NFLの各チームが、ドラフト1巡で指名したQBを先発として起用するタイミングは、時代とともに変わってきた。10年ほど前までは焦らずにじっくりと育成し、1年目のシーズン半ば以降に投入するチームが少なくなかった。
 現在までに二人のスーパーボウル優勝QBを輩出している2004年のドラフト組はその傾向が強かった。


 07年と11年にスーパーボウルMVPに輝いたイーライ・マニング(ジャイアンツ)は、新人の年の後半からポジションを与えられた。スーパーボウルに3回出場して2回の優勝を経験しているベン・ロスリスバーガーは4試合目でスターターとなったが、これはスティーラーズの当時の先発QBトミー・マドックスが故障欠場したためで当初のプランでは1年目での出場予定はなかったとされる。
 フィリップ・リバースはチャージャーズの先発QBとなるまで丸2年をバックアップとして過ごした。


 最近では、開幕から先発起用をする前提で準備を進めるのが主流だ。昨年の1位指名のジェーミス・ウィンストン(バッカニアーズ)とマーカス・マリオタ(タイタンズ)もそうだったし(奇しくも二人は開幕戦で対戦)、アンドルー・ラック(コルツ)、キャム・ニュートン(パンサーズ)らも実戦の中で経験を積んできた。


 新人QBを開幕から投入するにはそれなりの覚悟と準備が必要だ。大学時代に素晴らしい実績を残したQBですらNFLのスピードとパワー、戦術の複雑さに圧倒される。
 ラックのように1年目からチームをプレーオフに導くのは稀有な例だ。だから、チームは勝敗よりも新人に経験を積ませることを優先させる。


 昨季限りで引退したペイトン・マニング(1998年にコルツからドラフト1巡1位指名)はこれが成功した例で、1年目こそチームは3勝どまりだったが翌年からプレーオフの常連となり、マニングも稀代の名パサーに成長した。


 新人が活躍できる環境を整えることも大切だ。QBに余計な負荷をかけないオフェンス戦術の構築、有能なレシーバーの確保、OLの整備などだ。そして、ルーキーにNFLのいろはを教えつつ、ポジション争いも演じられる先発QBの存在も不可欠だ。


 その意味ではイーグルスが昨年の先発QBサム・ブラッドフォードを慰留したのは理にかなっているように見える。
 イーグルスは今年のドラフト1巡でノースダコタ州立大学のカーソン・ウェンツを指名した。ウェンツも開幕からの先発出場が期待される新人だ。
 しかし、ブラッドフォードの慰留に2年で総額3600万ドル(保証額は2200万ドル)を払う契約は必要だっただろうか。


 イーグルスはウェンツとの契約(期間は4年)に約2700万ドルを投じた。これだけでなく、ウェンツのバックアップ用に獲得したチェイス・ダニエルには3年間で最大2100万ドルを払う契約だ。QBだけで8400万ドルを投資している。
 もちろん、契約は途中解除もあるので全額が支払われるとは限らないが、総額の6、7割は保証額として支払い義務が生じる可能性がある。


 ブラッドフォードは、イーグルスがトレードアップしてまでウェンツを指名したことと先発の座を約束されない待遇を不満とし、練習をボイコットする行為に出た。トレードによる放出も志願したが、結局は「取引相手」が見つからずに契約書にサインして残留するしか選択肢がなかった。
 かつてのハイズマントロフィー受賞者で、10年の全体1位指名であるにもかかわらず、ブラッドフォードのトレードが不調に終わったのは彼の健康状態に不安があるからだ。


 13、14年に2年連続で膝の靱帯断裂という重傷を負い、この間にわずか7試合にしか出場できなかった。ラムズからイーグルスにトレード移籍した昨年もパサーレイティングが90に及ばないなど安定性に欠けた。
 イーグルスにはブラッドフォードをスターターとして起用する気はさらさらない。あくまでもウェンツが先発起用できると判断できるまでのつなぎ、もしくは彼の教育係でしかない。


 仮にブラッドフォードを今季限りで解雇したとしても保証額は支払い義務があるので、実質の年俸は2200万ドルとなる。これは、QBとして最高年俸のジョー・フラッコ(レーベンズ)に並ぶ額だ。お払い箱が確実なQBとしては破格の厚遇だ。


 ウェンツの育成がかりであればブラッドフォードでなくてもよかったはずだ。イーグルスはブラッドフォードに払う額を他のポジションに回すべきだった。
 イーグルスは引き続きブラッドフォードのトレード先を探すだろう。今後、キャンプやプレシーズンで先発予定のQBが故障するチームがあれば、猛烈に売り込みをかけるに違いない。それがうまく運べばいいが、またも不調に終われば、ブラッドフォードに払うサラリーがイーグルスの再建の障害となりかねない。

【写真】新人の教育係としてイーグルス残留が決まったQBブラッドフォード(AP=共同)