引退したスター選手の代役を任された選手の重圧とはどんなものか。
 ライオンズのWRマービン・ジョーンズはベンガルズからフリーエージェントで移籍した今春以降、幾度なくこの質問攻めにあったそうだ。最近では尋ねられても回答を拒否するという。


 ジョーンズへの期待は言うまでもなくカルビン・ジョンソンの引退によって生じた大きな穴を埋めることである。
 ジョンソンは昨季まで9年間プレーし「メガトロン」の愛称で親しまれた。196センチの恵まれた身長と抜群の跳躍力、そしてNFLトップクラスのスピードを生かしてエースとして君臨し、QBマシュー・スタッフォードとのコンビでTDを量産した。


 2012年には、破られることはないだろうと言われていた名WRジェリー・ライスのシーズン獲得距離のNFL記録を更新する1964ヤードをマークした。
 ほとんどすべてのプレーでディフェンスからダブルカバーされ、時には3人のDBによるカバレッジを受けることもあったが、それでもビッグプレーを連発する能力にライオンズファンでなくとも魅了されたものだ。


 そのジョンソンが突如の引退宣言を行ったのは今年3月のことだった。まだ選手として衰えはまったく見えないなかでの幕引きは衝撃だった。
 慌てたのはライオンズだ。スタッフォード―ジョンソンの「ホットライン」はオフェンスの根幹を成すものである。ジョンソンがいなくなればスタッフォードの強肩を生かすスキームが使えない。オフェンスは一からの立て直しを余儀なくされるのだ。


 折しも、ベンガルズとの4年契約を満了したジョーンズが移籍先を探しており、渡りに船とばかりに契約を済ませたのだった。
 もちろん、ジョーンズが将来の殿堂入りが確実視されるジョンソンの代わりを務められるわけではない。それはジョーンズ自身もライオンズも承知の上だ。それでも、スタッフォードのパスを武器とするオフェンススタイルを維持するのであれば、実績あるジョーンズは適材だった。


 ジョーンズは2012年にドラフト5巡指名を受けてベンガルズに入団した。前年に入団したQBアンディ・ダルトンとWRのA・Jグリーンがオフェンスに革新をもたらし、ベンガルズがプレーオフの常連となり始めるころだ。
 ジョーンズは新人の頃からパス中心のオフェンスで頭角を現し、次第にその存在感を示していった。


 しかし、あくまでもグリーン、TEタイラー・アイファートに次ぐ3番手の扱いだった。ライオンズへの移籍を決断したのは、エース格として迎えられる可能性が高かったからでもある。
 今季序盤は期待に応えたと言っていいだろう。第2、3週にはキャリアで初の2試合連続で100ヤード超のレシーブを記録した。しかも、第3週のパッカーズ戦では試合には敗れたものの6回のパスキャッチで205ヤード、2TDの活躍だった。この時点でシーズンのトータル獲得距離は408ヤードのリーグ1位だった。


 ファルコンズのWRフリオ・ジョーンズが300ヤードレシーブというとんでもない数字をたたき出したために首位の座を譲ったものの、それでも第4週終了現在でNFL2位の獲得距離を誇る。
 ただし、ここにきて壁にぶつかり始めている印象もぬぐえない。第4週のベアーズ戦では5回のパスキャッチをするも今季最少の74ヤードに抑えられ、TDはなかった。
 序盤3試合の活躍をみてベアーズがジョーンズ対策を練ってきた結果だとすれば、同様の対策を今後対戦するチームが用意してくることは想像に難くない。


 ベンガルズ時代のジョーンズはエース格のWRではなかった。それが意味するところは、ディフェンスのカバーが比較的薄いということだ。グリーンがダブルカバーされる恩恵で活躍できていた部分は否定できない。


 今度はジョーンズ自身が複数のDBのカバレッジを受け、ゴールデン・テイトやアンクワン・ボールディンといったほかのレシーバーが活躍する環境を整えなければならない。
 もちろん、それだけでは不十分だ。他のレシーバーのチャンスを広げる一方で、自分自身もディフェンスの厚いカバーを破る活躍をしなければならない。
 ジョンソンはそれができた。どんなディフェンスを相手にしてもプレーメーカーとして活躍した。だからこそ彼はエースであり続け、多くのNFLファンに愛されたのだ。


 ジョーンズにとっては試練である。だが、裏を返せばジョンソンの喪失を忘れさせる存在となるチャンスである。
 1勝3敗と苦しむライオンズの巻き返しはジョーンズが試練を克服できるか否かにかかっている。

【写真】ライオンズの新エースWRとしての期待がかかるマービン・ジョーンズ(11)(AP=共同)