高いレベルのアスリート集団であるNFLは、そのプレーを見ているだけでエキサイティングな選手がいるものだ。戦術やルールに詳しくなくても、その選手にだけ注目していればNFLを楽しめる。
 今年もまた一人、そんな選手が現れた。開幕のブラウンズ戦で華々しいデビューを飾った、イーグルスの新人QBカーソン・ウェンツである。


 筆者は新人QBには大きな期待をしない。カレッジとはスピード、パワー、システムも全く違うプロの世界に来て、いきなり活躍できるとは思えないからだ。
 あのペイトン・マニングだってルーキーのシーズンは3勝しかできなかった。1年目は実戦経験に専念し、翌年以降に成長すればいいのだ。


 ところがウェンツはそんな筆者の先入観を吹き飛ばすほどのインパクトがある。NFLの公式サイト「NFL.com」にもハイライト動画がいくつかアップされているのでぜひご覧いただきたい。


 何よりもパスを投げるフォームが美しい。スナップを受けた後、ポケットの中で基本に忠実なステップでセットアップする。スローイングの際の右腕はまるで鞭のように柔らかくしなり、その手から回転のかかった、緩やかなループを描くパスが放たれる。いわゆる「タッチのいい」パスで、レシーバーには捕りやすい。


 見事だったのは二つのTDパスだ。1本目はWRジョーダン・マシューズへの19ヤードTDパス。左スロットの位置からアウトサイドへのコースをとったマッシューズへオーバーショルダーのパスだ。
 後ろから追いかける形となったブラウンズのCBトラモン・ウィリアムズからは決して届かない位置にボールを落とした。


 これがオーバーショルダーではなく、マシューズが振り返ってキャッチしなければならないパスだったらウィリアムズにもパスカットのチャンスがあったかもしれない。しかし、エンドゾーンの奥にコントロールよく投げ込まれては名手ウィリアムズとしてもなす術がない。


 「実はこのプレーは数日前から狙っていた」とマシューズは言う。「僕がスロットからスタートして、相手がマンツーマンカバーなら使えるプレーだと思っていた。練習でも何度か試した。」
 このオフェンスシリーズは試合のオープニングドライブだ。ウェンツはNFL公式戦デビューの最初のオフェンスでいきなりTDパスを成功させたのだ。
 練習していたとはいえ、緊張感の高まる開幕戦で、相手のカバーを読み取る判断力とここしかないという絶妙のコントロールでTDを生んだ技量はルーキーとは思えない。


 二つ目はより長く、WRネルソン・アゴラーへの35ヤードTDパスだ。エンドゾーンへ駆け込む時間を稼ぐために浮かせ気味に投げたパスは、CBジェー・ヘイデンを振り切ったアゴラーの手に収まった。
 キャッチ地点がゴールラインギリギリだったため、もう少し奥に投げ込んだ方が安全ではあったが、それでもタイミングは絶妙だった。
 「試合で緊張することはなかった。レシーバーたちがいい仕事をしてくれた」とウェンツは先輩たちをたたえた。


 ウェンツの活躍にダグ・ピーダーソンHCは「何も驚くことはない。これが彼であり、彼のDNAだ。この試合に向けてカーソンは十分に準備していた。その姿はまるで5、6年目のベテランのようだったし、実際のプレーもそうだった」と、彼自身のHC就任後初勝利を送ってくれた新人QBを評価した。


 ウェンツはドラフト全体2番目指名でイーグルスに入団した。当初1巡8番目の指名順位だったイーグルスはブラウンズにトレードを持ちかけ、ブラウンズの2番目指名権を獲得した。
 今年と来年の1巡指名権のほか、今年の3、4巡、再来年の2巡をブラウンズに譲渡してのウェンツ指名である。ウェンツのデビュー戦がブラウンズで、そのQBが2012年のドラフト1巡2番指名のロバート・グリフィン3世だったのは何かの因縁か。


 まだ1試合を消化しただけで、これからはいろんなチームがウェンツ対策を立ててくる。その中でもブラウンズ戦のような活躍ができるかどうか。これからの成長過程がとても楽しみだ。

【写真】開幕のブラウンズ戦で華々しいデビューを飾ったイーグルスの新人QBウェンツ(AP=共同)