NFL版「二刀流」選手の登場か?
 プロ野球ではパ・リーグ優勝を果たした日本ハムファイターズの大谷翔平選手が二刀流の活躍をしている。あまりに目覚ましいため、従来は投手と野手もしくは指名打者(DH)で同時受賞が許されなかったベストナインの規約が修正されたほどだ。いわば「大谷ルール」である。


 各ポジションの分業が進んでいるアメリカンフットボールで、しかもプロのレベルでは大谷のような存在が出現する確率は低い。しかし、ブラウンズのWRテレル・プライアーは第5週のペイトリオッツ戦でQBを兼任してみせた。


 ペイトリオッツのQBトム・ブレイディが4試合の出場停止処分が明けて復帰することで注目されたこの試合だが、もちろんプライアーはゲームプランでQBとしてプレーしたわけではない。
 先発のコディ・ケスラーとバックアップのチャーリー・ホワイトハーストが相次いて故障退場したためだ。


 ほとんどがボールをRBにハンドオフするだけの役割でパスは3回投げて1回の成功、5ヤードの獲得に終わった。この試合の前にも第3週のドルフィンズ戦で3回パスを成功している。
 プライアーは元々QBとしてNFL入りした。オハイオ州立大学で活躍した後、2011年にレイダーズから3巡指名を受けた。現ブラウンズのヒュー・ジャクソンHCが1年だけレイダーズのHCを務めたシーズンだ。


 翌年先発に昇格し、2年間プレーしたが花開かず解雇された。その後シーホークスに移籍したが、3番手QBで出場機会はなかった。NFLで生き残るためにプライアーが選んだ道はWRへの転向だった。


 大学時代にQBを務めた選手がWRとしてNFL入りする例は多い。ペイトリオッツで活躍するジュリアン・エデルマンもケント州立大学などでQBとしてプレーした。
 ただし、こうした選手はプロ入り前にポジション変更するのが一般的で、NFLでQBとして出場した実績のある選手がWRに転向するのは異例だ。


 昨年の春にプライアーはWR転向を宣言し、ブラウンズに入団した。オフのトレーニングプログラムで転身をアピールしたものの、マイク・ペティン前HCを納得させるほどではなくロースターに残ることはできなかった。


 彼にセカンドチャンスを与えたのが、今季からブラウンズの指揮官となったジャクソンHCだ。そして、QBとWRの育成に定評のあるジャクソンは、見事にプライアーの能力を引き出すことに成功した。


 第5週終了時点で、プライアーは24回のパスキャッチで338ヤードの獲得(ともにチームトップ)、キャッチとランでそれぞれ一つずつTDを挙げるエース格の活躍をしている。
 順風満帆な再スタートだが、ここに別の風が吹く。ブラウンズのQB事情である。


 ブラウンズは今季、レッドスキンズを解雇されたロバート・グリフィン3世をフリーエージェントで獲得して先発QBとした。
 しかし、期待のグリフィン3世は開幕戦で肩を骨折して戦列を離脱。2番手のジョシュ・マカウンも翌週に鎖骨を骨折してしまう。


 第3週からは新人のケスラーを先発起用していたが、彼もペイトリオッツのLBドンテ・ハイタワーのタックルを受けて脇腹を痛めてプレー続行不可能となった。
 残るQBはホワイトハーストだけだったが、入団してまだ3週間と日が浅いうえに彼自身も負傷退場。ほぼ敗戦処理という役割ではあったものの、プライアーがQBとして登場したのだった。


 ブラウンズにとって幸いなことに、ケスラーは次戦タイタンズ戦には復帰できる見込みだが、アグレッシブなディフェンスを売りにしている今季のタイタンズを相手に負傷が悪化しないという保証はない。


 シーズン後半にはグリフィン3世が復帰できる見込みだが、今後数週間はQBの手薄な時期が続く。こうしたチーム状況ではプライアーがさらにQBとして出場する機会があるかもしれない。
 大谷選手と違ってプライアーの場合は二刀流起用がチームのゲームプランとして採用されることはないだろう。しかし、いざという時の保険ならば心強い存在だ。

【写真】レッドスキンズ戦でパスキャッチするブラウンズのWRプライアー(11)(AP=共同)