ペイトリオッツのエースQBトム・ブレイディに、開幕から4試合の出場停止処分が科されることが確実になった。
 2014年シーズンのAFC決勝でペイトリオッツが規定以下に空気圧を下げたボールを使用していたとされる、いわゆる「デフレートゲート」疑惑で、ブレイディはこれ以上の法廷闘争を断念し、処分を受け入れる意向を表明しました。


 「この1年半ほど、とてもつらい思いをした。そして、これ以上法廷で争うことはしないという苦渋の決断をした」と、ブレイディは自身のフェイスブックアカウントに書き込んでいる。法廷闘争からの撤退宣言である。


 ロジャー・グッデルNFLコミッショナーは昨年、「減圧されたボールの使用をブレイディ自身が認知していたと十分に考えられる」との調査結果に基づき、ブレイディの4試合の出場停止処分を決定。昨季の開幕戦から発効する予定だった。
 しかし、ブレイディはNFL選手会の支援を得てグッデル氏の決裁が無効であるとの訴訟を地裁に起こし、勝訴した。このため昨シーズンはブレイディへの処分はなく、全試合に先発出場したのだった。


 納得しないNFLは高等裁判所に控訴し、今春に逆転勝訴を勝ち取った。ブレイディとNFL選手会はこの裁定に不服を申し立てたが、先週になって却下された。
 ブレイディにはまだ最高裁判所に控訴して判断を仰ぐという選択肢が残っていたが、それを断念した形だ。支援してきたNFL選手会もブレイディに同調してこれ以上の抗戦は控えると発表している。


 「デフレートゲート」疑惑ではチームの設備担当者2人が直接関わっていたことが明らかになっており、ペイトリオッツは昨年100万ドルの罰金を科され、ドラフト指名権を二つはく奪された。
 最大の関心事はこの重大なルール違反をブレイディが認知していた、もしくはブレイディの指示によってなされたか否かであった。


 注意したいのは今回の裁定がブレイディの「デフレートゲート」への関与を証明したものではないことだ。裁判の争点は「NFLコミッショナーであるグッデル氏に、ブレイディに対する処罰を決定する権限があるか否か」だったからだ。裁判所は「権限あり」と判じたにすぎず、ブレイディの関与についてはそもそも係争事項にもなっていない。


 最高裁判所がブレイディの申し立てを聞き入れれば出場停止処分は一時凍結され、開幕戦は出場できる可能性があった。
 ブレイディがその選択肢をとらなかったのは、必ずしもブレイディとペイトリオッツに有利に働くとは限らないからだ。


 最高裁での係争がシーズン中に結審し、それがグッデル氏の裁定を支持する内容だった場合にブレイディの出場停止処分は即座に発行することになる。そのタイミングがシーズン終盤からプレーオフにかけての重要な時期となる可能性があるのだ。


 もっとも、それ以前に有識者によれば最高裁がブレイディの申し立てを聞き入れる確率は「ヘイルメリーパスよりも低い」という見方もあり、ブレイディの敗色は濃厚だった。
 今後の関心事は、この処分にペイトリオッツがどう対応するかだ。幸いなことにシーズンインまでに約2カ月の余裕があり、トレーニングキャンプやプレシーズンを通してブレイディ不在の事態に備えることは可能だ。が、簡単ではない。


 ブレイディのバックアップQBはジミー・ギャロッポロだ。2014年のNFL入りで、過去2年で11試合の出場記録があるが先発経験はない。パスは計31回の試投で20回成功しているが、昨年はわずか4試投で1回成功しただけだ。
 ペイトリオッツは選手育成には実績のあるチームであり、実戦経験の乏しい選手を起用しながらも勝ち星を挙げられる。


 2008年シーズンにブレイディが開幕戦で膝の靭帯を断裂してシーズン絶望となった時も、当時無名だったマット・キャッセル(現タイタンズ)を先発起用して、プレーオフこそ逃したものの11勝5敗の好成績を残した。
 これを考えるとギャロッポロを先発させることはまず間違いない。問題はその控えだ。現在ペイトリオッツに所属するQBは新人のジャコビー・ブリセットだけだ。経験のあるベテランQBの獲得が必要になるかもしれない。


 ブレイディ欠場の4試合をどう乗り切るかも課題だ。初戦はいきなりカージナルスと敵地で顔を合わせる。昨季13勝3敗でNFC決勝まで駒を進めたカージナルスは、今季のスーパーボウル候補の一角だ。
 続くドルフィンズ、テキサンズ、ビルズ戦はすべてホームだが、第3週は木曜日に試合があるためタイトなスケジュールとなる。同地区ライバルとの対戦が2回あるのも厳しい。


 もっとも、この4試合と中盤のベンガルズ、スティーラーズ、シーホークスとの対戦をしのげばそれほど難しいスケジュールではない。
 ブレイディ不在の間を最低でも2勝2敗で切り抜けられればプレーオフは十分に狙える。逆に4連敗してしまえばペイトリオッツといえども挽回は簡単ではない。


 ペイトリオッツは用意周到なチームだ。これまでにも逆境を克服してきた。ブレイディ不在はその中でも大きな危機に類する。それにどのように対処するのか。智将ビル・ベリチックの手腕に注目である。

【写真】2015年シーズン、レーベンズとのディビジョナルプレーオフ後にボールを掲げるペイトリオッツのQBブレイディ(AP=共同)