「トリック・オア・トリート?」の言葉が街を飛び交うハロウィーンが過ぎると、NFLはトレードの期限を迎える。
 今年はアメリカ東部時間11月1日午後4時がデッドラインだ。この時刻までにトレードを希望するチームはその成立をニューヨークにあるNFLのヘッドクオーターに報告しなくてはならない。


 アメリカのメディアでは、カウボーイズのQBトニー・ロモのトレードが取りざたされるなどかまびすしい。しかし、例年は期限ぎりぎりで大物選手が動くことはほとんどない。
 直近ではペイトリオッツがライオンズからLBカイル・バン・ノイを獲得し、TEのA・Jダービーをブロンコスに譲渡したくらいだが、ビッグネームというほどの選手ではない。
 ブラウンズのLTジョー・トーマスの名前も挙がっているが、オールプロ常連の名選手だけにチームも手放さないだろう。


 ロモがトレードの噂のターゲットになっているのはうなずける。プレシーズンで故障してここまで欠場中だが、カウボーイズでは新人QBダック・プレスコットが台頭してチームも5勝1敗と好調だからだ。
 現地ではロモの故障が癒えてスローイングの練習も始めたと伝えられる。カウボーイズがあえてプレスコットを起用し続けるなら、ロモはほかのチームでプレーしたほうがいいと考えるのがファン心理だ。


 もっとも、先発クラスのQBをシーズン中にトレードで獲得するメリットはほとんどない。いかにベテランのQBでも新たなチームのオフェンスシステムを把握し、レシーバーやOLたちとのタイミングを合わせるためには時間が必要だからだ。噂話としては面白いが、現実的ではない。
 ただし、QBがチームの和を乱す存在だった場合はその限りではない。トレードという形で体よく放出する可能性は否定できない。


 ジェッツのQBライアン・フィッツパトリックが不用意な発言で物議をかもした。フィッツパトリックは昨年のオフにジェッツにバックアップとして入団した。
 しかし、先発予定だったジーノ・スミスがチームメートに殴られてあごを骨折するというアクシデントに見舞われたために先発の座を獲得。31TDパスと活躍してジェッツの躍進に一役買った。


 ところが今季は不振で、6試合に先発出場して被インターセプトはリーグワーストの11。彼をかばい続けてきたトッド・ボウルズHCの堪忍袋の緒もついに切れ、第7週のレーベンズ戦ではついに先発からはずされてしまった。


 皮肉なことに彼に代わってスターターを務めたスミスが第2Qにひざを負傷してベンチに下がったために、再び司令塔を任されて勝利に貢献したのだ。
 スミスはひざの靭帯を断裂する重傷なため、今季絶望だ。ジェッツは一度は断念したフィッツパトリックで再び戦うことになる。


 問題はこの後だ。試合後のインタビューで、フィッツパトリックは先発を降ろされたことへの不満をぶちまけたのだ。
 彼は「NFLでチームのオーナーやGM、コーチングスタッフから信頼されなくなれば、あとは自分しか頼るべき存在はない」と述べ、名指しこそしなかったもののウッディ・ジョンソン・オーナー、マイク・マキャグナンGM、ボウルズHCらを批判した。


 フィッツパトリックは続けて「幸いにチームメートはまだ信頼を寄せてくれるのが救いだ」とも言っているので、少なくとも選手間でいさかいはないものと思われる。
 実はフィッツパトリックの不満には伏線がある。昨年の入団時の契約は1年だったため、今年3月にフリーエージェントとなった。


 彼自身はジェッツに残る意思があり、ジェッツも彼の活躍を認めて再契約をしたいと公言した。実際に総額2400万ドルの3年契約を打診したが、フィッツパトリックはこれを拒否している。
 フィッツパトリックにラブコールを送る一方でジェッツはドラフト2巡でクリスチャン・ハッケンバーグを指名した。これで事実上、フィッツパトリックの長期契約はなくなった。


 ジェッツとの間にようやく再契約の合意が成立したのは、キャンプイン直前の7月下旬のことだ。しかも、また1年契約である。この仕打ちにフィッツパトリックがチームへの不信感を募らせても不思議ではない。


 レーベンズ戦後のフィッツパトリックの発言に、今度はボウルズは「彼がブチ切れることでターンオーバーが減るなら大歓迎だ」と応酬し、フィッツパトリックの不安定なクオーターバッキングを責めた。
 こうなるともう泥仕合である。まだシーズン半ばだというのに、フロントとQBの確執が表面化したのではチームが一丸となるはずがない。ジェッツは迷走し始めている。


 こうした状況を解決するには首脳陣とフィッツパトリックが直接に話し合いを持つしかない。その上で、今後の戦いに向けて協力関係を再構築するべきだ。


 現在までそうした行動が行われた様子はない。それどころか、フィッツパトリックは発言を後悔していないとまで語っている。
 折り合いをつけるのは難しいかもしれない。今後の首脳陣の反応が待たれる。ハロウィーンの決まり文句がジェッツで「パトリック・オア・トレード?」にならなければいいのだが。

【写真】レーベンズとの試合前にウオームアップするジェッツのQBフィッツパトリック(AP=共同)