前回のコラムで、NFLではオフ期間中の合同練習時間が意外に短いということに触れたが、それでも限られた日程でのミニキャンプやODA(チーム内合同練習)は現有戦力の把握のために欠かせない。


 コーチ陣は新人を含む新加入の選手の能力を見極め、新たな戦術、戦略の浸透具合やポジション争いの展開を踏まえて具体的なゲームプランを練り、7月下旬から8月上旬にかけて始まるトレーニングキャンプに備える。


 フィールド上でのアクティビティと同時に、未成立の契約交渉も最終段階を迎える。現在、注目されているのはスーパーボウルMVPのOLBボン・ミラーの去就だ。
 ミラーは2011年にドラフト1巡指名(全体の2番目)でブロンコスに入団し、昨季はチームの3度目のスーパーボウル優勝に大きく貢献した。スーパーボウルでは2.5サック、6タックル、2度のファンブル誘発を記録してパンサーズを封じ込めた。


 入団時に結んだ4年契約は昨季限りで満了を迎え、オフにフリーエージェント(FA)となったが、ブロンコスはすぐに「フランチャイズ指名」を行った。
 「フランチャイズ指名」とはFAとなった自チーム所属選手に、移籍のための高い条件を設定することで優先的な交渉権を確保することだ。


 指名を受けた選手は必ずしもFA移籍が許されていないわけではない。しかし、当該選手を獲得したチームは旧チームにドラフト1巡指名権を二つ譲渡しなければならないなど厳しい条件が付くため、事実上の独占交渉権と言っていい。 


 指名された選手は、同じポジションのNFL年俸トップ5の平均以上の年俸での1年契約が保証される。
 通常は3月のFA市場解禁時に「フランチャイズ指名」を行使し、7月までに交渉を続け長期契約を結びなおすというのが一般的だ。
 ただし、交渉がまとまらなければ選手は指名時に提示された1年契約でプレーするか、不服としてホールドアウト(チーム活動をボイコットすること)することになる。ホールドアウト中は契約違反となるので、年俸は支払われない。


 ミラーのようにトップクラスの選手ほどフランチャイズ指名を嫌う。なぜなら、長期契約を結んだ方が、数年の年俸の一部が保証されることになるからだ。
 過去にも故障や出場停止処分で長期欠場を幾度か経験したことのあるミラーは、来年以降の身分の保証がない1年契約ではプレーしたくないのだ。
 ブロンコスは逆の立場で、故障の懸念があるミラーに多額の年俸を約束したくない。


 この両者の隔たりは現在まで埋まることなく、交渉は難航していると伝えられる。報道によればブロンコスは先週、総額1億1450万ドルの6年契約を提示した。
 NFLの場合、年俸総額はそれほど意味を持たない。全額が保証されているわけではないからだ。故障欠場や、最悪の場合退団をした場合でも支払いが約束される保証年俸の多寡が選手の価値を決めると言っても過言ではない。


 ブロンコスが提示した契約では最初の2年に限り、計3850万ドルが保証されているにすぎず、契約の3年目は2017年シーズン終了後に初めて1950万ドルが新たに保証される。
 つまり、ブロンコスは初めの2年でミラーの健康状態を見ようと画策しているのだ。今後2年にわたって故障なくプレーできれば、3年目の保証年俸を定めようということだ。逆に故障などによる戦列離脱期間が長ければ、最初の2年でミラーを解雇もしくはトレードによって放出する可能性もある。


 当然ミラーはこの内容を不服として、契約書にサインをしなかった。たしかに、ミラーほどの実力の選手に対する保証年俸額は低い。
 現地メディアが比較の対象として挙げているのが、先にイーグルスと契約延長を済ませたばかりのフレッチャー・コックスだ。コックスは6年契約を結び、保証額は6300万ドルに及ぶ。契約期間は同じであるにもかかわらず、コックスはミラーよりも2450万ドルも多く保証されている。


 ミラーは最低でもコックス以上の保証年俸を約束されない限り、契約に合意しないだろう。ただし、残された時間は少ない。「フランチャイズ指名」の効力は現地時間7月15日までとされている。
 この期日までに長期契約を結ばなければ自動的に1年契約が成立してしまうのだ。


 つい先日、ミラーは自身のインスタグラムで「『フランチャイズ指名』のままでプレーすることはない」と宣言したばかりだ。
 これは納得のいく長期契約を提示されなければ、ホールドアウトも辞さないと述べたに等しい。チームに対する強烈なメッセージである。


 QBペイトン・マニングの引退や主力選手の流出により、スーパーボウル連覇への道は険しいと予想されるブロンコスだが、最大の課題はやはりミラーの去就だ。
 今後3週間でどのような解決策を見いだすのか。それは今季のブロンコスの行方を左右するものになりかねない。

【写真】昨シーズンのスーパーボウルでMVPに輝いたブロンコスのLBミラー(AP=共同)