北米4大プロスポーツリーグの一つである、アイスホッケーのNHLが2017~18年シーズンからネバダ州ラスベガスに拠点を置くチームを発足させることが決まった。
 世界有数のカジノ都市であるラスベガスに4大スポーツのフランチャイズが誕生するのは、これが初めてだ。


 さて、そこで気になるのが同じくラスベガスにNFLチームが生まれる可能性だ。NHLチームの招致に成功したラスベガスが、絶大な人気を誇るNFLを次のターゲットにする可能性は十分に考えられる。
 実際に数カ月前にはラスベガスがレイダーズ招致の計画を進めているとの報道もあった。これは実現可能な話なのだろうか。


 レイダーズはかねてから現在のホームタウン、カリフォルニア州オークランドを離れてロサンゼルスに再移転したいとの希望を持っていた。
 しかし、2月のNFL会議でロス移転が認められたのはラムズだけで、レイダーズは少なくとも今季はオークランドに留まる。


 否決されたからといって、レイダーズが移転の希望を捨てたわけではない。そこに、資金豊富なラスベガスが新スタジアムを餌に招致を持ちかけるのは現実的なシナリオだ。
 ただし、NFLはギャンブルに対して異常なほどの警戒心を抱いている。それは、嫌悪といっても過言ではないレベルのものだ。


 他のスポーツと同様にNFLもアメリカでは賭けの対象となる。ラスベガスでのオッズがそのままチーム間の実力差を反映するものと考えられ、メディアもそれをしばしば引用する。
 例えば、2001年シーズンにスーパーボウルを制したペイトリオッツは戦前ではラムズに対して18点差の「アンダードッグ」との評判だった。つまり、18点以上の差をつけられてラムズに敗れると予想されていたわけだ。この予想はラスベガスでの賭けのオッズによる。


 試合そのものが賭けの対象になっても、選手をはじめとする関係者がギャンブルに関わることをNFLは厳しく戒めている。八百長につながる懸念があるからだ。
 ことにチームのオーナーについては厳格で、オーナーの手掛ける事業にギャンブルが含まれてはいけないことになっている。


 このルールがちょっとした騒動を生んだことがある。スティーラーズのオーナーで、NFLでも絶大な発言力と影響力を持つ「ルーニー家」がこの規則に抵触したのだ。
 スティーラーズは2008年ごろまで創設者アート・ルーニー氏の5人の息子たちが共同オーナーとしてチーム株の80%を保有していた。そのうちの一人が一般的に前オーナーとして紹介されるダン・ルーニー氏で、現在は息子のアート2世がオーナーを務める。


 実はスティーラーズはオーナーという言葉を使わず、オーナー業務の実行者を「代表」と呼ぶ。それは、ダン氏やアート2世の持ち株がわずか20%にも満たなかったからだ。
 ルーニー家はピッツバーグのあるペンシルベニア州だけでなく、アメリカ東海岸を中心に広く事業を展開しているが、その一つにニューヨーク郊外やフロリダ州での競馬事業がある。その競馬場にスロットマシンが設置されたことがNFLで問題視された。


 NFLは「スロットマシンがある施設はカジノとみなす」としており、スティーラーズの所有権を持つルーニー家がギャンブル事業に関わっていると判断されたのだ。
 規則を遵守するロジャー・グッデル現コミッショナーはこれを看過できなかった。とはいえ、NFLで絶大な力を持つルーニー家を処分すればその影響は計り知れない。そこで、前コミッショナーのポール・タグリアブー氏の協力を仰ぎ、問題の解決を図った。結局、ダン氏とアート2世が競馬事業を手掛ける他のオーナーから持ち株を買いとることに落ち着いた。
 これほどにNFLはギャンブルに対して神経質になっている。


 チームがラスベガスに本拠地を置くからといって、それがすなわちギャンブルと直結するとは言い切れない。オーナーがギャンブル事業に関わっていなければすむ話であり、現在もカジノが合法な州にフランチャイズを置くチームはいくつもある。


 しかし、使用するスタジアムや球団施設の設備費の一部をネバダ州やラスベガスが負担するとなれば、投入される公的資金にギャンブルによる収益金が含まれる可能性がある。これはNFLとしては受け入れがたい。


 チームの移転にはオーナーの3分の2の賛成が必要である。ギャンブルに関わる資金が投入される場合、移転が可決される可能性は低いのではないだろうか。
 可決という判断が下されれば、NFLはカネと引き換えに高潔さを捨てたと非難されかねない。


 巨額のお金が集まるラスベガスは、資金を必要とするスポーツ事業には魅力的だ。だが、財源を生むものがギャンブルである以上、その扱いには細心の配慮が不可欠だ。
 その配慮を欠いたときNFLは八百長の魔力に取りつかれ、その権威は地に堕ちる。ラスベガスは「禁断の果実」とも言えそうだ。

【写真】ラスベガスへの新チーム招致を発表するNHLのベットマン・コミッショナー(AP=共同)