(ラムズ=前レッドスキンズ攻撃コーディネーター)、アンソニー・リン(サンディエゴ改めロサンゼルス・チャージャーズ=前ビルズRBコーチ兼攻撃コーディネーター、のちにHC代行)、ショーン・マクダーモット(ビルズ=前パンサーズ守備コーディネーター)、ダグ・マローン(ジャガーズ=前ジャガーズアシスタントHC兼OLコーチ、のちにHC代行)、バンス・ジョセフ(ブロンコス=前ドルフィンズ守備コーディネーター)、そしてカイル・シャナハン(49ers=前ファルコンズ攻撃コーディネーター)だ。


 代行を除き過去にNFLでのHC経験があるのはジャガーズのマローン(2013~14年ビルズ)のみでフレッシュな顔ぶれだ。
 また、30歳でNFL史上最年少HCとなるマクベイに代表されるように指揮官の若返りが進んでいる。


 知名度ではマローンと、スーパーボウルに出場したファルコンズのオフェンスを率いたシャナハン以外はほとんど知られていないのではないか。読者の方も名前を聞いて「誰?」と首をかしげたのではないだろうか。


 アシスタントコーチの登用は、HC経験者に比べて年俸を抑えやすいというチームの思惑がある。熟練のオーナーやGMにとっては扱いやすいという事情もあるだろう。
 また、若いということは年齢的に選手に近く、いい関係が作りやすい。自由で柔軟な発想でチームを作ることも期待できる。


 ダン・クィンがシーホークの守備コーディネーターから招聘されて、2年でファルコンズをプレーオフ(最終的にはスーパーボウル準優勝)に導くほどの成功を収めたこともこの傾向を後押ししている。


 6人の新HCの中で最も期待されるのはやはりシャナハンだろう。ブロンコスを2度のスーパーボウル優勝に導いた名将マイク・シャナハンの息子で、父の下でオフェンスのノウハウを学んできた。
 今季はファルコンズでリーグトップの得点力を持つオフェンスを作り上げたことで高く評価された。スーパーボウルでのプレーコールに対する批判もあるが、なるべくしてHCになった人材だ。


 ただし、彼が49ersですぐに結果を出せるかどうかは別問題だ。現在のナイナーズは一からチーム作りをはじめなければならないほど戦力が乏しいからだ。
 49ersは2011~13年にかけてジム・ハーボウHCの下で1回のスーパーボウル出場を含む3年連続のNFC決勝進出を達成した。


 しかし、2014年シーズンを最後にハーボウが退団したのとほぼ時を同じくして主力選手の喪失が相次いだ。
 LBパトリック・ウィリスやDEジャスティン・スミスの引退、RBフランク・ゴア、OLマイク・ユーポティらの移籍がチームの弱体化を招いた。
 HCはジム・トムスーラ、チップ・ケリーが就任したがいずれも1年で交代し、穴だらけの戦力は埋まらないまま現在に至る。


 通常、新任のHCは自分の得意分野からチーム改革に着手する。シャナハンの場合はもちろんオフェンスだ。しかし、これも前途は多難だ。
 理由は二つある。一つはオフェンスに人材が乏しいことだ。シャナハンのオフェンスはフィールド上のディフェンスの動きを正確に読み取り、その裏を突くことで成功する。その実行にはパスの精度が高いQBと素早くダウンフィールドを攻めることのできるレシーバーが必要だ。


 ファルコンズではQBマット・ライアン、WRフリオ・ジョーンズといった人材に恵まれたため2年で結果を出すことができた。
 現在の49ersのQBコリン・キャパニックとブレイン・ギャバートはともにパス能力に乏しく、さらにチームに残留するかも定かではない。レシーバーも明らかな人材不足だ。シャナハンがオフェンスを自在に操ろうにも、駒が足りないのだ。


 もう一つの問題はGMだ。シャナハンより先に新たにGMに就任したジョン・リンチはセーフティーとして活躍し、在籍したバッカニアーズとブロンコスでそれぞれチームの殿堂入りを果たした元名選手だが、フロントとしての経験はない。それどころかコーチ経験もない。つい最近までテレビ局のアナリストだった人物だ。


 リンチのバックグラウンドはディフェンスだから、彼がディフェンス主導のチーム作りを描こうとすればシャナハンの方針と矛盾する。こうした事態は頻繁に起こる。


 HCとGMの不仲はチームに悪影響を及ぼす。当の49ersにおいてもハーボウの退団は当時のGMとの確執が原因だとされるほどだ。
 シャナハンとリンチがチーム作りにおいて方針の違いから仲たがいをする可能性は否定できないのである。


 シャナハンのHC就任は文字通り火中の栗を拾うに近い。チームの総指揮官としての手腕はいまだベールに包まれているが、人気チームの舵取りとして内外から注目を集める。まずはそのお手並みを拝見というところだ。

【写真】49ersの再建を託されたジョン・リンチ新GM(左)とカイル・シャナハン新HC(AP=共同)