NFLは意外なくらいに練習をしない。正確に言うと、練習することが許されていない。雇用主であるNFLと、雇われる側の選手を代表する選手会(NFLPA)の間で結ばれている労使協約で、年間の練習時間が細かく規定されているからだ。


 現行の労使協約は2011年に更新されたものだが、ヘルメットやショルダーパッドなどプロテクターをすべて装着して行うフルコンタクトの練習は夏のトレーニングキャンプまで禁止され、レギュラーシーズン中もフル装備の練習回数は制限されている。


 これはチームとしての公式練習に適用される規則であり、個人の自主練習に規定はない。ただし、チーム施設の使用に制約があり、またコーチが選手にトレーニングを強要することは許されない。
 協約が認めた練習期間を除いては、選手とコーチ陣が連絡をとることすら禁止されているのだ。


 すべては選手の権利と健康を確保するための措置なのだが、必ずしも選手がその恩恵を受けるわけではない。とくに、ヘッドコーチ(HC)が代わったチームや移籍して新しいシステムを学ぶ必要がある選手にとっては練習時間が限定されるのは迷惑な話だ。


 今の時期は各チームともミニキャンプやODAと呼ばれるチーム合同練習を行う。これは労使協約で認められている、オフの間の数少ない活動期間だ。
 通常3日間程度のもので、装備はヘルメットとショルダーパッドのみ。フルコンタクトは禁止されている。


 新たに就任したHCが公式に選手と対面するのがこのタイミングだ。ドラフトで指名された新人も初めてチームに合流する。そして、この短期間のうちに新たなシステムを導入し、それに沿った練習メニューがこなされる。
 しかし、フルコンタクトのない短時間の練習でシステムを習得できるはずはない。新HCを迎えたチームにはミニキャンプの日程延長が認められてはいるが、十分ではないだろう。


 戦力に大きな影響を及ぼす先発QBが決まっていないチームにとってこの問題はより深刻だ。日本でも知名度の高い49ersがまさにその状況にある。
 49ersは今季、新たにチップ・ケリーをHCに迎えた。ケリーHCは昨季途中までイーグルスの指揮官を務めた人物で、カレッジではスプレッドフォーメーションとクィックパスによるスピーディーなオフェンスでオレゴン大学をNCAAの強豪に育て上げた。


 しかし、ケリーのオフェンスシステムで重要なQBが決まっていない。2012年からスターターを務めたコリン・キャパニックはパスが不得手で、昨季途中にブレイン・ギャバートにポジションを奪われた。
 キャパニックはこのオフに自らトレードによる放出を希望するなど、首脳陣との確執が表面化している。チームのミニキャンプに参加し、先発QBの座奪回への挑戦を明言したキャパニックだが、依然として放出の噂が絶えない。チーム構想からすでに外れているのではないかとさえ思えるのだ。


 皮肉なことに、ケリーHCのオフェンスにはギャバートよりもキャパニックの方がフィットする。キャパニックは大学時代からオプションプレーを得意とし、49ersでも自慢の脚力でファンを魅了してきた。
 QBの機動力はケリーHCのアップテンポなオフェンススタイルには必須で、その点でキャパニックはポケットパサーのギャバートに優る。


 ところが、肝心のキャパニックにチームへの残留の意思が薄いとなれば話は別だ。49ersはギャバートを中心としてチーム作りを始めている。そして、限定されたわずかな練習機会でキャパニックが自分をアピールするチャンスは多くない。


 先発QBが決まらないチームはそれだけでスタートが遅れる。来月から始まるトレーニングキャンプとプレシーズンゲームでも、スタートラインは他のチームよりずっと後ろになるのだ。こうしたチームがレギュラーシーズンでいい成績を残す可能性は限りなく低い。


 労使協約は選手側の権益を守るためのものだ。しかし、チームの戦力向上に寄与するものでなければ改善の必要もあるだろう。そうした声が選手側から上がってきてもいいのではないだろうか。

【写真】放出の噂が絶えない49ersのQBキャパニック(AP=共同)