「Houston,  we’ve had a problem here(ヒューストン、こちらに問題発生中)」―。
 1970年、月面を目指したアポロ13号に起きたトラブルを、ヒューストンのジョンソン宇宙センターに伝えた有名な言葉だ。
 試合前半のペイトリオッツとそのファンはまさにこのセリフを発したくなるような心境だったろう。
 しかし、スーパーボウル史上最も長い64分52秒の激闘が終わった時、問題はすべて解決され、「愛国者」たちは5度目のNFL制覇を成し遂げたのだった。


 第51回スーパーボウルは2月5日(日本時間6日)にテキサス州ヒューストンで行われ、最大25点差を追いついたAFC代表ペイトリオッツが大会初となるオーバータイムの末に34―28でNFC王者のファルコンズを破り、2年ぶりのリーグ優勝を達成した。


 MVPには、ともにスーパーボウル記録となる62回の試投で466ヤードを稼ぎ、後半に二つのTDパスを成功させたQBトム・ブレイディが選ばれた。こちらも史上最多となる4度目の受賞だ。


 「とても厳しい試合だった。ファルコンズも素晴らしいチームで、称賛に値する。ただ、私たちの方が彼らより少しだけいいプレーができた」とブレイディは試合後に語った。
 そして最後まで行方の分からない試合展開については「いくつものプレーがあったなかで、その成否が少しでも違っていたら結果も違ったものになっていただろう」と激戦を振り返った。


 序盤はお互いにオフェンスが決め手を欠く立ち上がりとなった。リーグ1位の得点力を持つファルコンズは、RBデボンテ・フリーマンのランでロングゲインするもののエンドゾーンには届かず、ペイトリオッツはWRジュリアン・エデルマンの落球などでリズムを崩した。


 第1Q、ともに無得点で終わったあと先制したのはファルコンズだった。ペイトリオッツRBルギャレット・ブラントのファンブルで得たチャンスをフリーマンの5ヤードTDランに結び付けて7―0とリード。
 第12週を最後に相手にリードを許していなかったペイトリオッツが実に7時間19分36秒ぶりに拝む敵の背中だった。


 その後もファルコンズはQBマット・ライアンからTEオースティン・フーパーへの15ヤードTDパス、CBロバート・アルフォードの82ヤードのインターセプトリターンTDで連続得点し、21-3と大きくリードして試合を折り返す。


 戦前の予想ではスーパーボウルの経験に優るペイトリオッツが試合の主導権を握ると思われたが、むしろ若手中心のファルコンズが怖いもの知らずの勢いに乗ってモメンタムを引き寄せた。
 それだけに、第3Q中盤にファルコンズがライアンからRBテビン・コールマンへの6ヤードTDパスで突き放し、28―3としたところで勝負あったかに見えた。


 ジョージア州アトランタの街は1995年のMLBブレーブス以来となる4大プロリーグ制覇への夢を早くも膨らませたに違いない。
 だから、ペイトリオッツに第3Q終盤のRBジェームズ・ホワイトの5ヤードTDパスキャッチ(TFPキック失敗)と、第4Q序盤のスティーブン・ゴスタウスキーの33ヤードFGで追い上げられてもまだ余裕があった。


 28―12と2ポゼッションの差をつけて試合時間が残り9分44秒を指した時、ファルコンズはゲームを仕上げに入った。ラン中心のオフェンスに切り替え、逃げ切りを図ったのだ。
 レギュラーシーズン中にファルコンズが何度も実行してきたゲームプランだ。点差と残り時間、そして、この後に訪れるであろうファルコンズのポゼッションで加点されるべき得点。この条件がそろえばファルコンズのいつもの勝ちパターンである。


 しかし、たった一つのプレー選択ミスがそのパターンを崩してしまう。第4Q残り8分31秒、自陣36ヤードでサードダウン1ヤードとなった場面だ。
 カイル・シャナハン攻撃コーディネーターは、この日好調のランではなくパスをコールした。しかし、ドロップバックしたライアンにペイトリオッツLBドンテ・ハイタワーが襲い掛かってファンブルフォース。こぼれ球をDTアラン・ブランチがリカバーしたのだ。


 このターンオーバーの好機を試合巧者のペイトリオッツが逃すはずがなかった。約2分後にブレイディからWRダニー・アメンドーラへの6ヤードTDパスと2点コンバージョンを成功させて、その差は8点に縮まった。


 こうなると浮足立つのはファルコンズだ。残り時間6分を切って3点でもいいから追加得点すれば何の問題もないのだが、敵陣23ヤードまで進みながらライアンがQBサックを浴びて大きく後退。
 さらにOTジェイク・マシューズのホールディングの反則でさらに10ヤード下がってFGレンジからも遠のいてしまう。


 結局パントに追いやられてペイトリオッツにTD(ホワイトの1ヤードラン)と同点の2点コンバージョン(アメンドーラのパスキャッチ)を許すことになるのである。


 試合はスーパーボウルでは前例のないオーバータイムに持ち込まれたが、コイントスで勝ったペイトリオッツがレシーブを選択。第4Qを19―0で乗り切ったペイトリオッツは、その勢いそのままに最初のドライブでホワイトの2ヤードランでTDを決め、ファルコンズにオフェンス機会を与えないまま「ビンス・ロンバルディトロフィー」を手に入れたのだった。


 ブレイディはデフレート疑惑(2年前のAFC決勝で故意に空気圧を規定以下にしたボールを使用した事件)への関連が疑われるにもかかわらず、リーグの捜査に非協力的だったとして今季最初の4試合で出場停止処分を受けた。
 その悪いイメージを払しょくするかのような逆転劇で勝利を手にした。先発QBとして5回ものスーパーボウル制覇を達成したのはブレイディだけだ。そして、そのすべてが第4Q以降の逆転であるところに彼の勝負強さがある。


 ビル・ベリチックHCが「過去に経験のない試練」と呼んだブレイディの欠場、TEロブ・グロンカウスキーを筆頭とする主力選手の戦列離脱、スーパーボウルでの25点差のビハインド。
 次々と直面する逆境をはねのけたペイトリオッツは、また一つ上の高みへと歩みを進めた。

【写真】オーバータイムで決勝のTDを挙げたペイトリオッツのRBホワイト(28)(AP=共同)